TOP > インタビュー > 宮藤官九郎監督×ヤン・イクチュン

「中学生円山」公開記念!
宮藤官九郎監督×ヤン・イクチュン 爆笑対談

2026.04.20

5月18日公開の映画「中学生円山」。宮藤官九郎の3作目の監督作品にして、草K剛主演の中学生の妄想大爆発アクション・ヒーロー物語だ。
そして、本作に韓国から、ハードなヒューマン・ストーリー映画「息もできない」の監督・主演で一躍日本でも人気となったヤン・イクチュンが参加した。撮影以来の再会というこの2人が、準備段階から撮影を、爆笑に次ぐ爆笑で振り返った。

●作品紹介

「中学生円山」

5月18日(土)東映系公開

脚本・監督を宮藤官九郎が務める。団地に住む中学2年生の円山克也(平岡拓真)は思春期真っ盛り。ある目的達成のため自主トレに励み、妄想の世界にトリップしていた。団地で殺人事件が起こり、上階に引っ越してきた下井さん(草K剛)の素性を妄想する。

パニック状態のときにオファーされて受けてしまった

――宮藤監督がヤンさんに出演をオファーされたのは、「息もできない」で気になっていたからだそうですが、彼のどこがどういうふうに気になっていたんですか?

宮藤官九郎監督(以下宮藤)「映画好きとして作品といい出会いをしたというか。まずポスターを見たとき、うわ、何だろうなこの目つきって思って。なんだか面白そうだから予備知識なく見たら、うわ、すごい!と。監督は誰だろうと思ったらこの人だった。でもそれはいち観客としての体験で、今回こういうストーリーを発想して台本を書き、韓国人の役者を探さなきゃいけない時になって、全然当て書きになってないし全然タイプも違うけど、(彼がこの役を)やったら面白いなあって思って、当たってみたんですよ。すごい役者だからっていうか、最初は役者だとすら思ってなかった。ほんとにチンピラだと思ってたんですけど(笑)」

――(そこにヤン・イクチュン登場)

宮藤「ああ、どうもどうも久しぶり。髪伸びましたね」

ヤン・イクチュン(以下ヤン)「はいはい」

――久しぶりなんですか?

宮藤「撮影以来」

――そうだったんですか。それはすばらしい。

宮藤「疲れてないですか」

ヤン「疲れてるというよりちょっとパニック」

――では続きを。

宮藤「前から僕、韓国の映画を好んで見ていたんですけど、自分の中でタイムリーだったんです」

――タイムリー?

宮藤「『息もできない』とよい出会いをした後だったので(韓国のキャストは)例えば?って言われた時に、この人って名前を出したんですよ。自分は韓国の人にオファーしたことなかったんでどういうルートで交渉していいかもわかんないけど、とりあえず待つから交渉してみてくれって。そしたらなかなか返事が来なくて、ダメだろうと思ってた。というか断ってくれと思ってた」

――ハハハハ。

宮藤「早く断ってくれないと次の人に行けないから。当時この映画の企画自体がグラグラしてたんで、何か決めたかったっていう(笑)。かといってグラグラしてる船に知らない人を乗っけるわけにもいかないから」

――(爆笑)

宮藤「そしたら返事が来て、別件で日本に来るというので、会えることになったんです。そしたらなんか…いつの間にかやることになってましたよね」

――その“いつの間にかやることになってた”くだりについてはヤンさんに直接伺うことにします。監督を前にナンですが、ヤンさんは海外のこういうハチャメチャな作品によく出演する気になったなと。出演しようと思われたポイントは? 返事にちょっと時間がかかった理由も伺いたいです。

宮藤「僕も聞きたいです」

ヤン「私が『息もできない』を終えた直後、マネージャーもいませんし、ひとり製作会社というか、すべての後作業を一人で引き受けて処理をしていたんです。ほとんどパニックに近い状態で、今もちょっとパニックだと言いましたが、その当時は経理も兼ねていたので、お金の計算やあらゆる領収書の処理をしていて、もう頭が割れそうだったんです。そんな所にこのお話をいただいたわけでして」

宮藤「ごめんなさい(笑)」

――じゃ「息もできない」の反動があって本作に出たんですか?

ヤン「目の前にいろんなものが積み重なって次から次に仕事に追われてる時は、パニックに陥ることがありますよね、宮藤監督も? 次のことを選択するような(精神的)余地がまったくない状況だったんです。パソコンに向かっていろんな処理をしているのに、ひっきりなしに『監督、次はこういうのを撮ってもらえませんか』だの『次はこんな作品に出演されませんか』などの電話が数十本かかってくるさなかだったんです。(いきなり叫ぶ)ウワ〜〜ッ! そんな時にオファーを受けました。私こそ連絡が遅くなってしまってすみませんでしたが、この件が頭の中に入ってこない状況だったんです。それで1週間後に、もう1回催促の電話を関係者からいただいたんで、それ以上引きのばすわけにもいかず、あわててグーグルで検索しました、“宮藤官九郎”を。そしたら『GO』のシナリオを書かれた方と出てきまして。その前にちゃんと本作のシナリオを読んではいて、ちょっと変態っぽいニュアンスを感じたんですけど、『GO』のシナリオを書かれた方ならきっと、深〜い密度のある映画を撮られるんだろうなと思ってOK!と。とてもシンプルに引き受けさせていただいたんです。お引き受けした後になってから、監督の『真夜中の弥次さん喜多さん』や『少年メリケンサック』を見たんですが、拝見して凍りました(爆笑)。江戸時代のゲイカップルが現代と行ったり来たりしたり、宮浮おいさんにウンチがついてたりとか(爆笑)」

宮藤「すいません(笑)」

ヤン「俳優の立場からすると、『息もできない』や『かぞくのくに』のような重い作品が続くと、そこから逃げ出したい欲望にかられるんです。消化不良に陥るわけで、その時にこの『中学生円山』に出会うことができて、とても新鮮なチャレンジになったんです。例えば『息もできない』の後に『かぞくのくに』、でその後に崔洋一監督の『血と骨』、その後に北野武監督の『その男、凶暴につき』なんかに出ていたら、私はその後10年間活動休止を迫られていたかもしれません」

宮藤「白竜さんになってましたね」

――(爆笑)

ヤン「撮影中はとにかく楽しくやらせてもらいました。監督は俳優の演技にその場で反応されるんですよ、ククク(と笑うまね)とか。ホントに楽しんで撮ってらっしゃる感じで。俳優としても、楽しそうに面白そうに撮る監督というのはなかなか経験したことがなかったんで、とてもやりがいがありました」

宮藤「ありがとうございます。でも日本の映画ファンはむしろ『息もできない』『かぞくのくに』の後は『血と骨』のような作品に出てほしいと思ってたはずなんです。だからその風当たりを感じてもいます。(ヤンさんの出演作が)お前の映画かよ、まさか次お前だと思ってなかった、という感じが。『かぞくのくに』を見た時に、この次に『中学生円山』かと思ったら…」

ヤン (爆笑)

宮藤「申し訳ないというか。彼はこの後『中学生円山』に出るんだと思ったら。宮浮おいさんの『闇の子供たち』を見た時、この後彼女は『少年メリケンサック』かと」

――彼や彼女のキャリアをね。責任を取らなきゃと。

宮藤「なんか言われるんだろうなと。でも、ご本人はこういうのも喜んでやってくれるんじゃないかな?というのもありました。会ったこともなかったんですけど、なんとなくそう思ってました」
ヤン「私は一度決めたことを覆すことはほとんどしないんです。あの時やりますと言ったのは最終回答のつもりだったんですけど、数日後にまた関係者からメールが来まして、“本当ですか?”と」

宮藤 (爆笑)

ヤン「再確認があったんですよ。おかしいな、やるって言ったつもりだったんだけどなあと思って。もしかしたら、本当に(この作品を)わかった上で言ってるんですかってことだったのかも。いずれにしても、当時に戻ってこの選択をなかったことにしたいなんて全く思ってません。とっても楽しい撮影でしたし、こんなに前向きなエネルギー、明るいエネルギーをもった監督と出会えることはあまりないので、そういった意味でも得がたい貴重な経験をさせてもらいました」

宮藤「ありがとうございます」

ホントにヤバイ奴がくるかもと思ってた

――ヤンさんは本作で韓流スター、電気工の一般人、あと“処刑人プルコギ”といろんな面を見せてくれますが、いちばん演じやすかった役、演じにくかった役、あと「あの〜、監督?」と思った役はどれか教えてください。

ヤン「韓流スターの役がいちばんやりにくかったです。そんな経験もないし韓流スターの顔でもないし、これに関しては完全にミスキャスト(爆笑)。電気工やプルコギのときはそんなに大変でもなかったです」

宮藤「しかも韓流ドラマのシーンは映画全体のクランクインの日でもあって、どう思うかなあと心配しました。日本には韓流ドラマを見る奥さんたちがいっぱいいて。それに対してヤンさんや韓国の人はどう思ってるのかなと、ちょっと知りたかったんです。いざ撮影が始まったら、彼はすごくいっぱい引き出しをもってるんです、韓流スターの。こっちがどういうテイストで撮りたいかを瞬時に理解して反応してくれる。ズームしていくんで、相手の名前を叫んでくださいって言ったんですが、そのシーンがある種パロディになるっていうのを説明しなくても理解している。そういう批評的な目をもって見てるんだなって感じました。実際はどうなんだろう?」

ヤン「ほとんど韓国のテレビドラマは見ないんですけど、韓国のドラマはある種マンネリに陥ってるんじゃないかと思うんです。韓国でもやっぱり主婦層やお母さんたちがドラマを見てるんですが、母親の世代の主婦層は泣きたいことがあっても泣くことができなかった。それをドラマが解消する役割を果たしてきたという経緯があると思うんです。それが日本に輸出されてこれだけの反響を起こしているのは、私にとっては不思議なことでもありますが、ある種のノスタルジーが日本人の中にもかき立てられているのかなと思いますね」

宮藤「日本ではやっぱり日本のドラマに飽きた人というか、満足できなくなった人が見てるんじゃないかなあと、僕は勝手に思ってますね。なるほどね。泣きたい…」

――宮藤監督自身はどう思われますか? 韓国ロマンスドラマの展開、ケガや病気が何度もあったり実は兄妹だったりとか、そういうのについては?

宮藤「単純に、面白いですよ。言葉は理解できないけれど、それでちょうどいい感じ。画だけ見てるだけで何か伝わる。一方、韓国映画は、何て言えばいいんでしょうねえ、僕らが思ってる以上の、そこまでやるかっていう(暴力表現が)、あるじゃないですか」

――はいはい。

宮藤「やっぱり国が違うんだなって見るたびに思う。興味深いですよね。で、ヤンさんに対しても、僕はやっぱり『息もできない』のイメージがどっかにあったんですよね。ほかのスタッフはたぶんもっと思ってた。事前に彼に会ってないから。本当にヤバイ奴が来るんじゃないかって」

ヤン(爆笑)

宮藤「(笑)いきなり殴られるんじゃないかと。あの映画はすごいパワフルだし、やっぱりそれだけのインパクトがあった。でも本人は、コメディのセンスがすごいあったんですよ」

――そこ、聞きたかったんです。

ヤン「私は笑える人間ですよ」

全員 (爆笑)

ヤン「2010年に韓国のコメディ・タッチの映画に出たこともあるんです。それはヒットしなかったんですが、ちょっとマヌケな足りないキャラを演じたんです。俳優として、そういうコミカルなキャラをやってみたいという欲望があるような気がします」

宮藤「僕がすごくいいなと思ったのは、奥さんに誘惑されるシーンで、坂井真紀さんがちょっと胸の谷間を見せると、一瞬だけ見る、でちょっと目をそらす、その表情がすごく自然でよかった。彼には何も言ってなかったんですけども」

――じゃ、あの一瞬の反応はお任せでやってもらったんですか。

宮藤「坂井さんには演出したけど、ヤンさんにはしてないんですよ。僕は言葉がわからないんで、セリフのニュアンスはお任せになっちゃうんですけど、言いよどんでる感じとかも上手なんですよね。すごいなあって思いました」

ヤン「監督が映画の中で表現されているさまざまな妄想が、男として共感できることがもういろいろありまして。もちろん私は日本人じゃないんで描かれるすべてを理解することはできないけど、共感できるポイントがいくつもあったんです。特にあの、下を向いて(股間を)なめようとする、ああいうのはもう誰しもが経験する…」

――(爆笑)ホントですかあ〜?

ヤン「あれやらなきゃ男じゃないですよ!」

――私たち女は全然わかんないんですけど(笑)

ヤン なめるまね(爆笑)

――(女は)しないしない、絶対しないです! 本当に監督もヤンさんも中学生の時やったんですか〜?

宮藤「世の中に不可能があるってことをそれで学ぶ(笑)」

ヤン「ベッドにカーテンを引いてやってる(爆笑)。今でもやってるかもしれない」

宮藤「こんなに共有できるとは思わなかった。中学生の時はまさか誰かと共有できると思わないから。学校行って『なめようと思ったけど届かなかったよ』って言えないから、自分だけだと思ってたんですけど、実はみんな試していた(笑)。そんなもんです」

――ヤンさんは本作の中学生の、いろんな妄想シーンをどう思いましたか? 韓国のコメディにはないシーンですよね。

ヤン「いちばん印象に残ってるのは、主人公と女優たちが裸で踊ってるシーン(笑)。あの中学生になりたいと思いました」

宮藤「ありがとう、ありがとう!」(握手する)

 

●プロフィール

宮藤官九郎
1970年宮城県出身。脚本家、俳優、作詞・作曲家、放送作家、映画監督。脚本担当映画は「GO」「ピンポン」「木更津キャッツアイ」シリーズ他、監督映画は「真夜中の弥次さん喜多さん」「少年メリケンサック」がある。現在はNHK、朝のテレビ小説「あまちゃん」を執筆中。

ヤン・イクチュン
1975年生まれ。韓国の俳優、映画監督。’02年「品行ゼロ」でデビューし、「ARAHANアラハン」「私たちの幸せな時間」「かぞくのくに」他に出演。「息もできない」では監督・主演他を務めた。

撮影/栗栖誠紀 
©2013「中学生円山」製作委員会