インタビュー

2025.06.20

  • SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム
    入江悠監督 インタビュー

 

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009にてグランプリを獲得し、超ロングラン公開された男泣きHIP-HOP映画「SR サイタマノラッパー」(以下「1」)。その実力で’09年度の日本映画監督協会新人賞を得た入江悠は昨年、続編の「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム」(以下「2」)を発表した。舞台は埼玉から群馬へ。かつてHIP-HOPに青春を懸けた女子たちが再びラップチームを結成し、奮闘する姿を描いた本作も超ロングランを記録! 今回のソフト化に際し、入江監督にいろいろな話を聞くことができた。

 

●作品紹介

 

「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム」
DVD/6月24日リリース
アミューズソフト埼玉のニートラッパー、IKKU(駒木根隆介)と、おっぱいパブラッパーのTOM(水澤紳吾)は、伝説のトラックメーカー、DJ T.K.Dことタケダ先輩の故郷、群馬にやって来る。そこで出会ったのは、高校生のときにラップグループを組んでいたアユム(山田真歩)ら5人の女性たち。アユムはそれぞれに事情を抱え、サエない今を送るメンバーと、再結成して一度限りのライブをやろうと動きはじめる。

 

続編をつくるのはリスキーだったけど「つくりたい」という思いが勝りました

 

―念願のソフト化です! 『2』の封切り日は2010年の6月20日。ほぼ1年前になりますね。

 

入江悠監督(以下入江)「もうそんなに時間が経ってますか…『1』のときもそうだったんですけど、『2』もけっこう粘ってロングランをしていたんですよ。劇場でかかっている限りは皆さんに、映画館で見てもらいたいなあって」

 

―『1』の主人公は野郎どものHIP-HOPグループ「SHO-GUNG」でしたが、『2』は高校卒業後、それぞれの道に歩み、バラバラになった女子ラッパーチーム「B-hack」(←美白)の物語に。「SHO-GUNG」のMC の2人、IKKU(駒木根隆介)とTOM(水澤伸吾)も登場しますけど、続編をつくろうと思ったキッカケは?

 

入江「『1』は第19回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター・コンペティション部門でグランプリになり、その副賞で次回作支援金が出たんですね。それでつくれる算段がついたのが大きかったです。で、シリーズものにしようと思ったのは、女の子のラップを扱った映画がなかったので挑戦してみようと。男のラップって大きく分けると案外パターンが決まっているんです。日本でも女性のラッパーはいますが、数が少ないので、ゼロからつくり上げて、この映画を見てくれた女の子がラップをやり出すくらいになったらうれしいなという気持ちで挑んでいました」

 

―当然、プレッシャーはかかりましたよね。

 

入江「そうですね。『1』に比べたらフィクショナルなつくりだし、『1』を気に入ってくださった人がたくさんいたので、たしかに『2』をつくるのはリスキーだったんですけど、『つくりたい』という気持ちが勝りました。『1』は俳優も含めてほとんど、大学の同級生や後輩、つまり仲間内でつくったんです。伝説のトラックメーカー、DJ T.K.Dことタケダ先輩役の上鈴木(伯周)も同級生で、劇中のラップをいっしょに考えてくれているんですが、彼は本職は会社員で週末にライブをやっている身。もし子供が生まれたりしたら、アーティスト活動をやめちゃう可能性もある(笑)。彼も含めて、みんなが集まれるうちにつくっておこうと思ったんですね」

 

―再結成しようとジタバタともがく元女子ラッパー5人(山田真歩、安藤サクラ、桜井ふみ、増田久美子、加藤真弓)の姿に、滑稽さと哀切さと、”がけっぷちに立たされたときの女子ヂカラ”を感じました。脚本は相当、稿を重ねたんですか。

 

入江「10稿くらい書き直しましたかね。脚本もそうですが、まず企画のレベルでどうやって『2』にもっていくかを練りました。当初、海外でも資金集めをしようと思い、それ用のプレゼン資料をつくったんです。海外のプロデューサーの、『なぜ女子ラッパーなんだ? しかもなんで舞台を、埼玉からさらに田舎の群馬の奥地にしたんだ?』という質問に答えるべく」

 

舞台を群馬にしたのは、風土をよく知っていたのと、ちょっとした反骨心

 

―では、改めてお聞きします。なぜ、群馬だったんですか?

 

入江「個人的な事情です(笑)。『1』の埼玉は僕の地元で、次に馴染みがあったのが群馬だったんですよ。高校生から予備校時代、映画館にいちばん通っていたのは群馬で、東京に出るより近かったんですね。群馬の風土をよく知っていたのと、あとはちょっとした反骨心。『そう簡単に東京を舞台にはしないぞ!』という。群馬はロケハンしてみたらけっこう景観がよく、そこは使いませんでした。わりとどこにでもありそうな風景にしたいなと思ったんです。有名な”高崎の仏像”とかシンボリックで観光地的なところは映さないようにしようと群馬中を回った覚えがあります。撮影場所探しには時間をかけましたね」

 

―キャスティングは?

 

入江「ロケハンと同時に動いていました。こちらも時間をかけて探しました」

 

―5人という人数にはこだわりはあるんですか。

 

入江「こだわりというか、5人ってバランスがいいんですよね」

 

―そういえば戦隊モノもメンバーも5人が多いですよね(笑)。

 

入江「ですね。まあ、僕の場合、主人公がひとりいて、サブのキャラクターが2人ずつ並んでいるとつくりやすいというか。基本的に全員に、僕自身の気持ちを振り分けているんですけど、5人がいちばん振り分けやすい。『1』のほうもそうで、「SHO-GUNG」も5人グループなんです」

―実家がこんにゃく屋、おかっぱ頭にメガネ女子の主人公、アユム役の山田真歩さんはオーディションですぐに決められたんですか。

 

入江「いや、何回かオーディションをしましたね。お題を与えてラップを歌ってもらってたんですけど、彼女がつくってくるラップがユニークでおもしろかった。『自分は近眼だ』みたいな歌詞のラップだったんですよ(笑)。4、5回、ラップのオーディションをやったあと、『どの役かまだわからないけれど、ぜひお願いします』と伝えました」

 

―ふだんから彼女はメガネをかけられてる?

 

入江「かけてますね、わりと。髪型もほとんどアユムに近いです」

 

―親友のミッツー役の安藤サクラさんは?

 

入江「彼女とはプチョン映画祭でごいっしょし、食事をする機会があって、話をしてみたら、リズム感がとてもよかったんです。聞くと、ダンスをやっていたそうです」

ラップバトルは本番直前まで直します。もっといいライムが生まれるんじゃないかって

 

―劇中の楽曲がすばらしいですね。「うちらハートのダイヤのストレート」というフレーズも決まってる、B-hackのテーマ曲『ワック♪ワック♪B-hack』は、映画が終わってからもつい口ずさんでしまいます。

 

入江「どこの映画館だったか、終映後、年配の女性が2人、ラップを口ずさみながら、帰っていったのを見かけたんですよ。あれはうれしかったですね。テーマ曲の歌詞は撮影に入ってからもつくり直して、プールで歌うときも最新版をギリギリまで練習してもらいました。フリースタイルと呼ばれる、ラップバトルも本番直前まで直します。『1』のときもそうだったんですけど、もっといいライム、いいリズムが生まれるんじゃないかとこだわってしまうんです」

 

―まさにその場で浮かび、その場でぶつけ合っているような臨場感が欲しいわけですよね。ライブ感というか。

 

入江「ええ。『1』のクライマックスは撮影時間に追われていて、IKKUとTOMもテンパっていて、完全には歌い切れてないんですよね。歌のはずだったのが、セリフになってしまう。間を思いっきり飛ばしちゃって、でもまさに『歌えない』感じが本人から出ていたので、そのまま採用しました。『2』の終盤にも長いラップのシーンがあるんですけど、あれも当日、現場で直して、練習で固めきる前に本番に挑みました。役者さんはきっとやりにくかったはず。でもそのほうが心底絞り出している感じになるんですよね」

 

振り返って、オトシマエとする物語は女性のほうが描きやすいかなと

 

―本作の名場面、終盤のラップのシーンについてはのちほどお聞きしますが、今回、女子ラッパーだからこそ描けた世界というのは?

 

入江「男は、いくつになっても夢見がちなところがあるじゃないですか。女性のほうがシビアに生きてますよね。『気が付けば、こんな場所に来ちゃったけれど待てよ』と立ち止まり、振り返って、オトシマエとする物語は女の人のほうが描きやすいかなって。もちろん僕にとっても他人事ではなくて、中学生のころは、20代でハリウッドに行けるだろうと夢想していたんですよ(笑)。スティーブン・スピルバーグみたいな映画を撮れるんじゃないかと思っていたんですけど、ぜんぜん違ってる。男はホント、夢見がちです。それを踏まえて脚本を書いていました。『2』が完成した後だったんですけど、昨年公開された『第9地区』を見て、監督ニール・ブロムカンプが同い年で、ついにとどめを刺されました。『元々はこういう映画をつくりたかったんじゃないか…』と。俺、思い描いていた未来とは全く違うところにいるなあ、と再確認させられました」

 

―入江監督の『第9地区』みたいな方向性の映画、ぜひ見てみたいですね。

 

入江「今でもやりたいんですけどねえ。あるいは『宇宙戦争』みたいな映画も。物心ついた80、90年代、僕はスピルバーグやジェイムズ・キャメロンの映画で育ってきたので。でも実際、日本では難しい。なかなか成功事例がないですからね」

 

シリーズ2作とも溝口健二監督の長回しの感動に一歩でも近づきたいと思ってやってましたね

 

 

―さて、前作越えに挑んだかのような終盤の9分間もの長回し。『1』は、ダメ男がのたうち回った末に、自分だけのことば(ライム)をつかむ瞬間がグっときましたが、『2』でもヤラれました…アユムの母親の三回忌の酒の席で、繰り広げられるラップバトル。そしてまた、その場を凝視しつづけるカメラが入江映画的で!

 

入江「僕は長回しでは、溝口健二監督の映画の長回しがいちばん好きなんですよ。役者の芝居に寄り添っているというか、カメラが懐深くドラマを捉えつづけてみせる。『SR サイタマノラッパー』シリーズ2作では、溝口映画の長回しの感動に少しでも近づきたいなと思ってやってました。ずーっとしゃべっていたところ、いきなり歌い出す瞬間を、カットを割らずに見せると、やっぱりそれなりの衝撃があると信じているんですよ。時々、観客の方から『予算やスケジュールがないから長回しなんですか?』ってたずねられるんですけど、予算はともかく、スケジュールに余裕がないと長回しはできないんですよね。『2』はラストシーンだけで何十回とやって、1日かけましたから。実はとてもぜいたくな手法なんです。三回忌の酒の席に座っていた共演者は、みな素人で地元の人だったので、リテイクを繰り返すごとに汗をかき、追い込まれていくようすがすごかった。『役者でもない俺らがなんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ!?』っていう理不尽さが、『なんで三回忌の席でラップを聴かされるんだ?』というあのシチュエーションに重ねってピッタリで。いや、皆さんには大変お世話になりました!」

 

―その地元の素人の方々の理不尽な気持ちを、役者陣も感じていたでしょうね。

 

入江「ですね。明らかに歓迎されていないところでラップをせざるを得ない空気を。あれがまた、全員役者さんだったら、リアクションは全然違っていたでしょう」

 

―本作は、エンディングクレジットまでシッカリとつくり込まれています。

 

入江「あれは脚本上にはなくて、クランクアップ後、『なんかやっぱり欲しいなあ』と思って、山田さんに急きょお願いして。歌を入れることは決めていたんですけど、”それでも人生は続いていく”というニュアンスを出したくて。あのロケ場所探しに時間が結構かかったんですが、陽が昇っていく瞬間、朝の4時、5時を狙って撮りました」

 

―きっと各所から、シリーズ第3弾への熱烈な要望があるのでは?

 

入江「『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ』で全国を回っていたとき、舞台挨拶に行くと、ほとんどのお客さんから「第3弾はどうなっているんですか?』と声を掛けられました。まあ、いろんな方向性を考えてはいるんですけど、毎回、遺作になっても後悔しない、そういう意思で映画に挑んでいるので、早く最良のテーマを見つけようと思っています」

 

取材・文/轟夕起夫

 

●プロフィール
いりえ・ゆう
1979年、神奈川県生まれ、埼玉県育ち。日本大学映画学科卒業。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティションで、短編「OBSESSION オブセッション」(’02)、「SEVEN DRIVES」(’03)が2年連続入選。各地で特集上映が組まれる。「ジャポニカ・ウイルス」(’06)で長編映画監督デビュー。「SR サイタマノラッパー」(’08)が日本監督協会新人賞ほか、多数の映画賞を受賞。その続編「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム」(’10)もロングラン公開された。劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ」(’11)は一部劇場で全国順次公開中。監督みずからが劇中になかったエピソードなどを加えて書き下ろした小説「SR サイタマノラッパー」も現在発売中。



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