2025.06.21
ストロベリーナイト
佐藤祐市監督インタビュー

人気警察小説“姫川玲子シリーズ”の「インビジブルレイン」を映画化した「ストロベリーナイト」のDVD&ブルーレイがこの夏リリース。2010年のスペシャルドラマと2011年の連続ドラマに続き本作の演出を務めた佐藤祐市監督の、作品づくりにおける哲学とは?
| ■作品紹介
「ストロベリーナイト」
7月17日 DVD&ブルーレイ発売 まぶたを縦に斬りつけるという同一の手口で、暴力団龍崎組の構成員が都内で立て続けに殺される。内部抗争による連続殺人事件との見方が強まるなか、警視庁捜査一課の警部補、姫川玲子(竹内結子)は、部下の菊田(西島秀俊)にチームの指揮を託し、別の線で単独捜査を開始。素性を隠した龍崎組の若頭、牧田(大沢たかお)と出会う。 |
映画では姫川の心の揺れを描こうと決めた
——後々回収する伏線を連続ドラマ内に張っておくなど、映画化の可能性を見越して前々からコントロールしていたことがあれば教えてください。
佐藤「単発ドラマに取り組んでいる頃は“連ドラになるといいね”、連ドラになったら“映画になるといいね”という話はしていたけど、映画にうまく影響するようにドラマをこうしておこう、という考えはまったくなかったです。ドラマで出し惜しみして映画化はないとなったら、一番カッコ悪いじゃないですか(笑)。まずは今取り組んでいるものを面白くしようといつも思っています」
——それだと、映画化が決まった瞬間、何をテーマにするか思案したのでは?
佐藤「連続ドラマで姫川を中心とした人間関係はけっこう描いてきたので、確かに、映画を作るにあたって新しいものって何だろう?と。そのうち、原作小説にもある要素だけど、姫川の恋愛模様を第一に描こうと思うようになりました。連ドラでも菊田との間に淡い恋愛線はあったので、それを延長させて、牧田の登場によって生まれる姫川の心の揺れを撮ろうと徐々に固まっていった感じですね。ドラマで消化できなかったところもあると思うので、自身のトラウマに対する彼女の姿勢を大きくフィーチャーしなければいけないなぁという気持ちでした」
——竹内結子さんにはどのようなお芝居を求められたのですか?
佐藤「最初に結子さんには、『僕は恋愛ドラマだと思って撮らない。あくまでも人間関係の一つとして描くし、事件に挑む姫川の行動の中で撮っていく』と伝えました。恋愛ドラマだと、例えば、何か取ろうとしてお互いの手が触れて“あっ…♥”というような描写がよくあるけど、そういうベタベタなことは絶対にしたくなかったんです。姫川という人間が恋愛をするには、何かのタイミングでパッションが弾ける形じゃないと無理じゃないかなと。だから、『恋愛の部分だけ盛り上げるような演出もしないので、そういうお芝居もしないでください』とお願いしました」
雨降らし撮影は面倒くさい(笑)。でも、心情表現にはプラスの効果が
——雨がなくても成立するストーリーだと思うのですが、全編、雨のシーンにした意図は?
佐藤「(原作の)タイトルが『インビジブルレイン』で、脚本を作っている段階で、見えない雨って何のことだろう?と話していた時に、『じゃあ、もう全編雨でいかない?』とプロデューサーから提案があったんです。撮影場所も限定されるし、予算も時間も普通の撮影より多く必要になるけど、映画ならではのビジュアル表現として何かやりたい気持ちもあったので、思いきってやりました。雨の降らせ方はシーンごとに細かく変えていて、偏った見方かもしれないけど、役者さんのお芝居の心情表現にプラスになっているんじゃないかな。全体の雰囲気としても、何か抜け出ない、陰湿な感じが出たかなと思っています。あと、シーンによって全然違う雨の音を入れたりして大変だったんですけど、牧田と菊田が組事務所で対峙するシーンなど、セリフがない時間の緊張感を上げる効果もあったと思います」
——屋外で撮影したシーンの役者たちの声はアフレコによるものですか?
佐藤「人工の雨を降らせて画を撮ったら、続けて音だけの本番をやる形で録音しました。その場で声を録っているので、空気感とかお芝居のテンションもつながりやすいし、いわゆる通常のアフレコより相当良かったです」
——牧田と暴力団員との乱闘を360度さまざまな角度から映したアクション・シーンも、手間のかかる、映画ならではの見せ場ですね。
佐藤「牧田という男の本性が出てしまい、姫川も何かを感じるシーンなので、早い段階から効果的なカメラワークを入れたほうが良いだろうと考えていました。直径4.35m、高さ約30cmの円形の台の上で、大沢さんと殺陣師の方々に立ち回りをしてもらって、カメラ4台が台の周りをぐるぐる回る。カメラはEOS C300という小さいもので、低い場所にセッティングできたので、床より下の位置からあおって天井も映り込む、求めていた映像を撮ることができました。何度もリハーサルを重ねていたので、撮影そのものはほとんど一発OKだったんですよ」
——監督の映像は、視点の高低差がけっこうありますよね。携帯電話や刃物を握った手を真下から撮ったものとか。
佐藤「そんなことしてましたっけ(笑)? あまり意識してなかったです。カメラマンと、奥行きはあったほうが良いよねと話すことはあるけど」
——食べ物を真上から映したカットも多いです。
佐藤「カレーライスのアップとか? あれは、目玉焼きがのっていたので、目を斬りつける犯人の手口とだぶらせて、目玉をプチュッと潰すところを入れたいなと。牧田が脅している相手に勧める料理も、なんかグツグツと煮えたぎっている、ということの暗示」
——出演者はベテランの方が多いですが、皆さん、協力的でしたか?
佐藤「スペシャルドラマは、(小出)恵介と丸山(隆平)君がいない、ジェントルな大沢さんもいない状態で始まったので、最初はすごく緊張していたんですけど、皆さんプロフェッショナルなので、脚本を読んで自分の役回りをしっかり理解していらっしゃるし、何かお願いすると『うん、わかった』と言って、さらにその方が持っているものを足して良くしてくれました。例えば武田鉄矢さんは、一見悪そうで正義感の強いガンテツというキャラクターを楽しんでいて、すごくアイデアをくださるんですよ。連続ドラマで一緒にやってきた方たちも、今回新しく加わった大沢さんも三浦友和さんも金子賢君も、現場できっちりご自身のお芝居をしてくださいましたね」
見る人に想像の余地を残す作品にしたかった
——映画は、姫川がシャワーの水に打たれるシーンで始まって、姫川が追うことになる青年、柳井(染谷将太)と暴力団員、小林(金子ノブアキ)との殴り合い→柳井一家の9年前→現在の姫川と菊田のシーンへと特に説明もなく移りますが、予備知識がない人にとっては少し分かりづらいかもしれないという不安はありませんでしたか?
佐藤「脚本では、柳井と小林の殴り合いで始まることになっていましたが、やはり姫川の物語であることをより強く示した方がいいと考えて、編集の段階で、中盤に出てくる姫川のシーンを冒頭に入れたんです。確かにね、親切じゃないといえば親切じゃないけど、連続ドラマでもそうだったけど、あまり説明過多になって、見ている側に『分かってるよ、次行ってくれよ』と思われるより、各シーンの余韻とか、各キャラクターがなぜそうしたのかという理由を、見る方が自由に感じたり想像する方がいいんじゃないかという気持ちがあるんです。ですから、説明的な部分は編集の段階でだいぶん落としています。姫川が牧田の車から出てきて、菊田が彼女の腕を押さえるところも、撮影では姫川が去り、菊田がそこに残るところまで撮っていたけど、菊田の手が姫川から離れるところで終わった方が象徴的でいいかなと。その後のシーンを見れば、手を離した菊田の想いも分かりますよね」
——ラスト、歩いていく姫川の映像も、カットアウトといった感じで終わっていますね。
佐藤「菊田と別れた姫川がゆっくり歩き出してスピードアップしていく様子を実際はもっと長く撮っていたんだけど、それだと5年後に絶対後悔する!と思って(笑)、彼女が何かを断ち切るように空を見上げた瞬間で切りました。ラストの場面だけは晴れで、風が吹いていて、木の葉がすれる音を入れていますが、途中から雨の音に変えているんですよ。エンドロールの雨とリンクさせる意味合いもあるけど、音の変化に気が付く人は雨の音から何らかの意図を感じて、なぜここで終わるの?と疑問に思う人は自分で意味を見つけ出して、『だからインビジブルレインなのか!』と考える楽しみを味わってほしいです。否定はしないけど、最近のドラマや映画は、心情をセリフで語り過ぎたり、状況を映像で説明し過ぎている気がするので、僕は、じっくり集中して見る人にも想像の余地がある作品にしたいという思いで作りました」
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●プロフィール
佐藤祐市 1962年東京都出身。’90年からTVドラマの演出を始め、「アテンションプリーズ」(’06)、「家族ゲーム」(’13)など、多くの連続ドラマを手掛ける。映画監督第3作となる「キサラギ」(’07)が第50回ブルーリボン賞・作品賞、第31回日本アカデミー賞・優秀作品賞に輝き、自身も日本アカデミー賞優秀監督賞、2007新藤兼人賞・銀賞を受賞。映画作品には他に、「絶対恐怖Pray プレイ」(’05)、「シムソンズ」(’06)、「守護天使」「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」(ともに’09)がある。7月24日にブルーレイ「キサラギ プレミアム・エディション」が発売 |
取材・文/橋真奈美
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