2025.07.25
冷たい熱帯魚
吹越満×でんでん「冷たい熱帯魚」を語る
日本映画史のなかでもトップクラスの残酷描写とギリギリの緊張感から生まれる笑い。そのふたつを両立させた傑作「冷たい熱帯魚」がいよいよソフト化される。そこで主人公、社本役の吹越満と殺人鬼、村田役のでんでんによる対談の場を急きょ設定。撮影の舞台裏エピソードをメインに作品を振り返ってもらった。
| ●作品紹介「冷たい熱帯魚」8月2日 DVD&ブルーレイ、発売レンタル 発売 ハピネット監督、園子温が、自身の実体験や1993年に実際に起きた埼玉愛犬家殺人事件をベースに、戦慄の物語を紡ぎだした。熱帯魚屋を営む社本。新しく迎えた妻と、前妻との間に生まれた娘の折り合いが悪く家庭は崩壊寸前。ある日、娘の万引きをきっかけに同業者の村田と知り合う。豪快で人懐っこい村田に徐々に惹かれていく社本とその家族だったが、彼には隠されたもうひとつの顔があった。 |
残酷なシーンを撮ったときはみんなハイになってました(吹越)
―劇場で公開されたときは立ち見が出るほどの賑わいで、「シアタースタッフ映画祭」では国内の監督として初の監督賞を獲得。それ以外にもテキサスのファンタスティック・フェストで脚本賞を受賞したり、北米公開が決まったりもしましたね。大ヒットの要因は何だと思われますか?
吹越満(以下吹越)「園(子温監督)さんがノッてたってことじゃないですかね」
でんでん(以下同)「こういう作品っていうのは、めったにお目にかかる題材じゃないし。あとR-18だけあって、人をバッタバッタと殺すし(笑)」
吹越「最初からR-18になってもいいつもりで撮ってたんでしょ? そういう意味ではきっと(ヒットは)狙ってたワケじゃないと思います」
でんでん「俺も『ヒットすればいいな』というつもりで現場に行ったんだけど、こうなるとは思わなかったよね。だから『要因は?』って聞かれても、ちょっと困る(笑)」
吹越「日本国内じゃなくて、最初は海外を狙ってたんじゃないですかね。それでフタを開けてみたらってことでしょ。僕はビックリしてます」
―最初は、日本でも海外でもウケる題材ではないと思ってたんでしょうか?
吹越「いや、好きな人は好きだろうなって思ってました」
でんでん「とはいえ、こんな結果になるとは誰も思わなかったんじゃない?」
吹越「映画の歴史のなかでは今まであったものでしょうけど、最近はあまり見ませんよね、こういう作品は」
でんでん「こんな極悪人を題材にしてね(笑)。善良な一般の人が巻き込まれてエラい目に遭わされちゃって、しかも最後は善良な人まで極悪になっちゃう(笑)。そんなのこれまでないでしょ。でも、できあがった作品は面白かったよね。自分が出ている映画は、あんまり冷静な目で見られないんだけど、試写会で見たときは『面白いなぁ~』って」
―吹越さんは劇場でご覧になりましたか?
吹越「最初の完成試写と、あと舞台挨拶をしたあとに見ました」
―どんな感想をもたれましたか?
吹越「最初の試写のときにはドーンと気分が落ち込みました。『大丈夫か、これ?』って。あ、いい意味でですよ(笑)」
―ハードな内容ですものね。
吹越「(最初の試写を)見終わったら周りの雰囲気が暗かったし、しかも監督が来なかったし(笑)。『(監督は)周りの反応が気になって、お酒飲んで酔っ払ってんじゃないか』って話も出てましたよ(笑)。もちろん、ホントのところはわからないですけど」
でんでん「監督は編集の段階で何百回、何千回って見てるから、わざわざ試写会とかで見たくないんだって」
―園監督でも観客の反応が怖かったのでしょうか?
吹越「やっぱり気になるんじゃないですか」
でんでん「撮り順もイレギュラーというか、ラストから撮ってるし」
吹越「僕が撮影に入った初日のファースト・カットっていうのが、吉田さんの殺害を目撃したあとに骨をバラまいて『ビール一緒に飲んでたことにしとけ』って言われてそこから帰ってくるシーン。歩きながら缶ビール飲んでるところを一番最初に撮ったんですよ。そのとき、何の説明もなく『じゃあとりあえずやって』って。まだでんでんさんにすら会ってないのに(笑)。あと、娘が万引きして呼び出されて、でんでんさんと初めて会う日の食卓というシーンを撮ったその日に、僕が彼を殺して白いワイシャツに着替えて家に帰ってくる2回目の食卓のシーンも撮りました。2日目にですよ」
―あのシーンってものすごいテンションですよね。どうやってそこまでもっていくのですか?
吹越「もっていくっていうか、どこにもっていけばいいのかわからない(笑)。でんでんさんとは他のシーンの撮影で会ってたんですけど、まだ”豪快で魅力的なでっかい熱帯魚屋さんのオーナー”としてしか会ってないから。いま思うと、ちょっとどうにかしてほしかったです(笑)」
―え~! 見ている側は全然気づきませんでした。社本が村田との関係にドンドン囚われてラスト近くでは、いきなり0から100っていう豹変ぶりを見せますよね。どういう気持ちであの豹変を演じたのでしょうか?
吹越「いろんなやり方や考え方があると思いますが、僕が演じたのはああいう形です。監督からもOKをもらって作品になってるワケですけど。何度も見返すとそこを考えちゃう。『ほかになかったのか?』って。『撮り順が違うとどうなってたかな?』とか。もし撮影が順番通りに行われていた場合、どういう社本を演じていたのかを思うと、撮影の順番がイレギュラーだったから、撮影現場では普段の10倍くらい考えなきゃいけなかったのかなと。そんなことを、なんとなく思わなくもない」
でんでん「なんか話がこんがらがってんな(笑)。でもね、ああやれば良かったかな、こうやれば良かったかなっていうのは・・・」
吹越「正直考えてしまいます」
でんでん「俺はさ、よく場面がつながってるなって思いますよね」
吹越「この間、そのDVDのコメンタリーを高橋ヨシキさん(脚本担当)とでんでんさんの4人で録って。やっぱり、よくつながってんなって(笑)」
でんでん「つながってて見入っちゃってね」
吹越「コメンタリーしなきゃいけないんだけど、つい見入っちゃう」
でんでん「黙ってると見入っちゃうんだよね」
―でんでんさんにも伺いたいことがありまして。村田という役はしゃべり続けて怒鳴り続けて常にハイテンションですよね。ああいうキャラをどういう気持ちで演じたのですか?
でんでん「あのテンションでやらないと、セリフが出てこないっていうのもありましたね。落ち着いていると出てこない」
―監督から「あのテンションでやってくれ」という注文があったワケではなかったんですね。
でんでん「俺が演じて監督が少しづつ注文を加えていって、自然にああいう感じになった。一度始めたらあのテンションでどんどん喋らなきゃならなくなって、それが結果的にオーライだったらずっとそのままいっちゃうし。マンちゃん(吹越)との絡みのシーンだって別に打ち合わせはしてないんですよ。事前の打ち合わせとかほとんどしないで芝居をすると、それで自然とOKが出る感じでしたよね」
吹越「監督は全然細かくなかったですよ。その代わり、はじめから終りまで通してリハーサルをしましたけど」
でんでん「渡辺哲さんを殺すシーンはやってなかったんじゃない? あれは現場で決めたはず。社本がどんな驚き方をするかわからないから面白かったの。こっちのアクションに対するリアクションが、今回はホント面白かった。実は、『お前にこの時計やるよ』っていう場面も打ち合わせをしてなくて。社本としては受け取れないけど、でも自分から近づいて渡すのもおかしいから『1歩前へ進め』って(笑)」
―現場は笑いが絶えなかったと舞台挨拶ではおっしゃってましたが、とても笑えないところが多い作品だと思うのですが?
吹越「残虐な殺戮とかを描く場合、人は自然にバランスとろうとするから、ドーンと重いシーンのときは重く行かないで、少しにハイになってる感じでしたね」
でんでん「演じるときはもちろん真剣。でも、あんまり重くしないように気をつけて。僕らは人を殺した経験もないし、でも芝居のなかではリアリティみたいなものを求める。でも、そればかりだと本質が見えなくなるんじゃないかな。それで、現場がリラックスするように僕も心がけました。みんなが自然とそういう気持ちをもってたんじゃないですか。そういう感じはスタッフ、キャストを含めて全体にあった気がします」
吹越「とくに血が絡むような残酷な場面は、1回しか撮影できなかったので」
―でんでんさんは以前、舞台挨拶のときに「観る側のコンディションで感じ方が変わるんじゃないか」とおっしゃってました。
でんでん「それはどんな映画でもそうでしょ。やっぱり、その人のコンディションによって映画は良くなったり悪くなったりする」
―素材もテーマも怖いのに、随所に笑っちゃうシーンがありますよね。それはその場のノリだったのか、それともお2人のキャラだったのでしょうか?
吹越「見た人が笑うかどうかは一切意識しませんでした。結局は登場人物の心の動きがつながって見えたときに、何気ないセリフのひと言で笑いにつながったってことじゃないですかね」
―もしかしたら人は、ホントにああいうところにいたらホントにああいうことを言っちゃうのかもしれませんね。
吹越「『俺が死んだらお前ひとりでやんなきゃいけないんだぞ』って(笑)」
でんでん「あれもおかしかったよ」
吹越「それはやっぱり、でんでんさんと村田のキャラクターががっちりつながってるから、がっちり笑いにつながったんですよ」
でんでん「あれはね、台本を読んでいるときから面白いなって思ってた。それで実際に映画館でお客さんが笑ってくれたとき、ホッとしたね。やっぱり面白いって同じところで感性が合致したときにはちょっとホッとする。他の人が全然笑わないで、自分だけが笑っている、大体そっちの方が面白いことが多いんだけど。僕らの稼業はね、ちょっとズレてた方が面白いんだよ。でもあそこは面白かったな。高橋さんと監督で脚本書いてんだけど」
―DVDはどういう人に見てもらいたいですか?
吹越「もちろんどんな人にでも見てもらいたいです! 僕の知り合いで、ホントは見たいのに怖くて劇場では見られなかった女性がいる。だったらDVDでちょっとずつ慣らしながら見れば(笑)。怖がりな人でも最初から最後まで見られるようになるにはDVDが向いてんじゃないですか?」
でんでん「となりの部屋から障子をちょっと開けながら見たり(笑)。 いや、見てもらいたくないのはね、自分の高1の娘と女房くらいなもので(笑)。あとは誰にでも見てもらいたいね」
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●プロフィール
でんでん ひと口メモ:9月公開の作品「極道めし」に出演
ふきこしみつる |










