第十回 巨匠ポランスキーの傑作処女作をチョイス 「水の中のナイフ」【前編】
- 2026.04.30
黒木華が”華”(=ハイライト)と”実”(=テーマ)を合言葉に気になる映画を語る、本誌好評連載のロング・バージョン。今回のお題は【ポーランド映画】。鬼才ロマン・ポランスキーが祖国で撮った傑作をセレクト!
「てっ!」は「じぇじぇじぇ」に近いものがあるかもしれません(笑)
──NHK連続テレビ小説「花子とアン」の放送がスタートしました。黒木さんは吉高由里子さん演じるヒロインの2歳下の妹、安東かよ役。舞台が山梨県の甲府ということでセリフも甲州弁ですが、「てっ!」という感嘆詞が特に印象的です。
黒木 その時の感情や気持ちで、言い方のニュアンスが変わるんです。活用法としては、昨年の流行語大賞にもなった「じぇじぇじぇ」に近いものがあるかもしれません(笑)。
──てっ!? そうなんですね! こんな使い方で合っているでしょうか。…さて、本題に入りまして、今月のお題は【ポーランド映画】。黒木さんは巨匠ロマン・ポランスキーのデビュー作「水の中のナイフ」をチョイスされましたが、なぜにこちらを?
黒木 ポランスキー監督の「おとなのけんか」がおもしろくて、もっと作品を見てみたいと思ったことが直接のきっかけです。「水の中のナイフ」はシチュエーションがほとんど変わらず、登場人物も一組の夫婦とヒッチハイクをする若者の3人のみという設定にひかれました。夫婦が所有するヨットで湖上に出るまでは淡々と話が進んでいきますが、若者が彼の唯一の”持ち物”とも言えるナイフを取り出してから、物語が少しずつ不確定な方向へ動き出していく…。わずか1日半ほどの出来事で映画を一本撮ってしまう技量に驚きました。
──若者の出現が、裕福だけれども倦怠期を迎えていた夫婦が内包していた危うさをあぶり出していきます。
黒木 お金も地位もあるのに、夫のアンジェイは”若さ”に嫉妬して、自分の力を見せつけようとする。一方の若者も、先の尖ったナイフのように、アンジェイの振りかざす権威にたてつこうとする。そんな男2人の子供っぽさが、妻のクリスティーナの存在感を際立たせているのが、何とも興味深いなと思いました。
──やはりクリスティーナの目線で物語を追っていったという感じですか?
黒木 いえ、わりと俯瞰して3人の関係性の変化を追っていたと思います。ただ、彼女が画面に登場する時にかけているメガネが印象的なかたちをしているので、気にはなってしまいますよね。どことなく怖そうに見えてしまうという…(笑)。ビジュアルによってイメージが左右されるんだなと、改めて感じたのも確かです。
──なお、クリスティーナ役のヨランタ・ウメッカは演技未経験だったとか。
黒木 私もそれを知って驚きました。また、アンジェイと若者の視点によって、クリスティーナの見え方が変わってくるのも印象的です。妻と女性という二面性を映し出していますが、彼女が次第になまめかしく見えてくるのも暗示的でありますよね。
──アングルによってはオードリー・ヘップバーンのように見えたりもして。
黒木 美人な方ですね。ポランスキー監督にとってもミューズだったのだろうな、といった想像もしました。
【後編】へ続く(5月7日UP予定)
| 「水の中のナイフ」(’62ポーランド) ヨットの上で繰り広げられる男女3人の心理劇 バカンス中の裕福な中年男とその妻、そして彼らに誘われヨットに同乗したヒッチハイカーの青年。湖上の閉鎖空間で、彼らの関係に微妙な変化が生じはじめる。ポランスキーの長編初監督作にして国際的に高い評価を得た傑作サスペンス 監督・脚本/ロマン・ポランスキー 脚本/イエジー・スコリモフスキ 出演/レオン・ニエムチク DVD&BD/マーメイドフィルム |
| <PROFILE> くろきはる 1990年3月14日、大阪府生まれ。NODA・MAP番外編「表に出ろいっ!」(’10)で本格デビュー。「小さいおうち」で第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。現在放送中のNHK連続テレビ小説「花子とアン」では主人公の妹、安東かよを演じている。その他の待機作に、映画「繕い裁つ人」(2015年1月公開) 最新情報は公式サイトへhttp://www.tokyo24.jp/artist/kuroki/ |
取材・文/平田真人 撮影/石川信介 スタイリスト/井伊百合子 ヘアメイク/北一騎








