インタビュー

2025.09.11

  • Miss ZOMBIE
    SABU監督&小松彩夏 インタビュー

 

2002年、ベルリン映画祭NETPAC賞を受賞した「幸福の鐘」以来、約10年ぶりに完全オリジナル・ストーリー作品を完成させた監督SABU。そのモチーフは、何とZOMBIE(ゾンビ)。しかも初めて女優を主役に! 栄えある映画初主演を果たしたのは、これまでの可憐なイメージを180度覆した小松彩夏だ。新たなチャレンジを終えた2人の対談をお届けしよう。

 

■作品紹介

「Miss ZOMBIE」

9月14日公開
ライブ・ビューイング・ジャパン配給
監督・原案・脚本/SABU
出演/小松彩夏 冨樫真 手塚とおる 大西利空 駿河太郎 芹澤興人 山内圭哉

 

生きているのは私たちか、彼女か?
平穏だった寺本家に、大きな荷物が送られてくる。中には「肉を与えるな」という取扱説明書と拳銃、そして檻の中に若い女がうずくまっていた。沙羅と名付けられた女は、人間を襲うことのない種類のゾンビで、その日から一家の下僕として働くことになる。近所の人々や使用人に迫害されるなか、寺本の妻、志津子と幼い息子、健一は彼女に優しく接する。そんなある日、健一が溺死。志津子は沙羅に健一をゾンビとして蘇らせてほしいと懇願する。沙羅は健一の首に噛み付くが、彼女の脳裏にある記憶が甦る。

 

沙羅というヒロインは、高級なゾンビ

 

――小松さんの主演は、プロデューサーの方からの推薦で決まったそうですね。

 

SABU監督(以下監督)「ええ。失礼ながら最初は『どんな人が来るんだろう』と思っていたんです。で、いざお会いしてテストで演じてもらったら、めちゃくちゃデキる女優さんでビックリしました。台本の理解力も申し分なく、走り方ひとつとっても俺のすごい好きなスタイルだったんですよね。台本上にもそう書いてはいたんですけど、だんだんと前傾し、獲物が目の前にいるのを捕らえるような…そんな雰囲気の走りをリハーサルから見せてくれたので、沙羅という役を任せられました」

 

小松彩夏(以下小松)「あまりほめられ慣れてないので、とてもうれしいです! 走り方はふだんの私とは違うんですが、沙羅を演じるにあたって、自然と気持ちでそうなっていたのかもしれません」

 

――タイトルの「Miss ZOMBIE」はどんな発想で付けられたんですか。

 

監督「どっかで、ミスゾンビのコンテストでも行なわれていたんでしょうね(笑)。いやまあ、“Miss”と“ZOMBIE”という真逆なことばをかけ合わせるとおもしろいかなって。それと、俺のなかでは沙羅は、高級なゾンビなんですよ。裕福な寺本家の下女として働くことになるけれど、精神は誰よりも高級なんです」

 

小松「よく聞かれます、『ゾンビのコンテストで1位だったの?』って(笑)。タイトルだけだとコメディと間違われる方もいるみたいで。私自身も台本を読むまではどんな作品か、まったく想像がつかなかったですね」

 

監督「ゾンビ映画のイメージで見にきてくれたお客さんを、いい意味で裏切り、満足させて劇場をあとにしてしてもらおうと。そういう心意気でつくりました」

 

――なるほど。監督からのサジェスチョンで大変だったのは?

 

小松「ホン読みの段階から歩き方に関しては指示がありました。歩き方が私、普通すぎたみたいで、『モデルさんみたいな歩き方をしてる』って。撮影に向けて家までの帰り道、すり足で帰って練習しました。ちょっと道行く人に怪しい目で見られました(笑)」

 

監督「前に住んでたところでね、夜中に、コンビニに買い物に行ったら暗闇からザザザって音が聞こえてきて驚かされたことがあって。見たら、イヌを散歩させてる白のワンピースを着た、近所の人で。そのとき感じた怖さはザザザという音の力も大きかったんですね。それで沙羅のすり足のザザザという音を強調してみたんですよ」

 

――撮影期間は5日間と半日。合宿状態で挑んだ感じですか。

 

監督「そうですね、静岡のほうで」

 

小松「いいロケーションでしたよね。ホテルのカーテンを開けると、目の前が富士山で、朝、気持ちよく起きれて」

 

――起きて現場に行き、あの下女の扮装と汚れたメイクをして、ご自身の気持ちをどんどん沙羅という役に近づけていく日々だったと。

 

小松「はい、メイクだけで2時間近くかかるので、そのメイクをしてもらっている間に沙羅になっていく毎日でしたね」

 

ゾンビ映画のイメージを、いい意味で裏切る作品に

 

――ゾンビである沙羅を軸に、劇中、展開していく人間関係が痛々しいですね。

 

監督「自分より弱いもの、異質なものに対して、上から目線で酷いことをする人たちっていますからね。唯一の希望の光は、愛、あるいは母性であって、それをゾンビを通して、より明確に描くことができました」

 

小松「沙羅が人間だった頃の、母親の記憶があったからこその結末が映画には待っていて、その母性は演じるうえでとても大きかったですね」

 

監督「ゾンビって世界共通ですけど、母性もそうなので、海外の方々が見てもわかってもらえるかなと思います」

 

――ゾンビ映画に興味は?

 

小松「わりと怖い作品が好きなので、ゾンビ映画も何本か見ています。この作品に入る前に、あらためてゾンビ映画を勉強したほうがいいのかなと思い、監督に聞いたら『見なくてもいいよ』と言われまして」

 

監督「いわゆる“ウォーキング・デッド”的な動きに影響されても困るなって。沙羅はもっと人間に近いので、そのへんの微妙なバランスが重要だったんですよ」

 

――下女として床を拭いたり、人間を襲わず、日常生活を営んでいる。

 

監督「ちょっと奴隷的な存在なんですね。寺本家の撮影に使わせてもらった屋敷がゴシック調でとてもよく、舞台のセットのように見えて、沙羅とシンデレラが重なる瞬間もありました」

 

 

――寺本家の主人を演じた手塚とおるさん、怪しいですねえ(笑)。だんだんと沙羅のことを女性として見るようになる。挙句の果てに、自分の部屋に連れ込んで…。

 

小松「手の動き、ひとつひとつが生々しかったですねえ」

 

監督「よく頑張ってくれました。ちょっとね、フランス映画とかに出てきそうな、パトリス・ルコント的なエロティックさを醸し出したかった。光と影でうまくキレイに見せようというのは今回のテーマでもありました」

 

小松「エロティックなシーンほどキレイに撮っていただけたので、うれしかったです。倉庫で弄ばれるところも、画は暗いんですけど、ときどき差し込む光が美しく、上からラメを振って、照明に当たってキラキラと光り、とても好きなシーンになりました」

 

――では、今だから言える「監督、これはキツかったです」というシーンは?

 

小松「どこでしょう…やっぱり走るシーンはけっこうキツかったですね。終盤はずーっと走っていました。寒いなか、裸足で走らなければいけない設定も多かったので」

 

監督「確かに、走りは大変でしたよね」

 

――でも、弱音なんか、はかない。

 

監督「そう、全然」

 

小松「たぶん私、ちょっとM体質なんだと思います(笑)。過酷な現場が好きみたいで、現場にいるときは当然、キツさを感じるんですけど、今振り返ると楽しかった記憶しかなくて、もっともっと過酷にしていただきたい気持ちも…」

 

監督「よし、いいことを聞いた(笑)。いや、走るのは僕は一作目(=「弾丸ランナー」)からやっているんですが、ある程度限界を越えたら、役者は芝居的にも限界を越えていくんですよ。だから俺もね、そこは鬼にならないといけない。だいたい俺がカットをかける前に、役者さんが『すみません…』って立ち止まる場合が多かったりする。走るシーンって、カメラマンと役者の息がぴったり合ってくるのはどうしても何回かやってからなんです。だから結局、通常の3倍くらい回すことになる。だんだんよくなるのでつい撮りたくなってくるんですね、『次の電柱までお願いします』なんて」

 

小松「セッティングされたカメラの周囲をひたすら走りました。もう何週走ったのかわからないほど、目が回るくらいに」

 

――「弾丸ランナー」では若き堤真一さんも走りまくっていましたね。

 

小松「はい、私も堤さんに続きたくて、頑張りました!」

 

――SABU監督らしいドラマ性も見どころで。

 

小松「そうですね、先ほどSABU監督もおっしゃっていましたが、ゾンビ映画のイメージで見にこられたお客さんを、いい意味で裏切る作品になったと思います」

 

――小松さんの女優イメージも更新した映画です。

 

監督「普通にキレイな小松さんはいろんなところで見られますから。でもある意味、『こっちのほうがキレイだ!』と言えるカットがたくさんあります。つくられた美、ではなくてね。寺本の妻(冨樫真)と目が合うシーンなんて、カッコいいし美しいし」

 

――小松さんも、従来出していなかった“顔”を SABU監督に切り取られた感触は?

 

小松「あります! これまではわりと可愛く見える作品、そういう役が多かったんです。今回はメイクさんはもとより、特殊メイクさんにずっとお世話になりました。いわゆるキレイに見せることをぜんぜん意識してなくて、違う角度のカッコよさを感じました。今までの私を知っている方が見たら、ビックリしてもらえるんじゃないかなと楽しみにしています」

 

監督「小松さんの目ヂカラはすばらしいですよ。しかもシネマスコープ、モノクロ映像の味わいがまたいいんですよね」

 

小松「できあがったものを見るまでは私、すごく不安で、というのも現場ではモニターチェックをほとんどする時間がないまま撮影をしていたので、モノクロの映像の仕上がりが想像できなかったんです。完成作はモノクロだからこそ引きつけられる力があって、私は新しさを感じました。皆さんにもぜひ体験してほしいです!」

 

SABU監督
1964年和歌山県出身。’86年に「そろばんずく」で俳優デビュー後、自身が脚本を手掛けた「弾丸ランナー」(’96)で映画監督デビュー。以後、「ポストマン・ブルース」(’97)、「アンラッキー・モンキー」(’97)、ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作「MONDAY」(’99)、「DRIVE ドライブ」(’01)、ベルリン国際映画祭NETPAC賞受賞作「幸福の鐘」(’02)と、精力的に作品を発表し、世界的な評価を得る。また、直木賞作家、重松清原作の「疾走」(’05)、小林多喜二原作の「蟹工船」(’09)と、文学作品の映画化にも挑み、新たな境地を切り開いた。近年のヒット作に「うさぎドロップ」(’11)がある。

 

小松彩夏(こまつあやか)
1986年、岩手県出身。TBS系のTVドラマ「美少女セーラームーン」(’03)のセーラーヴィーナス役で女優デビュー。主なドラマ出演作に日本テレビ系の「バンビーノ!」(’07)、「美咲ナンバーワン」(’11)ほか。映画出演作には「僕は妹に恋をする」(’07)、「容疑者Xの献身」(’08)、「僕等がいた(前篇・後篇)」(’12)などがある。

 

取材・文/轟夕起夫 撮影/栗栖誠紀

©2013 Miss ZOMBIE Film Committee all right reserverd.



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