職人役をやるときはマスターしないと現場に入らないベテラン
藤竜也インタビュー

 日本映画が元気だ。興行収入的にもハリウッド大作をしのぐ勢いがある。そんな今の日本映画界になくてはならない俳優が藤竜也。群像劇でいぶし銀の演技を見せ、心に沁みる佳品で主演を務めるベテランだ。今回、藤竜也の主演作品「窯焚」と「しあわせのかおり」のDVDが2作立て続けに発売されることに。これを機会に、ベテランたる彼らしい作品への取り組み方について聞いてみた。

撮影スタートのときにはキャラクターが出来ています

ー2作の撮影時期はいつ頃だったのでしょうか?

藤竜也(以下藤) 「『窯焚』はもう4〜5年前になりますか、公開までちょっと間があった。『しあわせのかおり』は2年前。おととしの夏撮ってました」

ー2作とも、わが道を行きつつ、若い者を導いていく人の役です。

 「職人ですよね。西部劇で言えば老ガンマン。若い拳銃使いに撃ち方を教えるとかそういうものになるのかな」

ー「窯焚」では色気のある芸術家、「しあわせ〜」の方は寡黙な料理人とかなり違うキャラクターですが、演じる上での心構えはあるのでしょうか。

 「それはないですね。ただ両方とも職人だから、手に職ですよね。それはある程度マスターしないと話にならないだろうっていうのがあった。『窯焚』の方は、たまたま僕は陶芸をやってましたからとても得したんです。料理人のほうはね、なんとかしないと、厨房の中にいてもとてもじゃないけどおさまんないだろうと。で、特別なトレーニングをやってもらったんですよ。相当根詰めてやりましたからなんとかなりましたけどね」

ー普段からお料理やってらっしゃるのかなと思うほどでした。トマトと卵の炒め物なんかは本当に美味しそうで。

 「刻むにしろ何にしろ、とにかく厨房に立ったときに決まるか決まらないかで、あの映画が出来るかどうかも決まる。そりゃ必死ですよ。4カ月半のトレーニングの間、監督やプロデューサーもしょっちゅう見に来ましたからね。やっぱり心配なんでしょう、どの程度できてるのかなって」

ー4カ月半訓練やって、藤さんご自身が決まってきたという手ごたえは感じましたか?

 「うん、思った。体が全部動くようになったからね。つまり一つ料理の作業してるときに、同時進行してるほかのことも対応が出来る、体が動くようになったからね。ああ、こりゃもう行けるなと。そして、華僑、異邦人の王さんっていうのはどんな人かもぼちぼち考え始めて」

ー撮影に入る前に、いつもそういうふうにキャラクターが自分の中に入って来るようにしているのでしょうか?

 「撮影に入ってから(キャラクター作りをするの)じゃダメなんですよ。スタートしたらもう出来てなきゃダメなんです、僕の場合はね。少なくとも役作りの時間は4〜5カ月は欲しいね。特にああいう特殊な仕事してるキャラの場合はね、なんとかその仕事をやりたいですから。その人間がしょっちゅうしてることをしたいじゃないですか。何でもその人のことを知りたくなるわけだからね。知れば知るほど安心するんですよ」

ー「しあわせ〜」の王さんは、異邦人でプライドが高くガンコだけど、思いやりのある優しい人。すごく複雑なキャラクターですよね。プロデューサーや監督と話をされましたか?

 「いやしません、それは。ホン(シナリオ)に書いてありますから。余計なことを話しちゃうとつまんなくなっちゃうんです、固まっちゃって。固めないというか融通無碍というか無常って言うかね、つまり常なるものはないっていうか。そういうゆるさを僕は大事にしたいね。(固めると映画を)作ってる人間がつまんなくなっちゃいますよね。撮影を始めてからも、いろんなことを受け入れる態勢。耳がこうダンボになってるからね、ちょっとした小さいことからでも、何気ない話からでも、いいヒントを得たりするから面白いですよね。現場で迷うっていうのは僕は苦手ですね」

ー中国の紹興にまで行かれて。ロケはどんな感じでした?

 「紹興のシーンの人たちはみんな現地の人。あの紹興酒の工場の社長もそうですよ。向こうの人とは通訳を通して話した。僕は中国語しゃべれないから。流暢にしゃべってるように見えるけど。もちろんトレーニングしましたよ、紹興の言葉と普通語とは違うからね。それをやりたかったんですよ、どうしても」

ーあの紹興酒は美味しそうでしたね。

 「あれ何年ものだったっけ。めちゃくちゃ美味しくてね、それを飲んだときに王さん(というキャラを)忘れて『ウマイや!』って言っちゃってNGですよ(笑)。『ダメですよ、王さん中国人なんだから』って(笑)。それほど美味しかったね。10年近く閉じ込められてた香気がグーッと来るのね。うまかったですよ」

憧れだった信楽焼をやれたんです

ー「窯焚」の監督のクロード・ガニオンはカナダ人ですが、このキャラクターやテーマについてどういう話をされたのですか?

 「広島の呉で『海猿 ウミザル』の仕事をしてるときにガニオンから電話がありまして、会いたいと。で、会いまして。こういう映画を撮るんだけどやってくれないかと話があってね。その時に彼は『陶工たちの信楽を舞台に撮るから。今、信楽で部屋借りていろんなことを勉強してるんだけども』っていう話なの。そのとき大雑把な背景も聞いたし、わざわざカナダ人が信楽に住み着いて勉強してるっていうから、それだけで心がウルウルしてね。嬉しくなっちゃってさ、やらせてくれっていう話になった」

ーガニオン監督は、藤さんにお願いする理由を何と?

 「それがなかった、全然。そういう話しなかったですね。でも彼は、信楽でのリサーチの間に製作事務所みたいなものも作っちゃった、信楽にね。そいう話を聞いたんで僕は、呉の仕事の帰りにもう信楽へ直行して、神崎さんて言うあの男のモデルになった先生に会って。いろんな話聞いたりしてしばらく滞在してね。そこからもう僕はやる気になっちゃって、僕なりのリサーチを始めて」

ー藤さんご自身、陶芸をやっていらっしゃるから。

 「でもガニオンはそれを知らなくてね。僕は(陶工役だったから)しめたと思ったんですよ、だいたい様子がわかるから。ところが全然、僕がやってた陶芸とは違うね。信楽焼は違うんですよ。薪かなんかでね、穴窯なんていう600〜700年前からの造りの窯で焼くんですよ。そんなのやったことないしさ。やり方がクラシックなんですよ。伝統的な、お金のかかる大名窯って言われてる無駄の多い窯なんですよ。陶工はあれでやったら身上潰しちゃう。だけど面白い器が出来るわけですよ。神崎さんはそれで認められてますね、僕はいろんな話聞いたり教えてもらったりするために、信楽に通い始めて。それで撮影に備えたんですよ」

ーやりたかった信楽焼ができた?

 「そうですね。憧れるんですよみんな、陶芸やってる人なら。いつも、どんな色を出すかと最初に決めて、わかって焼くでしょ。釉にしたって、あれは金属が反応するんですよね、だから窯の中の空気の多さ少なさっていうので配色が違ってくるわけですよ。例えば酸素がないと銅は赤くなるでしょ、酸素が多ければ緑青っていってグリーンになる。金属ってそういう風に変化するわけですよ。薪で焼くとそういうのが全部薪にお任せになるんです。そして人間には出せない色が出るんです。それはやろうって言ったってできない。お金がかかるし大変な騒ぎなんです」

ー窯を持たれたと伺いました。

 「窯は前から持ってるんですよ、どデカイ、人間も焼けるほどの窯が家に。信楽焼は不可能だけどね。信楽焼は個展のために自分で撮影後やったんです、チーム作って窯借りて作陶して。10日間焼いたんですよ。一生に一ぺんですね」

ー10日間焼けていくのを待っているのと、それと若い人が育っていくのを待っているのがシンクロしていることが、「窯焚」のテーマなのかなと。

 「うん、炎と命とね。それを見守るのを面白がっているね、あのオヤジ(キャラクターの琢磨)は」

ー職人だけど女性も音楽も愛する色気のある人、自由人という琢磨のキャラクターは、藤さんが考えて?

 「いや、これはガニオン(が考えたキャラ)なんですよ。彼の考える理想の男なんでしょうきっと。直接は言わないけれども、彼の世界の中でのあらまほしき男っていうか、理想だと僕は思いますよ。それを日本の文化の中で映画にしたということだね。そういう男に接した青年が解放されていくというね」

ー劇中、藤さんが渋く『サマータイム』を歌うシーンがありました。すごくカッコよくて。あれはシナリオ通りですか、それともアドリブ?

 「あれね。もうひどいヤツなんですよガニオンっていうのは。ホントにあんなひどいヤツいないね(笑)。僕は歌ダメなんですよ。それでもね、ダメはダメなりに早く稽古をしたい、曲を決めてもらえば一生懸命やるから決めてくれって言ってもね、ウダウダ言って決めないんですよ。(劇中使用曲にはお金のかかる)著作権の問題がある。どうもそれで決めかねちゃってたわけです。でね、撮影の前々日に『もうあさってが歌を歌うシーンなんだけどどうすんの』って言ったら『藤さん何歌いますか』って来たからさ。ラテン系の人間のいい加減さっていうのも大体わかってきてたからしょうがねえやって思って『サマータイムくらいだったらまあ何とかなる』って言ったら、調べたらしい。『サマータイム』はもう著作権がないんだって(笑)。だから『藤さんこれなら行けます』ってやっと言ったから、この野郎ってケンカしたよ、バスの中で。『あなたいい加減だ。そういうのを残酷って言うんだよ』って。そしたらあいつの言い草が『藤さん、私はいやしくも監督だからスタッフの前で私を貶めるようなことは言わないでくれ』って。威厳がなくなるなんて言い出しやがってさ(笑)。まあとにかくそんなんで、練習もないわけ。あの人はリハーサルをしないの、行ったら用意スタート。ガーッと(カメラが)回り始めるわけ。それは彼の狙いだからいいけど、こと歌だけはこっちに自信がない分、練習させて欲しかったんだよね。京都のライブハウスみたいなとこに行ったら、4人か5人くらいのバンドが来ててさ。どこから(歌を)始めてどこでノってとかね、まったく出来ないんですよ僕は。でも『大丈夫大丈夫、そこに立ってくれればこっちが勝手に合わせるからダイジョブ』って慰めてくれてね。慰めてくれたってこっちはやらなくちゃいけない。そしてさ、練習も音合わせもないんですよ。『じゃあ本番行きます、どうぞ』ってカメラももうグルグル回ってる。怖いでしょう? あの時だけはね、ガニオンを刺し殺してやろうかと思った(笑)。『サマータイム』のCDをね、彼が前の晩に持ってきたの。ソウルっていうの? コブシが利いてるわけ。なんとかしなきゃって朝の5時まで聴いて、もう心臓はドキドキするしさ。でも結局最後にムダだってわかったわけ。今からやってもムリだこりゃ、(キャラクターである)琢磨に任せようって。琢磨はきっとやってくれる。俺がやるんじゃないんだ、琢磨がやるんだ。そしてもう自己催眠かけてね。その自己催眠がうまくいったの。もう全然平気」

ーあれはホントに1テイクなんですか?

 「1テイク。でも次に観客の方を撮るために果てしなく歌わされるわけ。ノドはウーウー!(笑)そんなことでね、悪夢のようにあそこのシーンを思い出す」

ーでもそれだけに、ものすごく印象に残るシーンになっていました。

 「監督のいやらしい狙いかもね(笑)」

プロフィール

藤竜也

1941年北京生まれ。'62年「望郷の海」でデビューし、以降多くの映画、テレビドラマに出演。'76年の「愛のコリーダ」'78年の「愛の亡霊」が国際的にも話題に。最近作は「海猿 ウミザル」('04)や上海国際映画祭主演男優賞受賞作「村の写真集」('04)、「ミッドナイトイーグル」('07)、「感染列島」('09)など

「しあわせのかおり」
DVD 4月10日 バップ発売・東映ビデオレンタル

シングルマザーと職人気質な老料理人、それぞれの過去を背負いながら生きる2人の心が、金沢の小さな中華料理店を舞台に徐々に近づいていく、ハートウォームな人間ドラマ。 鮮やかな料理がつくられていくリアルなシーンが五感を刺激する。

「窯焚」
DVD 4月10日 東映ビデオレンタル セルは4月21日発売

外国人の目から見た日本をテーマに作品を撮り続けるカナダ人監督、クロード・ガニオンが、日本の伝統的な有名窯、信楽焼を題材につくった最新作。父親の死から立ち直れない日系カナダ人青年が、陶芸家の叔父の下で暮らし窯焚をしながら、日本文化に触れ、新しい生きがいを見つけ出していく。

●撮影/金刺文三夫
©Zuno Film NHK KAMATAKI Partners
©2008「しあわせのかおり」製作委員会
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