
超個性的な俳優として、しみじみとした人間ドラマを得意とする実力派監督として、映画の世界で常に独自の存在感を放つ竹中直人。彼の長編6本目となる監督作「山形スクリーム」が1月22日、DVDリリースされる。落ち武者伝説の残る山形県の山奥で、ゾンビとの壮絶バトルに巻き込まれるイマドキ女子高生の奮闘。落ち武者ゾンビと女子高生のバトル!? "竹中ワールド"の色濃く反映されたギャグが続出するこのホラー・コメディの裏話を聞きたい。竹中監督をキャッチした!
―もともと観客としてホラー映画がお好きだそうですが、どこにひかれるのでしょうか
竹中直人(以下竹中)「なんだろう......なにがおもしろいんだろう!? 自分が撮るなら静かな映画が好きですが、見る側としてはホラー映画って、本当に好きなんです。なかでも、哀しみのあるホラーがいい。最近見たなかでは『永遠のこどもたち』というのは母親の愛情の物語でね、泣きました。この作品は、僕が『パンズ・ラビリンス』が大好きで、監督のギレルモ・デル・トロがプロデュースしているので見たいと思って。『アザーズ』も泣きましたね」
―確かに、お好きな作品には共通点がありそうですね
竹中「ただ怖いというより、どこか哀しい。まあ『13日の金曜日』みたいに、あ、あ、どうしよう!? あ、ウワ〜!! みたいな、あのドキドキする感覚も好きなんだけど。それで自分が撮るときにはホラーでも、ファンタジーみたいにしたいというのはありました」
―しかも、かなりコメディ要素が強かったです
竹中「まあ、マニアックな笑いですけど(笑)。いろいろとホラー映画へのオマージュを入れていますが、基本的にそれは他人にわかってもらおうと思ってないですから。もちろん台本にも入れてないですよ。入れたら、読んでて気になっちゃうでしょ。僕個人の楽しみですから。せっかくホラーを撮るなら、僕の好きな作品をいくつか入れたいなと思って」
―観客として好きな映画へのオマージュを自分の監督作に入れるのって、楽しかったですか
竹中「そうですね。たとえばブライアン・デ・パルマの『フューリー』には、ヒッチコックの『見知らぬ乗客』へのオマージュが入っています。デ・パルマはヒッチコックが好きだからそういうオマージュがたくさんあるんですけど、そういうのを見ていると、楽しいんですよね。だから僕の映画でも、マニアックな人が見て"あれはあの映画のオマージュだよね"って気づいてくれたらうれしいなって思います」
―まだ、誰にも言ってないネタってありますか?
竹中「『エクソシスト』でカラス神父が、悪魔の声を聞くシーンがあるんです。録音室みたいなところなんですが、その壁にローマ字で"tasukete"と書いてある。それで今回、村役場の放送室に、ローマ字でちっちゃく"tasukete"と書きました。これは絶対誰にもわからない(笑)。でもいいんです、わからなくて」
―観客として、DVDなどでそうした発見をするのがお好きなんですか
竹中「それはたまたま見つけたんですけど。でも『ブレードランナー』を初めてDVDで見たときは、日本の下品ないたずら描きが具体的に、ストレートに書いてあったのを見つけて感動しました。DVDって画質がいいから、細かいところまで見えてしまうせいかもしれませんけど。特に『ブレードランナー』なんて美術がすばらしいし、日本語がたくさん出てきたし。だから壁に何か字が書いてあるのを発見できたのかも。あー 今はブルーレイですよね(笑)」

―山形のロケでは天気に泣かされたそうですね
竹中「監督はこれが6作目なんですが、5作目までは本当に天候には恵まれていたんです。雨で撮影中止なんてなかったので、今回はびっくりしました。雨の隙間に撮影してる感じでしたからね。雨が上がると"上がった〜!"って言いながらセッティングして、雨が降ったらまたバラして......の繰り返し。メイキングを見ると俺が"また雨か..."とひとりでぽつんと落ち込んでる映像が入ってました(笑)。こんな映像いつ撮ったんだ!? って驚きましたけど。でもそうしたこともすべて楽しい。映画の完成という目的に向けてやっていることなので、すべてがいい思い出になってしまうんです」
―演出はどんなふうにされるのでしょうか?
竹中「今回は集団のシーンが多かったので、それぞれの位置関係は全部決めていきます。でも自分の作品では役者に"何も考えないで来てくれ"って言うんです。台本は読まなくていいですよって。特に『山形スクリーム』では即興性を大事にしたかったので」
―役者の即興を生かそうとすると、おもしろかったけど本編では使えなかったというカットがたくさんありそうですね。
竹中「そういうのを全部入れてると映画が長くなってしまって、キリがないんでね。だから未公開映像はおもしろいと思いますよ」
―役者さんが暴走なんてことはなかったのでしょうか?
竹中「暴走する人はいませんでしたねえ(笑)。映画って、やっぱり信頼関係なんですよ。監督の自分が言うのもなんですけど、監督があっての役者、という構造がどうしてもありますから。役者としての僕こそ暴走しがちと思われていますが、すべて監督がOKを出しているわけですからね。それは"暴走"ではない。周防正行監督は?竹中直人にやり過ぎはない?とおっしゃってくれましたし、矢口史靖監督は"竹中直人がまた暴走している"と書いた評論家に手紙を書いてくださったそうです。"全部、自分がOKを出しているんで"って。すごくいい監督だなあって。何より『山形スクリーム』に関して言うと、突っ走ってもいい映画ですから。実際にAKIRAやマイコは、みんな走りまくってくれました。2人とも自分の役を愛してくました。たとえばマイコの場合は、とにかくきれいな人がこんなに崩れるのか! というのをやりたかったんです。基本的にコメディセンスのある人だなあと思いましたね。"封印していた昔の自分が出てきちゃった"と言ってました(笑)」
―2人のお芝居を見ていると、だんだん竹中さんに見えてきたのが不思議でした
竹中「そういうことはあるかもしれないな。こういう話だし、俺が監督だし。演出するときに、実際に動いてみせることもあるしね。でもあまり役者に説明し過ぎちゃうのはどうかと思うんです。役者にもプライドがありますので。だから僕は"こうなってくれたらいいな"というイメージをぱたぱたっと動いてみせて、役者はそのなかでピンときたものをつかんで演技に取り込む。そういう感じだと思うんですが」

―今回、「山形スクリーム」のDVD化にあたって、特典に収録するコメンタリーのために映画を再見されましたよね。完成から少し時間を置いて見て、改めて思うことはありましたか?
竹中「久しぶりにスタッフと話せたのがうれしかったですね。撮影は本当に楽しい時間でしたから。ハードなスケジュールで撮影するので、朝から次の朝までなんていうこともあったし、撮休もほとんどなく駆け抜けました。でも大変だったことって、楽しい思い出になっちゃうんですよね。すんなりいくことって印象に残らないというか。それでオーディオコメンタリー収録のあとは、みんなで飲みに行っちゃった(笑)」
―DVDの特典は凝ってますよね。「特別番組"消えた女子高生を追え!"」というのは、どういう内容なんですか?
竹中「山形のTV局さんがつくった『山形スクリーム』宣伝用の番組で、地元の女子高生が出るらしいんですけど、僕もこれから見るので楽しみです」
―では「村人とカジモドのポルカ」は?
竹中「これはすごいですよ! AKIRAが劇中で演じた三太郎として井口昇君が瓜瓦として、衣裳のまま出てきて対談をするんです。これはなかなか見られないと思う。僕が司会で、映画の舞台だった御釈ヶ部村から東京へ出てきてどうですか? という内容で、1時間カメラを回しました。全部アドリブです。よく1時間もったなって(笑)。DVDの特典と聞いて、最初に浮かんだのがこれだったので、実現できてすごくうれしいです」
―ほかにも、DVDならではの楽しみ方がありますか?
竹中「映画の中で俺が即興でつくって役者さんに歌ってもらった鼻歌にチャプターがつけられてます。"音楽チャプター"。楽しそうでしょ」
―監督としての次回作は?
竹中「企画はたくさんあるんですけど、基本的に地味な作品が多いので時間がかかるかもしれません。一方で常に映画はつくっていたいから、どんな映画でも撮りたいという思いもあります。今回のように"また楽しい喜劇を"と言われたら、"はいぜひ!"ってつくりますよ!」
1956年、神奈川県生まれ。芸人として'83年にデビュー後、役者としてTV、映画、舞台で活躍。さらにナレーション、脚本やエッセイの執筆、音楽活動等でマルチな才能を発揮している。'91年、映画監督デビュー作「無能の人」で映画賞を総なめにし、以後、「東京日和」('97)、「サヨナラCOLOR」('05)など、本作までに6作品を監督。現在、役者として出演の映画「のだめカンタービレ 最終楽章 前編」、声優として"金獅子のシキ役"を務めるアニメ映画「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」が公開中。
1月22日レンタル&セルDVDリリース
□セル/セディックインターナショナル、小学館
特典ディスク付き2枚組(5040円)
□レンタル/セディックインターナショナル、小学館
女子高の歴史研究会メンバー、美香代(成海璃子)は、顧問の勝先生(マイコ)らとともに落ち武者の里として知られる山形県、御釈ヶ部村へとやって来る。そのころ、村では、代々祠を守ってきた床屋の三太郎(AKIRA)の阻止もむなしく祠が倒され、そこに眠っていた落ち武者たちが復活してしまう。村人は落ち武者によってゾンビ化し、大パニックに。さらには、甦った侍頭、忠経(沢村一樹)が、生前愛した官女、光笛と瓜ふたつの美香代をさらってしまう。美香代を救うべく、三太郎と女子高生らが落ち武者に立ち向かう!