「アゲイン 28年目の甲子園」大森寿美男監督
2015年6月19日

「マスターズ甲子園」を題材に、原作は直木賞作家、重松清が書き下ろす――そこからスタートした「アゲイン28年目の甲子園」。原作執筆前の重松と大森寿美男監督が構築していった、夢破れた中年男がまた夢へと向かうまでの心の揺れ、変化、さらなる未来への一歩を描いている。DVD&ブルーレイでーた7月号でも紹介している監督のインタビューを、長尺版でお届け。

「アゲイン 28年目の甲子園」
7月8日(水)BD&DVDリリース
BD●4800円
DVD●3800円
発売・販売元/ポニーキャニオン
監督・脚本/大森寿美男
原作/重松清
主題歌/浜田省吾
出演/中井貴一 波瑠 和久井映見 柳葉敏郎 門脇麦 太賀 工藤阿須加 久保田紗友 西岡徳馬 村木仁浜田学 安田顕 堀内敬子ほか

2015年に第12回を迎える元高校球児によるOBチームが出場する「マスターズ甲子園」。ある事件で高校時代に甲子園の夢を断たれた46歳バツイチ男が「マスターズ甲子園」を目指すなかで、長い間しまい込んできた苦い記憶や冷えきった娘との関係と向き合う姿を描く。

重松清さんのお書きになる原作を想像して脚本化したんです

――「マスターズ甲子園」が題材で、原作は重松清、でも企画スタート時には原作はまだなかった。今作はどのようにはじまっていったのでしょうか?

大森寿美男(以下、大森)「最初に企画書をもらったとき、重松さんが原作、浜田省吾さんが主題歌とあった。2人とも僕が大好きな人で、そして野球も好きだったので、あーこれはぜひやりたい!と引き受けた。でもその時点で重松さんの原作はない。しかも書き上がるのを待って脚本を書いていたら(大森監督は脚本も担当)、映画製作に間に合わない。ということで、まず最初に重松さんとマスターズ甲子園を観に行きました。これから作る映画のプランを2人で話をし、重松さんがマスターズ甲子園に携わる人々の話をオムニバスで書きたい、と。でも映画は、その中でだれか気になる人がいたらその話を膨らませていってくれていい、群像劇でなくてもいいと。それから、重松さんの過去に書かれた野球が題材の本を僕が読んでいたものですから、そこから使ってもらってもかまわないと、おっしゃってくださって。“重松清がこの映画のためにストーリーを考えたらどういう話になるだろう”その世界を空想しましたよ。原作を空想して脚本化した、大変だったけどおもしろかったですよ」

――甲子園の夢破れた高校の3年間の濃厚な絆とその後の遺恨を、主人公・晴彦(中井貴一)は28年間も引きずって生きています。

大森「まさにその『時間の経過』が一番描きたいものだった、重松さんと、野球をすごく頑張ってまた甲子園に出る、っていう話じゃないですよね、と話しました。むしろ、もう一度野球をはじめるまでにある葛藤だとか、それまで過ごしてきた時間やしがらみみたいなものから、どうやってまたグラウンドに立つのか、グラウンドに立つ夢をもつのかを描きたかった。その年代がもつ夢、純粋な思いだけじゃない。誰かとのつながりがあって夢を見て、グラウンドに立つ。スタートはそこでした」

「今」を変えるエネルギーが「あの頃」にある、そう思った

――高校3年間が暑苦しいまでに濃厚な人間関係なのに、「いま」の晴彦を取りまく家族との関係性は驚くほど希薄。その対比が明白ですね。

大森「高校3年間には、苦しいこともいっぱいあったはずなんですよ。逃げ出したいと思ったこともあったはず。強豪校の部活の練習なんて厳しいだろうし、上下関係も厳しい。なのに、マスターズ甲子園に出ている方を見ていると、みなさん本当に幸せそうで。自分が一番幸せだったときをもう1回過ごしているようでした。体力的なものや技術的なものは取り戻せないけど、気持ちはすぐに取り戻せるんだな、と。その『取り戻す力』というのにすごく興味をもちました。映画ではそれを描きたい、過ぎてきた時間を今にどうつなげていくか、振り返ることは後ろ向きなこととして捉えがちだけど『今』を変えていくエネルギーとして『あの頃の自分』と向き合うことも人生にとって有効だと思う。あの頃を思う気持ちが『今』を変えることもきっとできる。思うに、甲子園の試合ってほとんどが『負け』を見ているような気がしているんですよ。優勝する1チーム以外はみな負ける。観ているほうも、どのチームを応援しているというよりも、負けたチームの負け方を称えている、そういうスポーツじゃないですか。アマチュアスポーツのよさと言ったらそれまでなのかもしれないですけど、僕らは甲子園の試合を観て、負けるチームに感動して活力をもらっている。それはなぜなのかなと思ったら、人生には負けることのほうが多いわけです。どこまで真剣に勝とうとして負けたのか、どこまで立ち向かって負けを迎えたのか。そういう負けを迎えることの重要さ、幸福感を無意識に僕らは知っていて、だから甲子園に感動しているんじゃないでしょうか」

――そう、人生には「負け」のほうが多いですね。

大森「ちゃんと負けるって難しいですよね。負けるためには挑戦しなければならない。勝ちに向かって努力しないとちゃんと負けられない。だから負ける前に逃げてしまうことのほうが人生には多くて。どれだけちゃんと負けられたかその人の人生を作っているように思う」

――何人かの登場人物に語らせる「ちゃんと負ける」というセリフ、そしてライバルチームのコーチが発する「悔しさを忘れてたよ」という言葉。監督の今作への姿勢が彼らの口を通して伝えられていますね。

大森「悔しさにはエネルギーがないとね。ツライから回避することのほうが人間、歳を重ねると多いんですよね、識無意識に逃げてしまう。人間関係もそうですけど親子の関係もそう。傷つくのを恐れてきっと希薄になっていくんだね。そういうことを実感しますね」

中井貴一さんの求心力がすばらしかった

――主演の中井貴一はじめ柳葉敏郎、西岡德馬の役者陣に加え、高橋慶彦や角盈男ら往年のプロ野球選手が顔を見せている。野球シーンの撮影現場はどうでしたか

大森「中井さん以外はみな野球経験者で野球に関しては放っておいてもみなさんどんどんやってくださるんですけど、中井さんだけが不安がっていた。野球未経験者に見えてしまったら終わりだ、そこが嘘になってしまったら映画の質が落ちてしまうと。中井さんは学生時代にテニスに打ち込んでいらしたので、だから野球未経験のぶんは練習で不安を払しょくしていった。スポーツマンだからこそ出せるものが共通してある、そう思いましたね。とにかく現場では中井さんに対する出演者皆さんの信頼度が高かったので、同年代の方も若い役者さんも中井さんを中心に本当にまとまるんですよ。みなが作品のためにいま何をしなければいけないのかを、常に自然に出してくれた。いやー雰囲気よかったですよ。楽でしたもん、僕(笑)」

――では、「アゲイン 28年目の甲子園」はどんな人に観てほしいんでしょうか。

大森「それはもう『DVD&ブルーレイでーた』の読者のかたがたにはぜひ。過去の夢と向き合ったときに今がどう変わるのか、それを描きたかったんです。悔しさなりなんなりを味わわないように無難な感じで、平穏に生きることもそれも大切だとは思うけれど。ときには未来がまったく読めなかった、読めないからこそ無限の可能性を感じていたころの自分の思いみたいなものを思い出してやる。それが今を変える力にもなるだろうし、今を支える力にもなっていく。夢を取り戻すことは不可能なんだけれど、自分のなかででっかい夢見てたな、その頃の気持ちは残っていると思うんですよね。それを掘り起こして今の自分を活性化する。自分にとっての甲子園って何だったのかと立ち位置を確認して。観る状況や年代で、まったく感じ方が違う、そういう作品だとも思います。そしてもし気に入っていただけたのなら、何度でもね、ときどき振り返って観てもらえるような作品になればうれしいですね。僕のなかでも何年かおきにまた観たくなるタイトルあるので」

――では、その「何年かおきにまた観たくなる作品」教えてください。大森寿美男という映画人を作った作品を3つ挙げて頂ければ。

大森「多感な時期に観たものがやっぱり心に残っています。まずは松本清張原作の『鬼畜』(’78)。緒形拳さんが連れ子を殺していく恐怖。子供のころ見てトラウマになった(笑)映画ですね。それから『愛と喝采の日々』(’77)。母と娘の話、主演のシャーリー・マクレーンが素晴らしかった。あとはジョン・アーヴィング原作の『ガープの世界』(’82)。あの夫婦(ロビン・ウィリアムズ&メアリー・べス・ハート)の壊れ方と再生―の描き方が衝撃でした。車の中(妻が浮気相手の局部を噛み切る)のことがあったのに、『アイミスユー』で仲直りする。あの瞬間の感動。すげーな。生涯で1本でいいからあんな映画作ってみたいです」

●プロフィール
大森寿美男(おおもりすみお)
1967年神奈川県生まれ。演劇活動を経てシナリオライターに。映画「黒い家」(’99)、NHK大河ドラマ「風林火山」(’07)などで活躍。2000年に第19回向田邦子賞受賞。「風が強く吹いている」(’09)で監督デビュー、ヨコハマ映画祭新人監督賞・審査員特別賞、日本映画批評家大賞新人監督賞・作品賞を受賞。

(c)重松清/集英社 (c)2015『アゲイン』制作委員会

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