インタビュー

2025.08.23

  • さすらいの女神(ディーバ)たち
    「さすらいの女神(ディーバ)たち」を引っさげ来日
    現代フランス映画界を背負って立つ、マチュー・アマルリックにインタビュー!

 

「潜水服は蝶の夢を見る」や「007/慰めの報酬」など、今や世界的に活躍するフランス人俳優のマチュー・アマルリック。フランス映画好きには「そして僕は恋をする」などアルノー・デプレシャン作品の常連として人気だ。だが、実はもともと監督志向が強く、長編4作目になる「さすらいの女神(ディーバ)たち」で2010年、第63回カンヌ国際映画祭の最優秀監督賞を見事受賞した。マチュー演じる落ちぶれたTVプロデューサーが、再起を目指してショー・ダンサーの一団を引き連れてフランスで巡業する姿を通して、人生の悲哀を浮き彫りにしたロード・ムービー。来日した彼に、作品への思いを直撃インタビューした。

 

●作品紹介


「さすらいの女神(ディーバ)たち」

9月中旬公開

 

テレビ業界で成功したプロデューサーだったジョアキムは、トラブルから家族も友人も捨てアメリカに渡った。数年後、ストリップのバーレスク・グループを引き連れてフランスへ凱旋。各地を巡業しつつ、パリで最終公演を行うべく奔走するが、なかなかうまく行かない・・・。

 

 

見た目が完璧な女性なんていない

 

―カンヌで受賞されたとき、出演したダンサーたちと一緒にステージに上りましたね。

 

 

マチュー・アルマリック(以下アマルリック)「あの時は、もう頭が真っ白だった。正直、自分がどんな賞を獲ったかわからず、とにかく、みんなで賞を得たことを喜びたいと思ったから、みんなでステージに上った。本当はあと2人、ステージに上げて一緒に喜びたい女性がいたんだよ(笑)」

 

―この映画を「女性たちのために作った」という話も伝わっていますが?

 

アマルリック「とんでもないよ、僕はそんな偽善者じゃない。僕は、”男である僕から見た女の世界”というものを女性たちが観たときに、そこに何かを見いだしてくれるんじゃないかと思ったんだ。そして、主人公であるジョアキムがとても個性的な体をもつ女性たちの中で孤立していき、孤軍奮闘する中で、結局彼女たちに圧倒されて、男性としての自信も見失う。そんな姿をちょっとからかって描いてもいるんだ」

 

―個性的な体をもつ女性とおっしゃいましたが、ダンサーたちはセクシーでゴージャスなショーで観客を魅了します。そんな彼女たちは決して若くもないし、スタイルも崩れている。けれど、彼女たちはパワフルで自信に満ちていますよね。

 

アマルリック「そうなんだ。そこにこそ、この映画の哲学があるんだ。現代社会は、完璧な肉体や完璧な美というものを求めている。それに対するアンチテーゼとして、彼女たちが闘っているんだ。そもそも人生で完璧な女性と生きることなんてできないし、そこがまた人生のいいところだし、女性は年を重ねることで美しくなる。だから、見た目の美しさだけで人はひかれたりしない。そこがミステリアスで、男女関係の理解を超えたところなんだよ」

 

―演じられたジョアキムには自分自身を投影しているんですか?

 

アマルリック「シナリオは非常に長く時間をかけて、何稿も何稿も書いた。その時は自分が演じるとは全くの想定外だった。ジョアキムのモデルは僕が一緒に仕事をしているプロデューサーだったし、彼にジョアキムを演じてもらおうと思っていたほどだ。ところが、僕が演じることになり、どうアプローチしようかと考えて、まずヒゲを生やして、髪型を変えて、実生活では絶対着ないようなスーツを着たり、ちょっとプロデューサーっぽい仕草や女性に対するぞんざいな物言いをしてみたり、普段の僕は絶対にやらないことばかりやってみた。でも、ジョアキムみたいにフランスを捨ててアメリカに行っちゃうなんて、やってみたいけどやれない。だから、ジョアキムに僕の憧れの部分を投影しているかもしれないね」

 

―あなたは、「そして僕は恋をする」をはじめ悩み多い男を演じてきたと思いますが、今回のジョアキムも悩み多き男ですね。

 

アマルリック「確かにジョアキムはたくさんの問題を抱えている。映画の中では3日間の時間が流れているけれどその中で、彼がどんな悩みを抱えているのか、彼の過去を少しずつひもといていくようなストーリー展開にしている。彼がパリに行く理由も、パリでの公演をやるはずだった劇場がなくなったから解決しに行くのだけれど、行けば、それだけではなく彼には子供がいて、その子たちとはずいぶん会っていないようだ・・・と、ジョアキムの日常は悩みでいっぱいなんだよ。実は編集のときに、演じている自分を見て驚いたことがあった。今回の撮影は本当に楽しくてたまらなかった。それなのに、映像には絶望的なジョアキムの内面が浮かび上がっていたのに驚いたんだ。しかも、この映画を見た僕のパートナーから、『でも、普段のあなたもこんな感じよ』と言われて、もっと動揺したよ。『あなたは一緒にいて難しいタイプよ』って。『僕が愉快じゃないってどういうことだ』と言い返したけどね(笑)」

 

映画に至る着想は日常のささいなこと

―アマルリック監督は映画を撮る上で、最も大切にしていることはどういうことでしょう?

 

アマルリック「全てを大切にしている。だから問題なんだ。何千という問題が映画の中にあるから、うっかりするとその中に自分が溺れそうになる。そこで肝に銘じているのは、このシーンは何を語りたいんだろうか、このシーンの意味は何だろうということを絶対に忘れてはいけなんだ。すでに撮ったショットとこのシーンがどう呼応してくるのかと考えなきゃいけない。そして、これから撮るショットとどう関係してくるかも考えなくてはいけない。必ずしも時系列で撮ってるわけじゃないですからね」

 

―今回の映画で、とくに力を注がれたことは何でしょう?

 

アマルリック「全ての可能性を脚本の段階で書き込むことに時間をかけたんだ。つまり、映画ではジョアキムの過去や、なぜ彼がフランスを捨てたのか、どうやって彼女たちと出会ったのか、何時何分の汽車に乗ったのかとかは描かれない。だけど、そうしたことを全て脚本に書き込んでおくことによって、撮影現場で感覚も研ぎ澄まされていく。だからこそ、観ている人たちにシナリオがないような、ちゃんと演出されてないような、そしてドキュメンタリーっぽいような作品という印象を与えることができたと思うんだ」

 

―今後、映画監督としてどんな映画を撮っていきたいですか。

 

アマルリック「これを映画にしたいと思う着想点というのは、実はほんのささいなことなんだ。読んだものや、見たもの、誰かと話したことや何かで傷ついたこととか、そんなちょっとしたアイデアがいろんなものと反応し合って、生まれてくる。まるで漏斗みたいな感じで、アイデアが段々と集約されてくる。最初はコラージュに似ているかもしれないね。時には全く相反する矛盾したものなのに、そこからテーマが生まれてくることもある。今は、(フランス国立学校で製作を教えているので)、演劇の学生たちと実験的な芝居を作ったり、アート系の学生たちが作品を作るのを見ていて自分自身も作ろうと思ったり。いろいろなことを並行して行なっているんだ。実は今、ジョン・ゾーンというフリー・ジャズ・ミュージシャンのドキュメンタリーを撮っているんだ。彼は親日家で、90年代に東京の高円寺に住んでいた。それで今回、彼のことを知るミュージシャンの巻上公一と高円寺に行ってきた(笑)。作品を思いついた瞬間ってとても心地いい時なんだ。これから2年ぐらいは構想練って温めて・・・。幸せな時を過ごす。それはまるで誰かと出会ったときと同じ。一夜だけで終わることもあるけれど・・・、たまには子供を一緒に作る関係にもなる。それと同じさ(笑)」

 

取材・文/前田かおり

 

 

●プロフィール

マチュー・アマルリック
1965年、仏・パリ近郊のヌイイ=シュル=セーヌ生まれ、アルノー・デプレシャン監督に俳優の素養を見いだされて、「そして僕は恋をする」(’96)、「キングス&クイーン」(’04)などに出演。フランス国内だけでなく、スティーヴン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」(’05)、「007/慰めの報酬」(’08)などハリウッド映画でも活躍。他、’07年の「潜水服は蝶の夢を見る」での熱演は記憶に新しい。映画監督としては「スープをお飲み」(’97)、「公共問題」(’03)など



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