インタビュー

2025.10.02

  • だいじょうぶ3組
    乙武洋匡 インタビュー

 

ベストセラー「五体不満足」の著者、乙武洋匡が、みずからの小学校教師体験を基にした自伝的小説を映画化した「だいじょうぶ3組」がBD&DVDリリース。本作で、新任教師の役で俳優デビューした乙武が、廣木隆一監督や生徒役を務めた子役たちとの現場での裏話から、今回リリースされるセル版ソフトの特典映像としても収録されている台湾キャンペーンまで、とっておきの話を語ってくれた。

 

■作品紹介

「だいじょうぶ3組」

10月11日レンタル&10月25日発売
発売元:講談社/電通 販売元:東宝
ブルーレイ&DVD(本体価格 BD\5700/DVD\4700)
監督/廣木隆一
出演/国分太一 乙武洋匡

 

新学期を迎えた東京郊外の小学校、5年3組に生まれつき四肢をもたない新米教師、赤尾(乙武)が赴任してくる。赤尾の傍らには補助教師、白石(国分)の姿があった。幼馴染であり親友でもある2人は、白石が赤尾をサポートすることを条件に特例採用されたのだ。2人は、授業や行事を通し、子供達とともに成長していく。

 

演じるというよりも、新しい学校に赴任すると思って挑みました

 

――俳優デビューを飾られたわけですが、率直な感想はいかがですか?

 

乙武洋匡(以下乙武)「本当に、普通に人生を送っていたら絶対にできない貴重な経験をさせていただいた、という感謝の気持ちでいっぱいですね。そもそも、自分が出演するつもりはなかったんです。原作を書いていたときも、『映像化されたらいいな』なんて思っていましたけど、いざ映画化されると決まったときも『今はCG技術が進んでいるから、プロの役者さんが演じて、CGで処理できるんだろう』なんてタカをくくっていたんです。でも、『それはできません』と。撮影に臨む前は、すごく不安でした。どうしたらいいのかなと思っていたんですけど、悩んでいてもしようがないから、『演じる』というよりは新しい学校に赴任して、新しい子供たちを担任すると思って挑んだほうがいいのかなと開き直ったんですね。それがよかったのかなという気はします」

 

――なるほど、作品を見ていると実際に生徒と教師がやり取りしている。教室を覗いているような感覚になりました。演技をしているというよりはとても自然な感じがしますね。

 

乙武「それはうれしいですね。実をいうと、セリフを覚えないようにしたんです。あ、こういう言い方をすると怒られちゃいますね(笑)。でも、セリフを一字一句間違えないように暗記しようとすると、いざセリフを言おうとしたときに棒読みになると思ったんです。とくに、僕の場合、演技経験がないですから。だから、各シーンで、そのときのセリフを言っている『感情』をインプットするようにしていたんです。つまり、『このときにはこういう気持ちでセリフを言う』ってことだけを頭に入れておこう、そこさえ間違えなければ、ことばのチョイスが台本とは多少違っていても…大丈夫かなって(笑)。そんな気持ちでいたので、自然にやれたのかなと思います。もしもセリフを一字一句間違わないように言わなくちゃと思っていたら、もっとぎこちなくなっていたと思います」

 

――初めて演技をしてみてどうでした?

 

乙武「クランクインが1月だったんですが、12月に廣木監督にワンシーンだけやってみようと言われてやらせていただいたんですよ。ところが、実は僕、ふだんからすごいオーバーアクションなんですね。自分ではそれが普通なんですけど(笑)。だから、監督に「普通にしていいよ」って言われても、どうしてもオーバーアクションになっちゃう。僕にとって、暗く、ぼそぼそつぶやくように話すイメージだと他の人から見るとちょうどいいみたいで。ふだんの僕を知っている人が見たら、演技をしているときの僕は、『なんでこんなに不機嫌なんだろう…』と思われるほど。つまり、ふだんの僕がいかに激しい人間かということがわかったんですよ(笑)」

 

――自伝的小説をベースにしたストーリーですが、正味、脚本の何割ぐらいが事実なんでしょう。

 

乙武「原作の小説は8割から9割が実際にあったことを基に書いてます。ただそれぞれのエピソードの着地点は物語にするためにいじっている部分はあります。映画のストーリーで事実に基づくのは、60%ぐらいですね。自分の作品が映像化されるのは初めてだったので、不安な部分もあったんですけど、脚本の第1稿があがってきたときに、自分の伝えたいメッセージをしっかり伝えていただける作品になると確信できたので、原作者として脚本に対しての注文はありませんでした」

 

1年を通じての子供たちの変化や成長を見てほしいですね

 

――具体的に、この作品でどういったメッセージを伝えたいと思っていますか?

 

乙武「やはりクラスの子供たちの変化や成長には注目していただきたいですね。僕と子供たちの出会いは、それが本当の初対面になるようにという監督の強いこだわりで、最初に撮っているんです。撮影に入る前、あらかじめ顔合わせや挨拶もしてません。僕がガラガラっと教室の扉を開けて入っていくシーンが本当の出会いでした。だから、彼らが僕の体を見て、はっと息を呑む、あれは演技ではなくリアルな表情なんです。そこから僕との関係性が次第にできてきて、彼らも僕の体を見慣れてきて、少しずつ心を開いていって、最後には何とか自分たちの力で先生を遠足に連れて行きたいと思うまでになる。そうした1年間を通じての子供たちの変化や成長は、小説よりもさらに感じ取れるのではないかと思います」

 

――数々のすてきなシーンがありますが、撮影した中でいちばん印象深いのは?

 

乙武「子供たちとサッカーをするシーンがあるんです。その日、午前中までずっと雪が降っていて、雪交じりの校庭で2、3時間、お尻をずっと地べたにくっつけていたので、お尻がしもやけになるんじゃないかと思いました(笑)。しかも廣木監督がドSなので、『きれいにゴールが決まるまで止めないからね』って。おかげで子供たちとの結束力が強まりました。ゴールが決まった瞬間、彼らとハグするんですけど、ゴールが決まった喜びというよりは『これでやっと撮影が終わるね』っていう(笑)」

 

12、3年前に行った台湾の人々との再会にジーンときました

 

――特典映像として、作品公開時に行なわれた台湾プロモーションが収録されていますね。

 

乙武「今年の5月、台湾で公開されることになって。4月にキャンペーンで台湾に伺ったんです。僕等としてはいい作品ができたという自負はあるものの、海を越えて受け入れてもらえるのか、海外の方にどれだけメッセージが届くのか不安な部分はあったんです。ところが、その不安が一掃されるほどの熱烈な歓迎ぶりで。その映像を見ていただくだけでも、この作品がいかに海外でも受け入れていただくことができるのか、共通性をもったメッセージなのか、実感していただけるのかなと思います。だから特典映像では、僕というよりは、温かく迎えてくださった台湾のみなさんに注目していただきたいですね」

 

――台湾でのプロモーションでの思い出は?

 

乙武「台湾には以前にも何度か行ったことがあるんです。最後に行ったのは12年前かな。驚いたのは、今回、『だいじょうぶ3組』の記者会見が終わると、何人かの方が壇上に上がってきたんです。しかも、それぞれ手に写真のパネルのようなものを掲げている。じつは、過去に僕が台湾を訪れたときにいっしょに写真を撮った方たちが、そのときの写真をパネルにして持ってきてくださったんです。小学生ぐらいだった女の子が素敵なお嬢さんになっていたり、僕と同世代で、以前会ったときは20代ぐらいだった女性が、もうお母さんになっていたり。初めて訪れたのは、もう14年ほど前ですけど、台湾のみなさんとの絆のようなものを感じることができたし、そうした方々がまた今回、こうして映画を通してメッセージを受け取ってくださったというのは、本当に感慨深いものがありますね」

 

――台湾では熱烈なファンの方たちがたくさんいるんですね。

 

乙武「もう10年以上も前の話ですけどね、日本でいう『明星』みたいな台湾のアイドル雑誌があるんですけど、『顔がかっこいいと思う芸能人』というランキングで、1位の堂本光一さんに次いで、2位にランクインしたこともあるんですよ(笑)」

 

――アイドル並みの人気だったんですね。

 

乙武「日本でも、『元気をいただいています』とか『尊敬します』などと言っていただく機会はあるんですが、黄色い声援を浴びることなんてまずないので新鮮でした。以前に台湾の女子高か女子大の学園祭に呼んでいただいたんですけど、きゃあきゃあ言われるんですよ(笑)」

 

次は悪役というのもおもしろそうですね。たとえばまさかの真犯人役(笑)

 

――ところで、今回の俳優デビューで、今後も演技を続けてみたいといった欲が出てきたのでは?

 

乙武「もともと僕が何故、『五体不満足』という本を出したかというと、障害者ってこういう人だよね、という固定概念を打ち破りたいという思いが強くあったんです。障害者というのは気の毒であり、不幸な存在であるという固定概念に対して、『いやいや、こうやって楽しく生きている障害者もいるよ。僕は少なくとも幸せだよ』と言うことを自分を例にして伝えていきたいと思っていた。そういう意味で、世の中には、まだまだ障害者というのは善人であるというイメージが強くありますよね。たとえば、オリンピックにも出場した義足のランナー、オスカー・ピストリウスが射殺事件を起こした…。まだ裁判中なので白か黒かわかりませんけど、一般の人はこの事件に衝撃を受けたと思うんですよ。障害者である彼があんなに頑張って努力して、オリンピックにまで出場したのに、あんなことを起こすなんて考えられないと。でも、障害者だっていい奴もいれば、そうじゃない奴もいる。それは健常者だって同じでしょ。だから、もしも今後、また俳優をやる機会があったら、悪役ができたらおもしろいなと。たとえば、刑事もので、僕が真犯人なんです。誰も車椅子に乗った障害者が犯人だとは思わないでしょ。オファーされたら? もちろん受けます、受けます(笑)。ただひとつ問題があって、僕には手錠がかけられないんですよ。どうするんでしょうね(笑)」

 

乙武洋匡 おとたけ・ひろただ
1976年、東京生まれ。四肢のない障害をもって生まれた自身の体験を綴った著書「五体不満足」が500万部を超える大ベストセラーに。早稲田大学卒業後は、スポーツライターとしてシドニー五輪、アテネ五輪など数々の大会を現地で取材。 ‘05年4月からは東京都新宿区教育委員会の非常勤職員「子どもの生き方パートナー」として教育活動をスタート。’07年2月には小学校教諭二種免許状を取得し、同年4月から、‘10年4月まで東京都杉並区の公立小学校で教諭として勤務。現在は、ナチュラルスマイルジャパン株式会社の取締役として、地域との結びつきを目指す「まちの保育園」の運営に携わるほか、‘13年2月には東京都教育委員に就任。主な著書に、『だから、僕は学校へ行く!』『オトタケ先生の3つの授業』(以上、講談社)『オトことば。』(文藝春秋)など。

 

取材・文/前田かおり

©2013「だいじょうぶ3組」製作委員会



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