日本人は知らない、19世紀末にフランスに実在したもう一人のヘレン・ケラーと言われる、三重苦の少女マリーが世界を知っていく過程を描く。秋篠宮妃紀子様と佳子様も鑑賞した本作で、主役で映画デビューしたアリアーナ・リヴォアール。自身もろう者である彼女に、手話を通じてインタビューした。
「奇跡のひと マリーとマルグリット」
6月6日(土)公開
配給/スターサンズ、ドマ
監督/ジャン・ピエール・アメリス
出演/アリアーナ・リヴォアール イザベル・カレ
19世紀末フランス。ろう者で目も不自由な三重苦の少女、マリー・ウルタン(アリアーナ・リヴォアール)は、闇の中、獰猛な野生児のような生活を送っていた。修道女マルグリット(イザベル・カレ)は彼女の中に強い魂の光を見て教育を志し、自身も不治の病を抱えながらマリーに手話を通じて言葉を教え、〝世界″へ導くべく悪戦苦闘する。
ろう者だけがハンディキャップをもっているわけではない
――フランスでは、本作はバリアフリー上映されたと聞いていますが、その時の反応はいかがでしたか。
リヴォアール「逆にひとつお伺いします。障がいがある人のイメージとはどんな感じですか」
――細かいところまでは知らないのですが、健常者とそんなに違わないというイメージです。
リヴォアール「知ってますか? あなたもハンディキャップがあるんですよ。分かりますか?」
――頭が悪いとかフランス語が分からないとか(笑)。
リヴォアール「私はフランス語が分かります、バカロレアを受けるくらいだから。言語は問題じゃない。実は、私たちろう者コミュニティの中にも、聞こえている人もいるんです」
――聞こえている人が?
リヴォアール「逆を考えてみてください。ろう者のコミュニティに健常者が一人だけいるという状況を。みんなが手話で会話しているのにその人には手話が分からない、それがハンディキャップになるんです」
――そうですよね、確かに。
リヴォアール「だからあなたもハンディキャップをもっているんですと言いたかったんです。ろう者も健常者も同じ言語を通してコミュニケーションできないという時点で、お互いがハンディキャップをもっているということです。ろう者だけがハンディキャップをもっていると思わないでほしいんです。フランス映画はバリアフリー上映はなかなかなくて、アメリカ映画よりすごく遅れています。アメリカ映画だとフランス語字幕が付くからろう者でも見られるけれど、自国の映画には字幕もつかないからバリアフリーにならない。フランスではだから、フランス映画よりアメリカ映画の方が観られています」
――他言語だから字幕が付くけどフランス語だからつかない。皮肉ですね。
リヴォアール「ええ。もちろんフランス映画でも字幕が付いているのもあるんですが」
――本作は、フランスでは反応がよかったんですよね。
リヴォアール「フランスでの上映では観客はとても感動して下さって、信じられない、素晴らしいと言って下ったので、日本でも同じになるかもしれませんね」
手話通訳のおかげで問題なく撮影できた
――監督がアリアーナさんの学校へ主役のオーディションに来たとき、生徒の女の子たちは喜んで参加したけど、あなただけ参加を忘れていたと聞きました。
リヴォアール「そうなんです、本当に。実は参加者募集のビラが校内に貼ってあったんですが、書かれていたことが全然意味が分からなくて。どういうオーディションか全然説明されていなくて。それを書いたのは学校の先生だったんですが、(伝える)仕事をさぼってたのね。監督に会ってはじめてオーディションの本当の意味が分かって、興味が出てきたんです」
――全く演技経験がなかったにもかかわらず、本作の演技は素晴らしかったです。脚本を読んだ第一印象はどうでしたか?
リヴォアール「監督に主役に選んでもらったてから、(この取材にも参加している)サンドリーヌさんが手話通訳をしてくださって、最初からとても気持ちよくいろんなことを監督と話すことができて、すぐに監督と信頼関係が生まれたんです」
――それほど恐れずに撮影に臨めたんですね。
リヴォアール「最初の撮影のときはなかなか入り込めなかったんですが、まずイザベル(・カレ)さんのシーンからやってもらって、ああこんな感じなんだなと分かって。後はもう演技することに快感を覚えました」
――柔軟性があるんですね。まだ野生児だったころの冒頭で、激しく暴れるシーンがあります。あの時は何を考えて演技していたんですか。
リヴォアール「私はこんな風にマリーのことを想像していました。マリーは最初あまりにも情報に欠けていて、学ぶことに対してモチベーションをもつにはあまりにも情報がなかったので、学ぶことを拒否していたと思うんです。だから暴れていた。彼女はその頃両親だけとの閉鎖された環境にいました。人が学びたいと思うには情報がないといけない。マルグリットは彼女の中に聡明さを直感で感じ取って、情報を与え、それを引き出してくれたんです。だからこそマリーは少しずつ進化していくことができた。私は自分の中でそういうプロセスを理解して演じました」
――見えているのに見えない演技、頭で理解できているのに理解できない演技ってすごく難しいんじゃないかと思うのですが。
リヴォアール「サンドリーヌさんの手話を見れば分かると思いますが、彼女は流れるように私に情報を与えてくれるので、撮影中も他の俳優さんたちとほとんど同じレベルで、私は監督から情報をもらえた。彼女の手話のおかげで私は本当に快適に撮影することができたんです」
――監督の求めることをそのまま。
リヴォアール「その通りです。監督が言ったことをそのまま、繊細にニュアンスをもって訳してもらっていたので、監督は、演技指導を一言すれば私がその通りに完璧に演技するのですごく驚いていたくらいです」
アメリカ映画をよく観ます
――ところで普段映画をご覧になりますか。好きな作品、好きな俳優を教えてください。
リヴォアール「『ダイバージェント』とか」
――やっぱりお若いんですね(笑)。
リヴォアール「アメリカ映画大好き。フランス映画はあんまり…」
――「ダイバージェント」はアクション・アドベンチャーですね。
リヴォアール「そういうものが大好きです。実はフランス映画は演技がわざとらしくて好きじゃないの」
――フランス映画って会話劇が多いですよね。
リヴォアール「私はビジュアルの観察眼があるから、フランス映画を観ていると俳優の演技とセリフにズレがあるのが見えてしまう。それで疲れてしまうんです。それにユーモアも少し重い。あまり笑えない」
――観客としても厳しいんですね。
リヴォアール「そう。その通り」
――そういう意味では、フランス映画界は優秀な女優兼観客を発掘できましたね。
リヴォアール「そうですね。フランス映画のあるコメディを昨年観たのですが、全然面白くなかった。全然笑えませんでした。セザール賞にノミネートされたんですが、その前に私は監督と主演女優と同席することがあって。そのときに『コメディとして作られたんですか』と聞いたんです。そうしたら監督は私には『いやこれはコメディと思ってはいない』と言いました。…実はその作品はろう者の話なんです。(その点からも)私はすごくムカついていて。ろう者の世界を全然、AからZまですべて表わせていなくて私は怒りまくっていました。でもあんまり言っちゃいけないのかなと思って隠していましたよ。(まだ日本では紹介されていないかもしれないが)私が輸入者でもこの作品は買わないわ」
●プロフィール
アリアーナ・リヴォアール
1995年仏オーヴェルニュ生まれ。耳が不自由な彼女はサヴォワの国立ろう学校の寄宿生でバカロレアを取得済み。本作が映画デビュー。監督は「話をしてこの役は彼女だと確信し、10歳だったマリーの設定を彼女に合わせて14歳に変えました。なぜなら彼女にはマリーももっていたはずの快活さと強さがあるからです」と話す
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