「ダイアナの選択」
バディム・パールマン監督 来日インタビュー

初監督作「砂と霧の家」がオスカーの3部門にノミネートされ、一躍脚光を浴びたバディム・パールマン監督が、5年ぶりに発表した新作「ダイアナの選択」のPRのため来日。高校での銃乱射事件が、ひとりの女性の人生に大きく影響していくさまを、独特の美しい映像と、過去と現在を交錯させた手法で描く人間ドラマだ。しかも、この作品には驚きの仕掛けがある。その真意も聞いてみた。また、パールマン監督はあの「ポルターガイスト」のリメイクを手掛けることも決定! 2009年、注目の監督のひとりだ。

ユマ・サーマンもエバン・レイチェル・ウッドも
すばらしい女優。細かな演出は必要なかった

ー本作を撮ろうと思った経緯を聞かせてください

バディム・パールマン 「2003年に本のエージェントから原作が送られてきた。「砂と霧の家」を撮影する前だった」

ー原作にひかれた点は

「リディカルな美しさとエモーショナルな資質。小説は断片的に書かれていて映画化するのに難しい点は多かったけどね」

ーユマ・サーマンとエバン・レイチェル・ウッドと仕事をしてみていかがでしたか

「2人ともラブリーでクリエイティブ。とても良い時間を過ごせたよ」

ー10代のダイアナにエバンを起用した理由は

「「サーティーン あの頃欲しかった愛のこと」のプレミアを見て、即決したんだ。エバンは世界でいちばん好きな女優だ。演技がすばらしいのは誰でも知っていると思うが、人間的にもすばらしい。彼女はすごく勇敢で、やわらかさとタフさを併せもっている。ナイーブとは違うイノセンスで純粋な魅力なんだよ」

ーユマとエバン、2人1役だが、撮影はどのように進められたのですか

「撮影は全部で8週間。先にエバンのシーンを4週間撮り、次にユマのシーンを4週間撮った。本当はユマを先に撮るはずだったのだが、撮影2日でユマが病気になってしまい、撮影スケジュールを変更したんだ。結果的にエバンを先に撮って大正解だったと思う」

ーダイアナというひとりの女性をユマ・サーマンとエバン・レイチェル・ウッドそれぞれが演じますが、彼女たちの演出で監督がこだわった点は

「2人ともすばらしい女優なので、演技を細かく指示するということはなかった。彼女たちに任せていたよ。実は2人は現場でも準備でもいっしょになることはなかったけど、2人ともダイアナの人物像をしっかりつかんでいたと思うよ」

ーユマとエバンはあまり似てないとも感じたのですが

「確かに2人はあまり似ていないかもしれない。でも実はこの2人には仕掛けがあって、髪型、衣装を似せている。最初はあまり髪型も似ていないんだけど、後半になるにつれて、2人の髪型、服装も同じように見えるようにすることで、過去と未来をひとつにまとめたんだ。だからエバンが演じるダイアナが銃口を向けられている最初のシーンは白い洋服が水で濡れていて、後半のユマが演じるダイアナは森の中で娘を探すとき、やはり白い洋服で雨に濡れている。銃声も同じで、親友とトイレでいっしょに聞いたドアの向こうの銃声と森で聞こえた銃声も同じなんだ」

ーそのように構成するのは、やはり大学時代に物理を専攻されていたからでしょうね。もし、映画監督になられていなかったら、物理を教えていたんではないでしょうか

「性格的に無理だよ。粘り強くもないし...。人に教えるのもうまくないしね」

ー映像の美しさがすばらしかったのですが、そのこだわりは

「若いころのダイアナは少し荒れているが、表面的にはすごく艶っぽい。彼女が大人になった生活はすべてが完璧。でも最後は花だって枯れるし、人間だって死ぬ。そんな対比や、両面性を描きたかったんだ」

生物や水のシーンは、人生の危うさや脆さの象徴
観客の目を一歩外へ向ける目的もあるんだ

ー劇中で登場する鳥、花、昆虫などの生物が生命のバロメーターのようで興味深かったですが、素材選びなどはどのようにされたのですか

「生物たちは生命力のバロメーターであり、人生の美しさや脆さの象徴。多くのモチーフは原作にあり、メタファーに満ちたリリカルさに強くひかれた。人間は花が満開に開くときもあり、また枯れていくときもある。そういったことのメタファーとして用いた。また、一度生物(花などの)に観客の目を向けることで、今起こっていることよりも、もっと大きな自然の存在があることを見せたかったんだ。「砂と霧の家」でも途中に霧で覆われた場面が出てくるが、今回も同じ。一歩外へ観客の目を向ける作業はこれからもやっていきたいと思ってるよ」

ーこの作品では"水"のシーンがとても多く印象的でした

「水=生命:lifeの象徴として描いた。最も水が印象的なのは、撃たれたトイレのパイプから水が流れ出るシーン。倒れゆくダイアナが水の音・感触を感じ、脳にインプットされたことで、未来の想像にも反映され水が流れるシーンが多くなっている。過去のダイアナとモーリーンが歩くシーンでのスプリンクラーからの水。あれも本当に水が流れていたのか、それとも脳内変換された映像なのかわからないよう描いている」

ー前作「砂と霧の家」から本作まで随分と時間が空いているが、やはり校内銃乱射事件を扱っているだけに難しかったのですか

「前作の評価からバディム・パールマン=重い映画のイメージが付いてしまい、資金集め等がなかなか困難だった」

ーいちばん大変だったことは

「編集かな。1年かかった。とても抽象的な作品だから、組み立てるのにいくつかの順番が考えられたからね」

見た翌日もつい引きづってしまうような映画をつくりたい
見ることが挑戦になるような作品が自分らしいと思う

ー映画づくりのうえで常に伝えたいメッセージやこだわりはありますか

「常に何かエモーショナルな感情が残る作品、心が動かされる作品を心掛けてつくっていきたいと思っているんだ。何十年も残る作品でなくても、翌日もつい引きづってしまう、つい思い出してしまうと言われるような作品をつくれたらうれしい」

ー監督が17歳のときはどんな未来を考えていたのですか

「人に何かを訴えたい、伝えたいというただ漠然としたことだけはあった。でもこの思いをどうやって表現したらいいのか、伝えられるのかと悶々としていた。だから、僕が描く未来は曇っていたと言ったほうがいいのかもね」

ーなぜまずCMの世界へ入ったのですか

「たまたま大学の授業で「屋根の上のバイオリン弾き」のメイキングを見たんだ。その瞬間に魅了されてしまった。元々僕は本が好きで、どうやったらこのリアリティをうまくコントロールして表現できるのかと考えていたんだ。CMの仕事を始めたのは偶然なもので、本当はずーっと長編を撮りたかったんだ。初めて長編を撮ったのは23歳のときで、これは遅いほうだと思う。CMではなく、最初から映画に挑戦すればよかったのかな(笑)」

ー今年はちょうどコロンバイン高校で銃乱射事件が起きて10年になりますが、監督はそのことについてどう思われますか

「実際に起こった事件の被害者にそのことを聞いても、なかなか答えてくれない。トラウマやフラッシュ・バックで思い出すことがどんなにつらいことか僕には想像できない」

ー衝撃的なエンディングですが、後半の演出について注意した点は

「どうやってラストにもってくるか。その展開の仕方、サスペンス的な演出に特に気をつけた」

ー監督自身が重大な選択を迫られたとき、何を心掛けますか

「どんな選択かにもよるが、自分だけでなく周りのことを考えるし、良心に従うことだね。これはまさにこの映画の核の部分でもあるね」

ー今後の活動については

「僕の予想では70年代のアメリカに訪れたようなルネッサンスがやってくると思っている。ベトナム戦争で疲弊したアメリカでさまざまなうねりがやってきたように、今の閉塞した経済を経て2年後の2010年にね。そのときこそ、僕がつくりたい映画をつくれるとき」

ー次回作「ポルターガイスト」について聞かせてください

「リメイクではなく "リイマジネーション"。家族に焦点を当ててより心理的深みのある、自分らしい作品にしたい。「砂と霧の家」では息が詰まるような、「ダイアナの選択」では知的な理解を、見ることが挑戦になるような作品が自分らしいものだと思っているからね」

プロフィール

バディム・パールマン

1963年、ウクライナ生まれ。CM監督として活躍、2003年。監督、脚本、製作を手掛けた長編映画デビュー作で、ジェニファー・コネリー、ベン・キングズレイ主演の「砂と霧の家」('03)がアカデミー賞の主演男優、助演女優、音楽賞の3部門にノミネートされ、新人監督として注目される。次回作は「ポルターガイスト」のリメイク版、ほかに「ナイロビの蜂」の脚本家と組む「Song of Names(原題)」や「オーストラリア」の共同脚本家との「Truce(原題)」などを監督予定。

「ダイアナの選択」

3月14日公開 デスペラード=日活配給
シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

高校で起きた銃乱射事件。親友と現場に居合わせた17歳のダイアナは、「2人のうちのひとりを殺すから、決めろ」と犯人の男子学生に銃を突きつけられ、究極の選択を迫られる。ダイアナはどんな選択をしたのか、そして、その後の人生は...。ユマ・サーマン、エバン・レイチェル・ウッドの2人がダイアナの今と若き日を演じ分ける衝撃のヒューマン・ドラマ。

©2008 2929 Productions,LLC.
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