インタビュー

2026.02.05

  • ラッシュ プライドと友情
    「ラッシュ プライドと友情」で来日したロン・ハワード監督を直撃!

 

F1の世界の天才ドライバー2人の戦いを描いた最新作「ラッシュ プライドと友情」のプロモーションのために、主演のクリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュールと共に来日した“ドラマ職人”。オスカー獲得監督のロン・ハワードに、その卓越した作劇術を聞いた!

 

■作品紹介

「ラッシュ プライドと友情」
2月7日、TOHOシネマズ日劇他全国ロードショー
ギャガ配給
監督/ロン・ハワード
出演/クリス・ヘムズワース ダニエル・ブリュール

 

1976年、F1黄金時代。世界を熱狂させたのは、情熱型のジェームス・ハントと頭脳派のニキ・ラウダの熾烈なライバル対決だった。シーズン前半はラウダのチャンピオンが確実視されていた。しかし誰もが予想もしなかった壮絶なクラッシュが起こり、全てが変わった。ラウダは瀕死の重傷により再起は絶望的。事故の一因は自分だとの自責の念を払いのけるかのように、残りのレースに全霊をかけるハント。しかしチャンピオンの座に手をかけたその時、ラウダがクラッシュからわずか42日後、サーキットに戻ってきた。最終決戦の地は富士スピードウェイ。ポイント差は僅か、二人の勝負の行方は――。

 

魅力ある人物像とF1の世界は素晴らしい映画になると思った

 

――これまで耳に入ってくる映画の評判には満足していますか?

 

ロン・ハワード(以下ハワード)「反響はすごくいいよ。製作は楽しかったし、この映画を作れてうれしいけど、実際に他人に見せるまではどれだけのものができたかわからないからね。驚いたことに試写会での評判はすごくよかった。驚いたと言っても、そうならないと思っていたわけでもないけどね。物語とキャストが素晴らしいのはわかっている。でも過去に実際に起きたノンフィクションの物語だから、こちらが意図したように観客を引き込めるかどうかはわからなかった」

 

――あなたと(脚本の)ピーター・モーガンは「フロスト×ニクソン」で初めて一緒に仕事をしました。彼から「ラッシュ プライドと友情」の物語を聞いたのはいつでしたか?

 

ハワード「脚本作りの早い段階で聞いて、私はすぐに興味をもった。ロサンゼルスで朝食をとりながら互いに近況報告をしていた時に、この作品に取り組んでいることを彼が話してくれたんだ。私は『とても面白そうな物語だ。F1のファンではないし特に詳しいわけでもないが、その世界に興味があるし、今までにこういった映画を作った人はいない』と言った。描かれている人物たちも素晴らしい。2人の魅力溢れる人物、観客の心を揺さぶる映画としての可能性と味わったことのないリアルな感覚。F1マシンの運転席に座り、ドライバーの気持ちになる。私は絶対に素晴らしい映画になると感じていた。当時は他の監督がこの映画についてピーターと話をしていた。だが、彼は他の作品の監督をやることになり、この作品は宙に浮いた状態となった。ピーターは私がこの物語に興味があることを知っていたから、内容を見せてくれたんだ」

 

――レースのシーンについて、あなたのアイデアを聞かせてください。素晴らしい出来ですが、どのようにして撮影したのでしょうか?

 

ハワード「『ビューティフル・マインド』の撮影時、作品を作り上げるために数式を用いて理論的な数学者たちと話をしたことで、彼らには奥深い感性があることがわかった。さらに『シンデレラマン』の撮影時、シュガー・レイ・レナードといったボクサーたちと話をした際に、反射神経が求められるスポーツはどれも、たいていの人がその価値を理解できないような対象物に対して彼らの体や心は適応できており、非常に高い関係性を築けていることに気づいた。職業によって特徴の違いが見られたがね。ラウダと話をした時に、彼は“マシンに乗った時の自身との一体感”を述べていた。私は『ちょっと待てよ。これは他にも何かあるな』と思ったんだ。それで私は他のドライバーたちに運転中に何が見えていたのか? 何を感じていたのか? レース中のドライバーの精神状態は? を聞きはじめた。そしてマシンやコースに対する、ドライバーの感覚でしかわからない“いい日”と“悪い日”があるということに気づきはじめた。意識が“ゾーン”に入っている時とそうでない時、私はその日のドライバーの状態という観点からレースを考えてみようと思いはじめたんだ。ピーター・モーガンが書いたドラマチックなシーンをつなげる面白い方法だと思ったし、レースのことをより深く描けると思ったよ。そのアイデアを実現させるために、自分の頭の中で考えていることをアンソニー・ドッド・マントル(撮影監督)と編集のダニエル・P・ヘンリーとマイク・ヒルに伝え、彼らのアイデアと合わせて少し変わった方法でレースのシーンを撮ることになった。最初から予定していたものではなく、副産物的な要因で付け加えられたものだ」

 

脚本を分析し構成を考え、インスピレーションを入れる

 

――あなたが脚本を映画化するときに、どういう部分に注意されているのでしょうか。どういうふうに映画にしていくのか、作劇化していくのか。ここを盛り上げる、ここでこの出来事を起こす、着地点はここ、という。どうすればこういうよくできたドラマができるのでしょうか?

 

ハワード「大変面白い質問だ。これを話しだしたら1日かかっても語りつくせないが。基本的にまず、脚本をもらった段階でそれをもとに自問自答するんだ。簡単に言ってしまえば脚本全体を分析すること。まず脚本を8分から10分のチャプターに分ける。そのチャプターの中でどんなことが行なわれているか、それから、人物の内面的な物語の構成を考えていく。このチャプターにおいては、何に興味や好奇心をあおられるのか、何がサスペンスを作り出せるのか、そして、このチャプターの中で新しい情報は何なのか、その情報は観客を驚かし得るものなのか。そういったものに全部答えていく。そうやって脚本を分析していくんだ」

 

――そうなんですか。エモーショナルなテーマも多いし、とても訴えかけるドラマが多いので、そんなに理論的に分析されているなんて思っていませんでした。

 

ハワード「そうだね。映画のオリジナルなアイデアはエモーショナルであるべきだけれど、ストーリーテラーとしての自分は、やっぱりそういうふうに分析をしないといけない。物語の構成を綿密に考えなければいけない。とはいえ、そこに突発的な何か、新鮮な何かを付け加えるのも大変重要だ。そもそも脚本家がこの映画のアイデアを得た時の、突発的な何か=インスピレーションの新鮮さを織り込みながら分析していくんだ。分析することによってインスピレーションをなくしてしまうわけではないし、分析や構成とインスピレーションは別物として考える。物語を伝える要素としてはやはり、分析して構成をきちんとしなければいけないけれど、インスピレーションも忘れてはいけないと考えている」

 

実在の物語の映画化はクリエイティブな作業だ

 

――実在の人物を主人公にして、実際の出来事を主軸にしているドラマが多いですが、まったくの架空の世界、たとえばどこかの中つ国とかにはあまり興味をもたないのですか?

 

ハワード「ハハハハ! 昔はあったよ、『ウィロー』とかも撮ったし。正直言って、最近やっと実在の人物の実際の物語を撮れるようになったんだ。以前は怖かった。なぜ今になって撮れるようになったかというと、最近になって気付いたことがあるんだ、実話を描くということはとても自由だと。解放される。…これらの物語は実際に起きてしまっていることだから、どんなに奇想天外な物語でも観客に支持してもらえるんだ、極端な物語でもね。でももし実話でなかったとしたら、『こんなにうまくはいかないよ』とか『うそっぽい』とか言われてしまう。だが実話だから納得してもらえる。実話の映画を見ていると観客は常に『なんでこんなことが起きたの? それでどうしたの?』と思いながら見てくれるわけだ。それにひとつひとつ答えを出していけば物語を展開できる。その、答えを出していく作業はつくり手にとって楽しい作業なんだよ」

 

――実在であればあるほど不自由なんじゃないか、特に本作のニキ・ラウダさんはご存命ですし、やりづらいんじゃないかと思っていました。

 

ハワード「イエスでもあるしノーでもある。最初は自分も、実話の映画化は規制されてしまうのでは、と思っていた。だが実はそうではない。ここにひとつの実話がある。それをまず全部把握して、いかにして観客に伝えるか。そこに自由がある。観客に納得してもらうために、実際に起きてないシーンを作ってでもドラマチックに、だけどとてもシンプルな形で描くためにはどうすればいいか。そこに想像力、クリエイティビティが発揮できるということに気が付いたんだ。それで反対に今は、全くフィクションのキャラクターまたは物語を伝えるにあたっても、同じような作業をしているよ。実話を描く作業によって、フィクションを描くことも勉強させてもらったと思っている。実話にはもちろん規制はある。だが規制があるからこそ、よりクリエイティブになれる。工夫しなければいけないから。規制の中でいかに自分がクリエイティブにやるかを模索するのは、とても楽しいし勉強になるよ」

 

――1970年代のジェームス・ハントとニキ・ラウダのライバル関係のことはご存じでしたか?

 

ハワード「いや。後になって雑誌や新聞で事故の写真を見たのを覚えている。ジェームス・ハントのことはまったく知らなかったし、ラウダの名前も知らなかったと思うよ。でもピーター・モーガンが素晴らしい脚本を書いてくれた。敵対するだけの関係ではなく、2人のもつ魅力と感情の複雑さを掘り下げて描いている。彼が意識してやっているのかどうかはわからないが、どのようにすれば観客と登場人物の距離を近づけることができるかも把握しているんだ。さっきも言ったように、観客をF1マシンの運転席に座らせ、ドライバーたちの気分を味わわせることができると思った。そういった理由から、この映画は今までにない新しいものになると感じていたんだ」

 

――日本人は本作のようなド直球なライバル物語が大好きです。弊誌でもこんなにライバル物語をやっているんですが…(ライバル映画特集ページを見せる)。

 

ハワード「ホントに? おお! (『トイ・ストーリー』を指して)そうかこれも? ハハハハ! ファンタスティック!」

 

――ライバル関係はとても映画になりやすい素材だと思うのですが、ライバル物語に興味があるんですか?

 

ハワード「いや、自分からライバル物語を探してたわけじゃなくて、ピーター・モーガンと話をした時にこの物語にすごく魅力を感じたからだ。本来は私は、ファミリーとかチームとかが一丸となって乗り越える物語が好みなんだ」

 

――確かに言われてみれば、チームや家族が問題を乗り越える物語も多いですね。でも、こういう手あかのついたテーマをこれだけの作品にするのは、あなたでないとできないと思います。

 

ハワード「うれしいことを有難う。ハハハ! これは、ピーター・モーガンの脚本が素晴らしかったのであって、もちろん僕のほかにももっと素晴らしいドラマを撮る監督さんもたくさんいる。ただ、この脚本を監督できたことはうれしかったよ」

 

●プロフィール
1954年アメリカ生まれ。子役として活動を開始し「アメリカン・グラフィティ」(’73)などに出演。’76年「バニシング IN TURBO」で監督デビューし、「コクーン」(’85)、「バックドラフト」(’91)などが成功し一流監督に。’95年の「アポロ13」がアカデミー賞9部門ノミネートを得て、’01年「ビューティフル・マインド」でアカデミー賞監督賞を受賞

 

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