新作公開を記念し、DVD-BOXをリリース!
塚本晋也監督、超ロング・インタビュー「20年間、テーマがどう変わって行ったか」

5月22日に新作『鉄男 THE BULLET MAN』がいよいよ日本解禁になるのを記念し、5月28日に21世紀の塚本監督作品を網羅したDVD-BOX「塚本晋也COLLECTOR'S BOX 2001-2010」が発売になる。塚本晋也監督が、映画製作に対する姿勢、そして追い続けるテーマについて、熱く語ってくれた。

イベントに本にフィギュアに、すごく忙しい

ーお忙しそうですね。

塚本晋也(以下塚本)「『塚本晋也大図鑑 SHINYA TSUKAMOTO FILM FESTIVAL 2010』というタイトルで、全作品を上映しています。他にも、『バレット・バレエ PREMIERE VERSION』の特別上映、『鉄男』『鉄男・ BODY HAMMER』を吉祥寺バウスシアターで爆音上映、あとは『鉄男 THE BULLET MAN』の小説を書いたり。「塚本晋也読本 SUPER REMIX VERSION」という、キネマ旬報社で出していただく本のチェックもしています。それと、『完全鉄男「鉄男」から「鉄男 THE BULLET MAN」までの軌跡』という、写真集のような、図鑑のような、とても豪華な本も出ました。あとフィギュアを作りますね。今度の『鉄男 THE BULLET MAN』のものです。それにもこだわって、「もっとああして、こうして」と指示を出しています。」

ーその「完全鉄男」は20年前の資料から集めて?

塚本「昔の資料を引っ張り出して。本当に(自分の)お尻の穴を見せるようなものです。すっごく恥ずかしい、台本に書いてあるちょっとした覚書きも全て載っています。」

ー残っているものなんですね。

塚本「それはわりと残していました。だけど編集者の人が家捜ししなかったら、永久に忘れ去られていたものでした。」

ー今回、DVD-BOXは二度目ですが。

塚本「初期の頃にLDで、結構大きくて、すごく良いデザインのものを作ってもらって。その次に、『六月の蛇』を作った頃にDVD-BOXを作ったんです。今回はその続編といった感じで、『六月の蛇』以降の作品を収録しています。そこに『バレット・バレエ』のプレミアバージョンを、僕のお願いで入れてもらいました。僕自身、日本で公開していた87分版よりも、海外で上映していたこちら(98分版のプレミアバージョン)のほうが良かったのではないか、と思ってしまったもので。」

ーLDも出ていたのですね。

塚本「すごくいいものでした。デザインも凝っていて中に冊子が入っていて、図鑑みたいな感じの面白い」

ー今回のDVD-BOXはほぼ10年間のキャリアが詰まっているのですね。

塚本「そうです。『鉄男 THE BULLET MAN』のまさに直前までの全部です。」

40代は肉体の内部に目が行くようになりビデオの登場で多作の時代に

ー20年以上あるキャリアの後半は、前半と比べてどんな10年でしたか?

塚本「前半は・・・『鉄男』や『電柱小僧の冒険』もそうですが、あのときはサイバーパンクというSFムーブメントがあって。テーマはSF的だけど、都市で生きている感覚がテーマなんです。現実が夢のような感じであるというか。『マトリックス』の中で描かれていたようなことですね。」

ー『マトリックス』より相当早かったですよね。

塚本「そうですね。現実感の希薄さの中で、ある時はSF的に、ある時はボクシングや拳銃を通して、自分たちが生きてる人間であるということを一生懸命探そうともがいている人たちを描いていました。当時はフィルムで撮っていましたが、フィルムで撮るのはすごく大変なので、2年に1本、3年に1本のペースで撮っていましたね。今回のDVD-BOXは僕の40代、前のDVD-BOXは僕の20代の終わりから30代いっぱいという感じなのです。 僕、1960年の1月1日生まれなので、きっちり10年単位が数えやすいんですよね。 若い頃は、ヤンチャで暴力的な感じばかりで走っていました。40代になると、テーマは同じ「都市と人間」でも、(映画の)デザインが、ボクシングや拳銃を使うのではなく、肉体そのもの、エロティシズムに行ったり、肉体からさらにその内部まで撮っていくようになりました。 「意識」とは、非常にはっきりとしているものであると同時に、すごく不確かで曖昧なもの。それでも確かなものだと信じたい、という気持ちが高まっているのが『ヴィタール』です。 そして、『HAZE オリジナルロングバージョン』から、撮影がビデオになるのが、大きく変わったことですね。極端なことを言えば もしかしたら僕の40代は、『ヴィタール』で終わっていたかも知れないんです、テーマ的には。この頃に『ヴィタール』のようなテーマで4本くらいのプロットがあったんです。それをどういう形で表すのが一番良いのだろうと考えていたのですが、ビデオのおかげでそれらを全部作れてしまった。『HAZE』が、まずそのうちの1本です。『悪夢探偵』はもともとやりたかったモチーフでしたが、『ヴィタール』と同じく、人の意識の中の話でしたし。実は『鉄男 THE BULLET MAN』も、『ヴィタール』の頃からずっと同時に考えていました。企画としては"鉄男アメリカ"という太い軸がありましたが、テーマ的には『ヴィタール』の時に考えていたテーマを使ったんです。 このように、同じテーマをビデオという表現の手軽さのおかげで様々な角度から見つめ直すことができた。もしかしたら作らないで終わっていたかも知れないのに、思いついたアイデアをどんどん作れた。特に40代の後半は、生涯後にも先にもないかもしれない、多作な時代になったという感じですね。」

ービデオの手軽さが創作を変えた?

塚本「そうです。簡単でもあるし、便利。編集もかなり効率良くなりましたし、お金もフィルム時代と比べてずいぶん安くできるようになりました。そういった物理的なことも影響してますね。」

ーわりと画期的な出来事でしたか?

塚本「かなりたくさん、やりたいと言ってたことをどんどん出来た、嬉しい時期でした。」

ーフィルムに強いこだわりはなかった?

塚本「フィルムへのこだわりはありました。ビデオで嫌だったのは、ビデオらしい平面的なギザギザした質感が映ってしまうような画面。でも、それも今のビデオは解決している。解決した以上、フィルムの方がいいと言い張る気持ちも全然ない。昔のものに固執するというよりは、自分が思ったものを撮ることが出来るなら良い。思ったように撮れないなら、フィルムにするだけのこと。今のところは『ヴィタール』のような映画はちょっと迷いますけどね。『ヴィタール』はフィルムでしかありえなかった。自然の風景を画面に入れたのですが、緑のキレイさがビデオの画面ではキレイになりきらなかった。『ヴィタール』は、自主映画なのに35mm(フィルム)で撮った最初の映画なんです。自主映画だけど、同時録音と35mm。それ以降はビデオになりましたが。」

昔の作品もアリじゃないかと思ったり ケリのついていないテーマが見えたり

ー今回のBOX収録作品についてお聞きしたいです。まず『バレット・バレエPREMIERE VERSION』(98分版)ですが、あらためて収録したいと思われるほどに、87分版とどこが違ったのでしょうか?

塚本「最初に映画祭用に作った時は、ちょっと長すぎたかな、と。各国で評論を書いてもらったのはこちらのプレミアバージョンでしたが、日本では編集し直して、もっとソリッドな形で公開したんです。そっちの方が絶対にいいと今まで信じていました。ところが、ある映画祭で『バレット・バレエ』が上映され、久々にじーっと観ていたら、プレミアバージョンが上映されていたんです。「しまった!」と思いながら観ていたんですけど、観ているうちに「こっちの方がいいのでは・・」と思い始めて。」

ー偶然、最初のバージョンをご覧になったんですね。

塚本「そうです。それから東京に帰ってきて、もう一度プレミアバージョンを見直しました。そして、やはりこっちの方が本来の『バレット・バレエ』かも知れないと思ったんです。『鉄男』も初号が上がった後に、やり直したんですよね。明らかに後のバージョンの方が良くて。ただ、『バレット・バレエ』に関しては、海外で上映したプレミアバージョンの方がいいと思えてしまった。もちろんだからと言って日本公開した87分版はだめ、ということではなく、絶対にそれはそれでアリなバージョンだと思います。87分版をプログレスバージョンと呼んでいるのですが、プログレスバージョンは、あくまで編集してソリッドに、映像的にシンプルでタイトで激しいものに変えたものなんです。こちらの方が多く流通していているので、それはそれでいい。これから機会があっておススメするのはプレミア・バージョンかなと。」

ー「バレット・バレエ」は、前半のキャリアのテーマだった「都市と人間」や「暴力」といったものの集大成でしょうか?

塚本「なるほど、そうですね。それまで『鉄男』、『鉄男・』や『東京フィスト』で、自分が若者としての目線で都市の中を奔走していましたが、『バレット・バレエ』の時は38歳になっていましたから、中年目線なんですよ。中年が、映画の主人公になる不良やチーマーたちを見ている。戦争を体験してない者同士の暴力なんですよね。青白い火花が散っている感じで、最後に井川さんが戦争体験者として「君たち遊んでるんじゃない」と、本当の暴力を見せつけるんです。そこで本当の暴力を目の当たりにした時に、自分としては、一回確かに、「都市と人間」の話は終わったという感じです。 それから目線が肉体そのものへ。『ヴィタール』は亡くなったご遺体をさらに深い愛情で触りまくっていく話。それまでは、ピチピチ暴れていたのが、奥深くに入り込んでいくような、そんな40代。自分の生活にもピッタリとシンクロしている感じなんです。子供ができたのと、両親がだんだん弱っていく、命が危なくなっていく状況が、身近な自然を見ているような感じでしたね。」

ーでは「バレット・バレエ」で何かひとつのケリがついたような感じがあった?

塚本「本当に正直に言うと、ケリをつけたかったのに、何だかまだついてないような感じがその時はしていたんですけどね。困ったなあ、と思いながら、悶々としていた。でも、今10年たって『バレット・バレエ』については、逆にこの時点でのケリは結構ついてるのかなあとも思っています。前のDVD-BOXのインタビューでは『バレット・バレエ』がケリがついてない、困った、と言ってましたが、今度のDVD-BOXのインタビューでは『バレット・バレエ』ケリついてたわ、むしろ『ヴィタール』のテーマにケリがついてないような気がしてきたわって。」

ー「バレット・バレエ」の井川比佐志さんのアクションシーンは本当にカッコいいですよね。

塚本「そうですね。井川さんは素晴らしい俳優で、黒澤映画に出てるような俳優なんですが、現場では本当に物腰の柔らかい、いわゆる俳優さんという感じ。演技をしている時はすごいのですが、待っているときは『待ち時間は役者の仕事です』というようなことも言ってらっしゃいますし、優しい方です。劇中でも、戦争体験者の凄味を出してくださって。中年の38歳の目線で、年下の若者と年上の井川さん世代とも対峙したような感じですかね。」

49分をワンカットで撮った「とかげ」 親子の愛情がテーマの『悪夢探偵2』

ー順番としては、次の作品は「とかげ」になるわけですが、これは今回が初DVD化ですよね。

塚本「そうですね。テレビの放映のために作ったものですが、思い入れのある作品なので、この大事なDVD-BOXに入れてくださいと頼みました。」

ー吉本ばななさんの原作を選ばれたのは塚本監督だったんですか?

塚本「もちろんです。自分が好きなものじゃないとね。」

ー製作の経緯を教えてください。

塚本「まず番組が49分なんです。だから49分の中で最初から最後まで全てを朗読しきれるもので、と考えたんです。ほかの監督の方々の作品を見ると、もっと長いものを切り抜いて、カットを分けて朗読していたんです。自分としては、49分の中で完結しているもので、且つ俳優が一続きのテンションで最初から最後まで読めば、その朗読は生き生きしたものになると考えました。少しでも飽きない方法はないかなと考えたんです。1個のカットの中で全てを読むと、そこにすごい緊張感が生まれる。その緊張感がもし見てる人に伝われば、うまくすれば飽きるどころか瞬きをする時間もなくなる可能性もある。その二つのことを考えたんですよね。それで、読むに当たっては大事な小説を選びたいということで、「とかげ」を選びました。あとはりょうさん。りょうさんにとっても冒険だったと思いますが、新しいものを感じて喜んでいくことができるチャレンジャーだった。この「とかげ」でもチャレンジャーになってくれるかも、ということでお願いしました。本当に一生懸命チャレンジしてくれました。」

ーワンテイクですが、昼から徐々に暗くなっていく時間の流れがありますよね。1日ワンテイクしか撮れないんじゃないかと思ったのですが。

塚本「1日ワンテイクしか撮らなかったですね、確か。1日ワンテイクで2日か3日。ゲネプロ(本番通りの練習)も撮影して、最後に一番いいものを選びました。」

ーりょうさんの細かい動きはかなり緻密に決められたんですか?

塚本「かなり緻密に。現場では1日でしたが、ロケ場所を僕が知っているので、それをりょうさんに口で説明しながら、リハーサルルームでリハーサルを何度もやりました。ほぼ全部OKになるくらい、よくリハーサルして現場に行ったんです。俳優は一番大変ですけど、カメラも、実を言うと直前まで、思ったように身体にフィットしなかったんです。それを一生懸命調整してもらいました。当時、カメラは今ほど小さくないですし、いっぱい人がゾロゾロとついてまわって。照明も、基本の照明以外にりょうさんの顔がよく見えるように抑えライトがありましたし、録音についてもマイクがちょっと見切れたらもうアウトですからね。昼から夜になる時間の流れは、全ての窓に暗幕を静かに音もなく皆で下ろして夜にしたんです。夜にしながら夕陽の灯りを照らす。その夕陽の灯りも、何度テストしてもだんだんと暗くならず、パッと一気に変わってしまうんですよ。ゆっくり夕焼けみたいにならなくて、最終的には根性だけで夕陽にしていきましたね。そういった条件の中で、みんな息を飲むような気合いでやった。一番集中するのはりょうさんだけど、ほかのスタッフもみんな同じくらい集中してやりました。」

ーカメラを回したのは塚本監督ですよね?

塚本「はい。それは僕以外に考えられない。もちろん緻密にやっているんですが、なにかいい意味でのハプニングが起こったりしましたね。偶然だったか狙いだったか定かではないのですが、原作のちょうど手で病気を治せるという話の部分で、りょうさんが手を動かした瞬間、そこに光がビカッと来た。あと、りょうさんの顔のアップが好きなので、りょうさんの顔の変化を、息を呑みながら特等席で見ているような喜びがありましたね。」

ー効果音は足してたのですか? それとも現場そのままですか?

塚本「足してますね。いつも一緒にやってる人につけてもらいました。でもかすかにです。カーテンの中に入った時に、海の近くの鳥の声が聞こえたほうがいいと思ったので、入れてもらったり、工事現場がすぐ近くにあるような音をガンガン!と。」

ーああいう工事の音って、塚本監督作だなと思いますよね。

塚本「そうですよね(笑)」

ーその次が『ヴィタール』ですが、先ほどからお話を伺っていると、重要なテーマの転換作のように聞こえました。

塚本「自分としては自然な流れで来ている気がしますけどね。『ヴィタール』で一回テーマが落ち着いて、それまでの激変したテーマから他に移っていないからでしょうか。その後は同じテーマのことを色々なやり方でいじくりまわしてるような5年間だった気がするので。」

ー先ほどもおっしゃっていた、『ヴィタール』の流れの中に最新作『鉄男 THE BULLET MAN』もあるというのが意外でした。

塚本「『HAZE』や『悪夢探偵1』と比べるとつながりとしては少し薄めです。『ヴィタール』と『HAZE』、『悪夢探偵1』とはかなりお友達ですね。前は自分の肉体が20代、30代と若かったこともあって、「都市」というコンクリートの中でスーパーボールみたいにパチパチ弾けている映画をつくっていたのですが、『六月の蛇』の頃には40代になって、「肉体」そのものに目線が寄って行きました。そして『ヴィタール』で、その「肉体」の中に深く入って行った。身体の仕組みをすごく知りたいのと同時に、こんなにはっきりしてる「意識」というものは、この肉体の中のどこに入ってるんだろう、と。解剖実習にも通って先生にもそれを聞きました。そうしたら、「昔は心臓にあると言われていましたが、今は脳にあると言われています」とおっしゃっていました。それで、実際に脳みそも全部解剖していくんですが、当然のごとくお肉があるだけ。もう少しアンテナのようなところがあるのかな、デリケートな感じのところがあるのかな、と思っていたけど、特に何もない。結局、「いやぁ、分からないなぁ・・」という感じでした。「意識」というものは、ひどく曖昧。でも、確かなものとしてあるんですよね。 『HAZE』も、記憶を無くしている男が、自分が今いる場所も分からず、でも実は一緒に逃避行している女は大事な恋人で、やがて確かな愛情を取り戻していく、という話。自分としてはかなり、不確かだけど確かなものである"意識"に、すがりつきたい気持ちで撮った映画です。『悪夢探偵』もそういった男が主人公で、彼が人の意識に入って行って、悪夢探偵として事件を追っかけるのです。 『鉄男 THE BULLET MAN』が、そういったテーマの流れの中でどうして一緒だったのか、パッと思い出せないんですけど、『ヴィタール』の解剖のイメージが沢山入っていたりはしますね。鉄になっていく男のアイデンテティーの希薄さで同じテーマを謳っているところがあります。実は、『HAZE』に出てくる僕が演じた男と、『悪夢探偵』の"ゼロ"という犯人の男は、全く同じ衣装を着ていて、同じところに傷もある。僕の中では、同じ人間なんです。『鉄男 THE BULLET MAN』では、その人間は×印のゼッケンを付けたりもします。最初はスーツも着ていますが、ひとりで部屋にいるときは『HAZE』『悪夢探偵』と同じ衣装を着ています。『ヴィタール』以降、同じテーマでずっとやってきていたので、映像の中でも同じ人間を刻印として出していたんですね。『鉄男 THE BULLET MAN』は『バレット・バレエ』の頃から出てきた"戦争への恐怖"がふくらんだもの。無意識だったんですけどね。今はインタビューなので、意識的に喋っていますが、あとから自分で自分の心を探ったら、戦争への恐怖が関わってきていた、という感じです。」

ー戦争というものへの意識が変わったということですか?

塚本「そうですね。子供の頃から戦争のことを読んだりすると怖くて、何かで表現したいとは思っていたんです。子供ができると、その思いが格段にくっきりと強くなって、きちんと描きたいな、と思ったんです。」

ー"ヤツ"、"ゼロ"と名前が変わったりもしていますが、基本的には同じキャラ。

塚本「そうですね。ストーカーで、人の心の暗部に歩み寄って、挑発して、違うものにしてやる!というキャラクターです。」

ーそれも塚本さんが演じることで、塚本作品の名物となっているわけですよね。

塚本「そうなんですよ。その名物も『鉄男 THE BULLET MAN』でいよいよ終わり。ラストヤツ、ラスヤツ、ラスヤッちゃんって呼んでいるんです。もう体力的・年齢的にもやれないです。」

ーあのキャラクターはどこから生まれたんですか?

塚本「どこからか分からないんです。『普通サイズの怪人』という、『鉄男』の原型になった8ミリ映画で生まれたのですが、どこからなんですかね・・。悪意のカタマリで、世の中への憤りがあって、主人公を挑発する。僕自身はそんなに憤っていないんですけどね。でも自分の暗部を無理矢理掘り起こした存在なのかな、と思います。」

ー『六月の蛇』はどんな位置づけでしょうか?

塚本「まさにエロスですね。エロスは違う作品でも、いつも何かしら感じさせていたつもりです。大事なので。そして、まさに恥ずかしいくらいに、そこに目を向けたのが『六月の蛇』。最初はSMサスペンスにしようと思っていましたが、最終的にはそういうニュアンスにならなかったんです。もっと昔に作っていたとしたら、蹂躙されている女の人のサスペンス・ホラー、スリラーみたいになるはずでした。結局、夫婦の親和感といった話になっていきましたけどね。」

ー最初の思惑とはだいぶ違ったわけですね。

塚本「全然違うものになっちゃいましたね。大まかな筋は一緒なのに、底に流れるものが全然違うものになりました。」

ーそれは、若い頃からの自分の変化と関わっているんですか?

塚本「そうですね。子供ができて、親が弱ってきて・・。そういうものを間近に見て接したので、どうしても映画に投影されてくるのかな、という気がします。」

ーそれは、一種の優しさでもあるのでしょうか?

塚本「はい。以前よりもそういう部分はありますね。身近に、確かに愛情目線で見ているものがあるので。」

ー『悪夢探偵2』は優しさというか、親子の情が直接的に出ていますが。

塚本「そうなんです。『悪夢探偵2』は深層心理や都市と人間というテーマではないです。実は「子供」や「母」というのは、自分としては裏テーマとしてずっとあったものなんですが、それが一気に前に出てきてしまった。その点で、1本だけ他とは違う映画なんです。映画としてはホラー映画で、大衆性を持ったものを作ったつもりでしたが、一番のプライベート・フィルムと言えるぐらいに、自分の感覚にフィットしている映画になりました。」

ー確かに『悪夢探偵』と『悪夢探偵2』は、テイストがガラリと変わりますね。

塚本「そうです。もともと学園ホラーや、サスペンス・ホラー・タッチのものなど、様々なバリエーションがあるシリーズにしたかったんです。『悪夢探偵2』は、その学園ホラーと、僕の子供の頃のことを描いた童話風のものを、『悪夢探偵』にくっつけた感じです。一応これで終わってもいいようにしました。」

ー短編の『玉虫 〜female〜』について。

塚本「これは企画ものですね。企画を頂いた時に、嬉しい気持ちと、自分がノレる原作がなかったらどうしよう、という気持ちがありました。『玉虫』は自分が描きたかった、愛情を注ぎこめる女性のキャラクターが入っていたので、これを選ばせて頂いた。自分が別企画用に取っておいた女性キャラクターを、髪型・ビジュアルから性格まで、この作品に投入しました。いいや使っちゃえ、と思って使っちゃったんです。」

吉田恵輔監督が最初に塚本組に参加した頃

ー作品の流れとは話がズレますが、映画監督の吉田恵輔さんが塚本組のスタッフとして参加されたのはいつ頃ですか?

塚本「『バレット・バレエ』からですね。最初ボランティア・スタッフから始まりました。何も知らないのに、照明をとにかく物凄くがんばってくれたんです。(真野)きりなちゃんが雨の中で一人でいるシーンがあって、カメラがかなり高い場所にあったんです。ライトも高いところから吊らなきゃいけなかったのですが、必死によじ登って吊っているのを見て、「ああ、こいついいなあ」と感じましたね。僕の映画は作り方が変わっているから、面白いエピソードが沢山ありますけど、半分くらい吉田くんがエピソードを持っている(笑)。残りの半分は、黒木くんって脚本家で面白い奴がいるんですよね。吉田くんは、最初にボランティアで参加する時、車の免許を持っているということで採用したんです。車も持っていたら、更に良いと思って「車を持っていますか?」と聞いたら、持っていると。持ってないと答えたら、落とされると思ったらしいんです。それで、次の日までに5万円で車を買ってきましたね。そのくらいやりたいという意志の強さだったわけですが、その車、高速の途中でエンジンが壊れて止まったらしくて(笑)。そういうエピソードがたくさんありますね、吉田くんは。『双生児』の時には他に照明の人がいたので、彼は完璧な照明の道具運びでした。そして、『六月の蛇』で完壁に照明として一本立ちしてやってくれました。他の現場でも力を蓄えて、『ヴィタール』で最高の力を発揮した。」

ー『悪夢探偵』までは照明でクレジットされていますね。

塚本「『悪夢探偵』の1まではいました。『HAZE』は、呼んでいないのに来てくれましたね。お金がない映画だったので呼んでなかったはずが、打ち合わせにはもう座っていました(笑)。でも、全くお金がない映画だったので、自分のスタッフを代わる代わる手伝いによこしてくれました。吉田くん、男気もある。『悪夢探偵1』で大活躍して、この頃、自分の映画も作り始めていたのに、かなり頑張ってくれましたよ。」

ーやっぱり、独り立ちしていく人という予感はあったのですか?

塚本「監督として一本立ちするかは分からなかったです。照明として、スタッフとして、一人でやっていくには充分な力を持っていましたが。吉田くんは(『なま夏』で)ゆうばりでグランプリを獲りますが、いつの間に、という感じでした。」

ー吉田監督はずっと塚本組でやられていたわけですが、作風も全然違いますね。

塚本「そこがいいところじゃないですかね。そこにいたから同じ映画になってしまうのは、必ずしも良いわけではない。よく、漫画家アシスタントの人は師匠と同じ絵だったり、ということもありますが、そういうものではないような気がします。」

最新作はハリウッドでつくるはずだった でも"そこそこ鉄男"になるのはいやだった

DVD-BOXの特典のお話を伺いたいです。

塚本「特典の『塚本図鑑2010』は、前DVD-BOXに入っていた僕のインタビューのちょうど続きです。収録されている作品・その時代のことを語っています。語りまくって、そこに合わせた映像が入っています。」

ー『鉄男』の絵コンテも入ってるんですよね。

塚本「はい。『鉄男』の絵コンテ完全版が小冊子として入っています。これがかなり良いんですよ。『鉄男』の絵コンテは、普段見る機会は全然ないですが、すごく暴力的な殴りがきの絵で、かなり勢いが伝わるんじゃないかなと思います。今度出る本『完全鉄男 「鉄男」から「鉄男 THE BULLET MAN」までの軌跡』にも2、3ページの抜粋しか入ってないので、全部入ってるのはこれだけです。」

ー『鉄男』つながりで、最新作の『鉄男 THE BULLET MAN』のお話を。今回、英語で撮られた理由は?

塚本「『鉄男II』を作った後、アメリカからハリウッド映画として『鉄男』を作らないかと言われた時に、『やりたい!』と思ったんです。アメリカの会社で、場所もアメリカで。それが姿かたちを変えて今の形になったんですよ。結局、『鉄男』『鉄男・』と同じ自主映画になり、舞台が東京になりました。それは物理的、金銭的なことも理由としてありますが、自分の中で整合性を保ちながらいくと、自然にこういう形になりました。。英語については、最初の"アメリカで"といモチベーションがそのまま生きている、ということです。もともとアメリカン・ニューシネマで育ってきたので、アメリカ映画は好きで沢山観てきました。そこへのオマージュ、あるいは感謝・パロディの気持ちもあります。」

ー映画ファンからすると、「タランティーノが製作に関わる」といった話ばかりが先行していましたが、どうなったのでしょうか?

塚本「それは早いうちになくなっちゃいましたね。なくなったというか、曖昧になってしまった。最初はかなりタランティーノもノリノリだったのですが、僕の中に、これならイケるという脚本がなかったんです。すごくシンプルに言うと、それができるまでにこれだけの時間がかかってしまった。ここまで来てしまった時に、自分で思ったようにやるということしか選択肢がなかった感じです。もっとお金出してくれるところがあると思いましたが、向こうの会社が潰れてなくなっていたりもしましたしね。」

ー『悪夢探偵』も海外でリメイク話が出ていましたよね。

塚本「オファーはムチャクチャ多かったのですが、自分がこだわると、なかなか話が進まないですね。僕が致命的に話が進まなくなるようなことばかり言うんですかね? 結構普通のこと言っているんですけどね・・・。」

ーどこがネックになって実現しないのですか?

塚本「タランティーノのこととはまた話が別ですが、『悪夢探偵』が思うように進まないのは、向こうで『ナイトメア・ディテクティブ』という映画を作ったら、2本目、3本目は向こうが勝手に作る、という条項が契約書にはほとんど入っているんですよ。それはイヤです、と言っただけです。ただ、絶対に作るな、と言ったわけではなく、一本一本僕に確認させてくださいと言っただけなんですが、それはダメだそうで。『鉄男』のアメリカ版がダメになったのはまた別で、"主役は有名な人に"というのがほぼ全ての条件に入ってくる。でも僕はハリウッドでやっていない人間なので、その主役の人の有名度やギャラとのバランスを考えると、撮影日数は3週間しかとれない計算になる。3週間で『鉄男』は絶対にできない。"だいたい『鉄男』になったね"という映画ではなく、"ものすごく『鉄男』になった"という映画でないとダメなので(笑)。今回の『鉄男 THE BULLET MAN』はそれ以下の予算ですが、その予算で充分に『鉄男』になる映画を撮るには、もう自主映画でやるしかないと思いました。」

ー『鉄男』シリーズはビジュアルのインパクトが強烈ですが、いまこの時代にビジュアルでインパクトやショックを与えるためにどういったやり方をしたんですか?

塚本「本当のことを言うと、作っている最中に3Dが全盛になって、あちゃー!と頭を抱えたんです。こんなに3DやCG全盛の中にコレはないでしょう、と。いつもの映画を作る以上にお金が集まらなかった。今回の『鉄男 THE BULLET MAN』は、素人のボランティアを集めて、腕組みして『どうする?』と考えていたところから始まっているんですよね。とりあえず僕が(主演の)エリックの顔の型を取って、10個のエリックを粘土で造形してみた。ボランティアにも一生懸命勉強してもらって、型をとって、固めていくというアナログなやり方だった。得意技のコマ撮りすらも使わなかったんです。何となく、コマ撮りじゃないな、と思った。どんなSFXを使ったかというと、"根性SFX"を使ったとしか言いようがないです。きちんと鉄になっている人間がいて、空間の中で鉄男になっている人を撮るのが楽しいわけなんです。僕自身、CGの素晴らしい映画を観ると、その時には興奮しますが、次の日になると94%くらい忘れているんですね(笑)。でもやはり『ポセイドン・アドベンチャー』や、『ヒート』というロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの演技合戦は、絶対にアナログでないとできない。どっちにしても(僕は)アナログ方面です。CGは素晴らしいものですが、アナログの手助けとして使わせてもらう、という考え方は変わりません。結果、『鉄男 THE BULLET MAN』を観た人は、疲労度がすごく多かったと言うんです。僕は『アバター』を観たときにすごく疲労したのですが、自分が自分の映画を観たときに結構疲労度が強かったので、疲労度においては結構大丈夫、負けてないぞ、と言いたいですね。」

●取材/村山章  ●撮影/金刺文三夫 

プロフィール

塚本晋也

1960 年生まれ、東京出身。製作、監督、脚本、撮影、美術、編集までこなす。'88年『電柱小僧の冒険』でPFFアワードグランプリを獲得、'89年の『鉄男』 でローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリ、'02年『六月の蛇』でベネチア国際映画祭審査員特別大賞を受賞した、世界でもっとも有名な日本人監 督のひとりである。今回のDVD-BOX収録作品のほか、『ヒルコ/妖怪ハンター』('90)、『鉄男・/BODY HAMMER』('92)、『東京フィスト』('95)、『双生児』('99)などの監督作品がある。自作に出演するほか俳優として、『我が人生最悪の 時』('93)以来、『119』 ('94)、『東京日和』('97)、『あ、春』('98)、『サンデイドライブ』('98)、『完全なる飼育』('98)、『溺れる人』('00)、 『クロエ』('00)、『殺し屋1』('01)、『とらばいゆ』('01)、『恋の門』('04)、『稀人』('04)など映画に出演、また「恋のためらい」('97 TBS)、「秘密の花園」('99 NTV)、「演技者」('03 CX)、「きたな(い)ヒーロー」('06 NTV)、「セクシーボイスアンドロボ」('07 NTV)、NHKドラマも多く「蝉しぐれ」('03)、「フルスイング」('08)、「坂の上の雲」('09-'11)、「ゲゲゲの女房」('10) などテレビでも活躍する。
【塚本晋也公式サイト】 http://shinyatsukamoto.makotoyacoltd.jp/
【塚本晋也公式サイトspecial edition 2010】  http://www.makotoyacoltd.jp/tsuka2010/

「塚本晋也 COLLECTOR'S BOX 2001-2010」

5月28日発売予定 発売/マコトヤ+海獣シアター 販売/ハピネット

全世界を虜にした海外特別【98分】版『バレット・バレエ プレミアバージョン』を特別DVD化したほか、NHK BS-Hi放送作品『とかげ』を初DVD化!さらに、珠玉の短編『玉虫』をオムニバス映画『female』から切り出し、『六月の蛇』から『悪夢探偵2』までの塚本晋也監督21世紀作品を網羅!豪華特典として、DVD-BOX撮りおろしの塚本監督58分ロングインタビュー映像『塚本図鑑2010』と、97頁1552カットに及ぶ伝説の「鉄男」絵コンテ完全版も封入した!塚本晋也ファン、映画ファン必携の8枚組数量限定生産BOX!
【「塚本晋也 COLLECTOR'S BOX 2001-2010」特集サイト】http://happinet-p.com/tsukamoto/

「鉄男 THE BULLET MAN」

5月22日公開

最愛の息子を殺されたアンソニーと妻のゆり子が、息子を殺した犯人を追ってたどり着いたのは、アンソニーの父が関わったある計画と、家族の真実だった。「怒りの感情をもってはならない」と育てられたアンソニーがその教えを破ったとき、彼の体は鋼鉄の銃器へと変貌していく。
【『鉄男 THE BULLET MAN』公式サイト】http://tetsuo-project.jp/

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