今年4月〜6月にテレビ朝日系で放映された警察ドラマ「遺留捜査」。ちょっと特異な個性をもつ科学捜査係、糸村聡を演じるは上川隆也だ。糸村は、被害者の残した"遺留品"から、たどりつけなかった犯人を暴き出す。
―まず最初に、キャラクターをどこまで作られたのかをお伺いしたくて。なぜかと言うと、上川さんが本作で演じた糸村という犯罪捜査係の主人公は、見かけひとつとってもカバンを斜め掛けしたりスニーカーだったり、おっちょこちょいでお茶目で若干デリカシーがない、というキャラです。こういうキャラは珍しいと思います。このキャラをどう作っていかれたのかなと。
上川隆也(以下 上川)「まず外見に関して言うと、これは最初の衣装合わせの段階でほぼ100%できてしまっていたんですよね。その場にいてくださった監督やプロデューサーの皆さんや、もちろん僕からもいろんなアイデアを出し合いながら、衣装合わせを2回くらいしたんですよ。普通は衣装合わせは1回で終わらせるのが経験としては多かったんですけど、そうやって2回も衣装合わせを重ねることで作ったものだからこそ(珍しいキャラになった)、ということがあったのかもしれません。印象に残っていただけたのだとしたら」
―上川さんも結構意見を言われたり?
上川「糸村は基本的にはスーツなんですが、スニーカーを履いているようなキャラクターにしたいという(脚本家とプロデューサーの)意向をもらったので、そこから派生して、ある程度ブロークンな部分を盛り込んでかまわないキャラなんだというコンセンサスをとれたんですよね。なので、じゃ時計も最新式のっていうのよりはデカくて見やすい彼自身の合理性を表現するものにしてみたりとか、髪の毛のモジャモジャも、捜査一課というスタンダード・スタイルの人たちと対比できるようなスタイルにしようとか、スタンダードがあったからこその作り込みができたのは確かです」
―小道具ひとつまでこだわっていらっしゃるなと。
上川「主演をさせていただくにあたって、できる限り役柄の"物語"に即した意向を皆さんからいただきたいと思いましたし、作品をすべて撮り終えたときに、あそこはああすればよかったって思いたくなかったので、だからなるべくお伝えしたいと思ったことはお伝えしましたし、衣装合わせの時点からそういうスタンスではおりました」
―本作の公式サイトに、カバンの斜め掛けを上川さんが提案されたと。
上川「はい。自転車が主に移動手段になるという彼の生活スタイルが脚本に書き込まれておりましたので、自転車で動く人間のやりそうなことっていう。最初はメッセンジャーバッグを使わせていただこうかと思ったんですが、どうもそれではなりがデカくなりすぎるんですよね。そこでタウンバッグくらいにして。でもその中から大きさが予想できないようなものが出てきても面白いんじゃないか、というアイデアの飛躍がありましたけど」
―確かにそれは面白いですよね。楽しいですよね、そういうキャラ作りは
上川「はい、スタッフの皆さんが十分に答えてくださったので。あのバッグの中には、常に鑑識に使える道具がごっそり入っているんですよね。巻物になっているような道具入れとか、メジャーとかピンセット各種とか。重たいんですよ!(笑)」
―ハハハ。大工さんじゃないんだから、みたいな。
上川「ええ。でもその重みが有難かったりして。常に本物が入っていたんですよ」
―わりとお茶目系なキャラっていうのも、上川さんには珍しいですよね?
上川「これもスタンダードとの対比から作った部分が大きくて。実際に鑑識係に勤めておられた刑事 警察監修の倉科さんという方に立ち上げ以前からお話を伺ったんです。(彼は)あるべき鑑識とかあるべき科学捜査係、といえるようなきらびやかな来歴をお持ちの方なんですが、その話を伺ってそこから外していこうと思ったんですね」
―外して?
上川「なにしろ糸村は、全話通じて捜査一係からどこか鼻白まれている言動があるので、係員として真っ当ではそうはならないであろうという発想から、その人となりやものの考え方に至るまで、少しズレた人にしていこうというのがあったんですね」
―やっている間にキャラクターが育っていった感じですか?
上川「糸村という人間は第1話でかなり出来上がった感じはありますね。上に色を重ねていこうということではないです。ただ彼の能力はその限りではなくて、何をしてきた人なのかがちょっとわからない人間だったので、逆に言ったら何でもできていいんじゃないかというのがあって。脚本も監督も彼の行動にいろいろと盛り込んでくださったので、正直、まだまだどんなポテンシャルを秘めているのか、僕自身もわからないところがあるんですよ」
―ホントにそうですね。
上川「ええ、そのうち編み物なんかをしそうなくらい。レース編みとかをキレイだな〜とか言いながら」
―そうそう(笑)。すごく変わった言葉がしゃべれるとか。アラビア語とかね。
上川「ええ、そうですよね。たぶんそういうことでもおかしくない"入れもの"になった気がしますね」
―最後まで見ていくと糸村がだんだん大胆になっていっているというか、やれることが多くなっていってるというか。意外性があり過ぎる人になってきた感じ。
上川「そういう意味でターニングポイントだったのは、第5話でしたかね、おじいちゃんと孫娘の写真の話で」
―私、あの話では泣きました。
上川「有難うございます。あの話で誘拐犯との格闘シーンがあったんですよね。もちろん当初から脚本には書き込まれてました。でも監督が闘うのはやめましょうか?っておっしゃられたんですね。キャラクターとして必要かどうかのさじ加減をちょっと図りかねてらっしゃったのかもしれないですけど、勇気をふるって、やらせてくださいと進言したんですね。で、あのシーンが撮られたんですけど、でもやっぱり視聴者には意外だと感じてもらえたみたいで、糸村があんなふうに闘う人だとは思わなかったと。これがむしろ面白味になったなと僕は思えたんですね。糸村っていう人間の読めなさというか、ああこんなことできるんだと思っていただけたなら、それはそれで楽しくなるなと」
―ホントそう思いました。今までのドラマではあそこでは闘わないとなると思いますもんね。相手に向かっていった〜?!という意外性。
上川「ですから、そのあとの話においてもそういった大胆さが濃くなったんだと思います。やっていっていいというような確信めいたものを手に入れることができましたので」
―もうひとつこの作品で楽しかったのは、共演者の方たちのキャラなんですよね。いちいち濃くて、レギュラーの方もゲストの方もすごく曲者ばかりで。大杉漣さんとか佐野史郎さん、貫地谷しほりさん、螢幸次朗さん、江守徹さんとかベテランも多いし、"競演"っていうのをすごく感じたんです。アンサンブルの効果を感じられましたか?
上川「う〜ん、全体的に言うと"共演"のほうが強く感じられる現場だったのは確かですね。とても経験豊富な皆さんとご一緒することができましたので。まさに"あうん"なんですよ」
―あのセリフや間はアドリブなんですか? 全部シナリオ通り?
上川「今回監督はそういった面では僕らにすごく自由にやらせて下さいました。リズムややり取りのテンポみたいなものは役者にとても委ねてくださいましたね。なので、現場でやったものがほとんどでした」
―アドリブもあったんですか?
上川「セリフには即しているんですが、言い方でどうリズムを作っていくか。どちらに流れて欲しいという意向は監督から伝えられますけど、それにどういうふうな色付けをしていくかというディテールに関しては、役者が担った部分がとても大きかった気がします」
―だとすると、螢さん演じる捜査一課の宮下とのやりとり、糸村が先に現場に来ていて、宮下が『お前なんでいるんだ』と聞くと、いつも糸村が『お構いなく』って言うシーンや、波岡一喜さん演じる科学捜査係の横山とのやりとりとかに、ちょっと漫才コンビみたいな間があったりして。あれは現場でつくりあげていったんですか?
上川「そうですね、テストから本番に至るまでで作っていって、出来上がったものを収録していただくということが多かったですね」
―回を追うごとにあの関係性は濃くなっていっているような気がしました。
上川「初回から、皆さんご自分のキャラクターに対する思い入れがあったんでしょうね、遠慮がなかったというか。螢幸次朗さんの、結局決めゼリフになったしまった『労を惜しむなよ』っていうのは、あれはまさにアドリブだったんですよ。あるシーンの最後に螢さんがポッと口になさったのが、キャラクター付けになっていった。そういう意味でも皆さん果敢でしたね」
―自分のキャラを作り上げるのに果敢。
上川「ええ。僕もキャラ作りに関してどんどん大胆になっていけたひとつの理由かもしれませんし」
―楽しかったです、一人ひとりのキャラが濃くて。この人が出てくるとこう言うだろうな、とかいうのが読めたりして(笑)。
上川「そういうキャラって楽しいんですよね(笑)」
―貫地谷さん演じる捜査一課の織田との対比も。彼女はすごくカタいっていうか。
上川「ハイハイ」
―逸脱をあまりしないという。糸村さんとのやりとりもなんか、うわ、ズレてる!というような(笑)
上川「(笑)。そこがまた彼女の感性なんでしょうけど、僕がことほどさように、逸脱していく方向に流れる、作っていくキャラクターでしたので。別に彼女とは相談一切してないですが」
―そうなんですか?
上川「彼女は彼女で、むしろ"ちゃんと規律に即した警官として糸村を見ている人"を作っていったんではないかなと思うんです。特にこうしようああしようとは話したことはないのですが、私のスタンスはここだと、見い出していかれたんじゃないかと」
―きっと他の人もそうですね。糸村とどう絡むと面白いかを考えた。
上川「そう思っていただけたのなら、僕はやった甲斐がありましたね」
―みんな愛おしいキャラなんですが、私が最後までわからなかったのは佐野さんのキャラなんですが。
上川「ほうほう」
―とらえどころがないキャラというか。
上川「ハハハ」
―上司だし、いつも怒っていていいんですけど、本当のところどういう人なのか? 上に対していい人なのか下に対していい人なのか、彼の警察官としての基本線が最後までわからなかったんですけど(笑)。
上川「たぶん彼は確実に出世していく男ですよね。間違いなく」
―ですよね。実際に撮っていらしたときの面白かったエピソードはありますか?
上川「今言ったこととちょっとかぶってくるんですが、ほとんどの共演者の方とが"共演"だとしたら、唯一、甲本雅裕さん演じる村木サンとは"競演"といえるものだったような気がするんですね。彼とはすべてのシーンを話し合いながら作っていったんです。彼はとてもクリエイティビティの高い男ですので、ここをこうしようああしようというアイデアを毎回毎回持ち込んできて。それに対して僕はじゃあこうするああするって、テストの前からやり合ってたんですよ。で、テストのときに2人で、なんとなく見い出したそのシーンのビジョンみたいなものを監督に提示する。そうやって作っていくことがほとんどでしたので、これは撮影の中でもまた別の意味で楽しい一連の作業でしたね」
―最終話の、あのレストランで・・・。
上川「(爆笑)そう、あのシーンはまさにそれで。あのシーンは流れていくうちにちょっとオチが見えなくなってしまったんですね」
―(爆笑)
上川「みんなが遊び過ぎてしまったこともあったんです。波岡も含めて3人で作ったシーンだったのですが、最後のオチはもちろん甲本が『じゃあ最後は僕がこう言うから』って、脚本には書いていなかったセリフで最後を結ばれてしまったんです。でもとても3人らしくてよかったなと僕らは思ってるんですけど」
―なるほど。あのシーンはすごく覚えてますもん。突出して面白かった。
上川「村木サンと糸村のシーンっていうのは、僕らの全体の流れの中でいい箸休めになるといいなと思ってやりました」
―最後にひとつ。この作品が11話で終わってしまうのは残念な気がして。視聴者として続けて欲しいと思ってますし、「相棒」みたいな長寿シリーズのような、古畑任三郎みたいな探偵モノのような、キャラ立ちしたシリーズになっていくんじゃないかなという予感があるんですけど、いかがでしょう?
上川「もうそりゃ僕もそうなってもらえるならそれに越したことはないというか、うれしい限りですけど。望んでいただけるなら何よりですよね」
―まだまだやり残したことがあるんじゃないですか。あのキャラならもっとこういうこともああいうことも、みたいな。
上川「やり残しっていうのではなく、まだ糸村聡という男に僕自身が好奇心を持ってると言う方が正しいかもしれませんね。彼は何をできるのか、まだ全11話では出会っていないようなパターンの事件にめぐり合ったときに彼が何をして見せるのか、彼の可能性をとても見てみたい気がしますね」
―そうですね、まだまだポテンシャルがあるキャラだからこそ、シリーズ化してもっといろいろな事件にあたっていただかないとな、と。
上川「そうなるといいですよね。ありがとうございます」
10月21日リリース 東映ビデオ
殺人事件の被害者が遺した遺留品から、被害者の声を聞き犯人にたどり着く科学捜査係員、糸村聡。スーツにスニーカー、カバンを斜め掛けにし、自転車で現場へ駆けつける。ちょっと変人だが、周りの捜査員の思惑など気にもせず、マイペースで確実に犯人に迫っていく。