
男女のいろいろを描かせたら当代一の廣木監督の最新作「娚の一生」が、DVD&ブルーレイになった。日本の里山の夏を背景に、不倫に傷ついた女性と彼女の祖母の恋人だった男性との、静かな大人の恋。本作のキモを監督自身に語ってもらった。
「娚の一生」
BD&DVD発売中
BD●5700円(豪華版)
DVD●4700円(豪華版)、3500円(通常版)
発売元/ポニーキャニオン、小学館
販売元/ポニーキャニオン
監督/廣木隆一
出演/榮倉奈々 豊川悦司 向井理 安藤サクラ
西炯子の人気コミックを映画化したラブ・ストーリー。東京での忙しさと辛い恋愛に疲れ、祖母の暮らしていた田舎の一軒家にやってきたつぐみ。祖母の死をきっかけに、祖母の恋人だった独身の大学教授、海江田と出会う。つぐみに好意を抱いた海江田は、強引に離れで生活を始める。
世間のイメージと違う役をぶつけてみる
――「娚の一生」拝見させていただきました。独り者にはグサグサ来る作品だなと思いました。こういったことが何もない人生を送っている者には、すごく刺さると。まず、コミックが原作ですが、それを映画化しようという経緯を教えていただけますか。
廣木隆一監督(以下廣木)「榮倉奈々さんで何か企画を考えてて。二十幾つになった大人な榮倉さんで何かやれないかなというのがあって。それで僕は西炯子さんのこの作品を読んでて、話的にもちょっとおもしろかったんで。豊川悦司さんも前に一緒に仕事やらせてもらってたんで、2人でならこれが一番いいかなあと」
――企画を監督の方から?
廣木「(企画は)プロデューサーの方から来たのかな。それで、僕はたまたま(原作を)読んでたからぜひやらせてほしいって話をして」
――最初は榮倉さんありきで。
廣木「ええ、榮倉さんでって。でも彼女だけでもできないんで、豊川さんがいてくれないとっていうのがありましたね」
――榮倉さんとは「余命1ヶ月の花嫁」で仕事してらして。監督にとってヒロイン選びの基準というのはどこにあるんですか。この女優で撮りたいっていうのはどこから?
廣木「どうなんですかね。僕の映画に出てくれそうな人っていう(爆笑)」
――具体的に言うとどういうことなんでしょう。
廣木「最初はまず原作ありきで、その原作に出て来る女性は誰がいいかって考えるじゃないですか。だから基準ってないですね、そんなに。ただ、世間でこの役者はこんな感じのイメージっていうのがあれば、それに全然違う役をぶつけてみるっていうのは多いですね。あの人にこんな役をっていうのがおもしろいんじゃないかなというのはありますね」
――青春映画で清純派女子を演じてる女優に全然違う役を、とか?
廣木「そういうことで、基準といえばそれくらいですね。普通だと誰それがやるだろうけど今回は榮倉さんがやったらどうなるだろうと。本作でも、榮倉さんは世間でいえば元気なショートカットの子っていうイメージだけど、そうではなくて、女の人のある一面っていうか、榮倉さんの違う面を見せられるなって。いつも大体そんな感じですね」
大人の恋愛映画をつくりたかった

――原作を実写化するときに、気にされることと気にされないことはありますか。
廣木「原作が持っているものを大切にしようっていうのがひとつありますね。そうじゃなかったら原作いらないじゃんっていうのがあるので。むしろ一番映画になりやすい部分を考えて原作を読んだりする。何を読むときも『映画になるかな?』と考えて読む」
――本作の原作の、どこが映画に向くなと思ったんですか。
廣木「最近こういうタイプの映画、田舎で大人の恋愛が行われていくっていう映画が少ないなって気がしてて。そこが一番ですね」
――確かに。監督ご自身も最近、若い恋愛物語を撮ってらっしゃるし。
廣木「そう、高校生の。少女マンガ原作のはいっぱいあって、でも大人の恋愛映画ってのが少なくなっちゃった。大人の映画っていうと今度は、夫婦の話で片方が死んでくとか…」
――そうですね、子供の問題とかになっちゃう。
廣木「そうそう。家庭の話がメインだったり。じゃなくて大人の恋愛映画が見たいなっていうのはありましたね」
――確かに。ハリウッドやヨーロッパにはありますけど、なかなか日本映画で大人の恋愛って見ない気がしますね。
廣木「ですよね。昔『マディソン郡の橋』とかありましたよね。海外の作品は、大人が子供とか抜きで恋愛することをちゃんと描いてた。日本でもすごく昔はあった」
――成瀬巳喜男作品とか(笑)。
廣木「(笑)ちょっと古いですけど、成瀬さんとかはちゃんとやってた。成瀬さん、僕昔から好きなんで。でも日本の今の映画のなかでそういう世界って成立しづらいっていうのがあって」
――そういうのは今の日本では作りづらいっていうか、資金調達しづらいっていうか…。
廣木「だから、マンガとかが原作であれば入りやすいかなっていう」
夫婦のような恋愛もアリだと思う

――この作品でいいなと思ったのは、最初から、夫婦のような生活から始まるという。恋愛から始まるんじゃなくて。衝撃的な出会いとか決定的な出来事があるわけじゃないという。じわじわ進む恋愛というか。
廣木「伝わってるか伝わってないかわからないけど、夫婦のような恋愛というか、セックスもするんだろうけど、いい時だけでなく悪い時も彼がいてくれればいいというか。夫婦のような恋愛を、恋愛映画の中でやれればいいなという気はしました」
――それほど情熱的ではないんだけど、ちょっとずつ近づいていく、絆が出来ていくっていうのは伝わっています。こういう始まり方も、ある程度のトシになるといいなって思いますよね(笑)。
廣木「いや、そう思いますよね。最初は友達で出会ってもいいと思うし。(本作では)それどころか孫とおばあちゃんの彼氏ですからね(笑)。お互いの過去とかも出てきたりするんだけど、そういうことに関係なく、2人がひとつの家で暮らしていく、生きていくっていうところに恋愛が見えてくるといいなと思って」
――「軽蔑」の時のインタビューで、一緒にいたいと思うことについて理由はいらないんだよね、っておっしゃっていましたが、そういう感覚は変わらずに?
廣木「そうですね、言葉じゃない。人が人を好きになるのは理屈じゃなかったりするじゃないですか、手がきれいだったとか(笑)そんなの後付けじゃないの、っていう。この人と一生歩いていけるかどうかなんて、考えないですよね」
――わかんないです。どうなんでしょうか。
廣木「考えるとは思いますよ、僕も。でも一生生きて行けるかっていうのは考えないだろうって気がする。今、心地いいか心地よくないかっていうのが大事で、お互い努力してずっと維持できていけるかなっていうくらいですよね。どっちかができなくなったらバランスが崩れるっていうか」
――本作では、最初は「何だ、この図々しいヤツ」だったのが、だんだん…。
廣木「いなくなると寂しいっていう。ラブストーリー的には、すごくシンプルだと思う。いるとうざかったのに、いないと『どうしちゃったの?』みたいな。お互いに思っちゃう」
――それが恋愛の本質なんでしょうか。情熱ばっかりじゃないですもんね。
廣木「ないない。生活っていうのがね。だから(本作で)恋愛映画に生活を持ち込んだっていう」
――今までの作品では激しい情熱の話が多かったですよね。
廣木「あれはファンタジーですから(笑)」
――ファンタジーなんですか。悲しい(笑)。
廣木「セックスはファンタジーです(爆笑)」
――情熱ストーリーを観ると『こういうのいいなあ』と思うんですけど、本作みたいなのを観ると『人生ってこっちじゃない?』って思っちゃうんですよね。
廣木「こっちですよ(笑)。こういう“生活が恋愛”でいいんじゃないですかね」
豊川さんには茶目っ気と色気がある

――豊川さんの演じる教授って、最初は背景が全然出てこない。観る人に「この人誰よ?」って思わせるためですか。
廣木「原作を読んでない人を、謎な人で引くのは必要だったんですよね」
――そしてそんな謎な人をやるのは、やっぱり豊川さんだったんですか。
廣木「豊川さんとは僕、『やわらかい生活』で一緒にやらせてもらってて。チャーミングじゃないですか。リアルにやるんだけど、『いねえよ、こんなヤツ』って部分もあったりする。豊川さん、何考えてるんだろうみたいな。それがすごい魅力だと思う。優しいっていえば優しい、でもそれを出すのは恥ずかしいみたいな。そんな役がピッタリだなあと思って。事件ものとかに出てくる豊川さんもいるけど、そういう面じゃない、すごく人間的な不器用な男の人っていうのが見たいと思って」
――本作では、豊川さんの色気がダダ漏れだって観た女性は言ってて(笑)。豊川さんの色気を最大限引き出すために気を付けたことって?
廣木「それはもう本人が持っているものじゃないですか。やっぱり五十いくつでカッコイイなと思う役者さんは、すごいなと思いますもん。豊川さん、髪の毛を染めてくれて。原作マンガをいつも持ってて、コマ割りと同じように芝居したりして、そういう茶目っ気も色気になってるって気はしますね。あと気持ちは若いですからね」
――気持ちは若い(笑)。原作の中の彼も気持ちは若いですからね。じゃどうこう演出したというより、彼の解釈通りに。
廣木「僕はいつもそうなんですよ。まず1回芝居をやってもらって、それから話していく。話してシーンを作っていくタイプなんで、最初からこうだよねってことはないですね。『豊川さん、今のはこう思ってやってますよね』って話をします。確認しながらやってます」
――後ろからつぐみにガーンって蹴られて一回転、というシーンもそうなんですか。
廣木「そうなんです。どうやって蹴ったらゴローンっていくかっていうのを2人で話して。子供たちが遊んでるみたいなもんですよ」
――豊川さん、いろんな引き出しがありそうですよね(笑)。私、前半では豊川さん演じるおじさんがすごく図々しくてキライだったんです。何だコイツって。
廣木「何だコイツ、ですよね。靴下脱がさせたり(笑)」
――そうそう、靴下脱がせるんだ? みたいな。
廣木「僕の親父なんかやらせてたなそういえば、とか思ったり。なんか昔の映画って、男が女に靴下脱がしてもらってたりとかいうシーンなかったですか。酔っぱらって帰ってきたりして。僕も子供の頃、おふくろがやってあげてるの見て『お袋、やってあげなくていいよ』みたいに思った」
――ですよねえ?
廣木「放っときゃいいじゃないかって思うタイプ」
――でも豊川さんだったらやってあげてもいいかな。
廣木「(笑)豊川さんだから。僕とかだったら放っとかれるだけですよ」
次作は地方の女の子の群像劇
――今、進んでいる次作とか、やりたい作品とかがあったら、監督のファンのために教えてください。
廣木「ないです」
――ええっ!
廣木「いや、やりたいのは地方を舞台にした女の子の群像劇なんだけど。いろんな女の子が出てくる。なんでかわかんないけど東京はもう飽きたなと。今、事件が起きるのは田舎が多いじゃないですか。地方都市の行き詰った感じのなかで頑張ってる女の子たちを描きたいなと。今はもう、どこへ行ってもバイパスが通ってて、ユニクロがあって。どこへ行っても同じじゃないですか。そういうところってどうなんだろうって」
――すごく楽しみにしてます。
■プロフィール
1954年福島県出身。’82年「性虐!女を暴く」で監督デビューし、’94年サンダンス映画祭の奨学金を獲得、渡米して研さんを積み、戻って’03年「ヴァイブレータ」で40以上の映画祭で受賞。ほかに「やわらかい生活」(’06)、「余命1ヶ月の花嫁」(’09)、「軽蔑」(’11)、「さよなら歌舞伎町」「ストロボ・エッジ」(共に’15)など多数。
©2015西炯子・小学館/「娚の一生」製作委員会













