
―DVDとブルーレイ・ソフト、映画の専門誌です。よろしくお願いします。取材はもうたくさん受けていらっしゃいますよね。
チャン・ジン監督(以下ジン)「同じような質問が20あったとしても、21番目の質問をしてくれれば大丈夫ですよ(笑)」
―3人の大統領のエピソードがすごく面白いですよね、ひとりはたったひとりの国民のために臓器提供をし、ひとりは宝くじに当たって悩み、女性大統領は離婚を考える。絶対の権力をもつ大統領でもこういう人であって欲しい、という監督の願望の現われなんでしょうか。
ジン「これらのエピソードは確かに面白味はありますが、それは重要ではありません。大統領は政治をちゃんとやればそれでいいので、私はそういった(面白い)大統領がいて欲しいと思っているわけではないですね。いれば面白いですが。私が今回人間的な大統領を描いたのは、大統領も人間であるということを描きたかったからです。大統領も大統領になる前は私の隣りに住んでいた人かもしれなくて、そういった人が官邸に入ったからといっていきなり素晴らしい政治が出来るわけでもないし、全知全能な人になれるわけでもありません。だからこの世の中はわれわれの手で変えていかなければいけない。(大統領に対して多大な期待をすると)裏切られた時にうらんだり失望したりするわけで、今まで韓国社会にはそういったことが多々ありました。そんな時にも大統領は人間であると考え、世の中を変えるのは自らだと考えるべきであるということですね」
―日本では大統領のような絶対的な権力のある人はいません。首相という人はいますが、最近はわりと国民から馬鹿にされてしまうことさえありますから、こういう映画は成立しないでしょうね。
ジン「はい(笑)」
―劇中、大統領たちがみんな厨房で料理人と話をしますが、厨房というのは幸せやリラックスの象徴なんでしょうか。
ジン「というよりは、厨房をとても一般的で庶民的な場所として描いたんです。大衆的で市民的な場所。そういうところから出てきた声に耳を傾ける時に、絶体絶命の危機にあった大統領たちの悩みが解消されるわけです。国民の声に耳を傾けて欲しいということの現われですね」

―今回、チャン・ドンゴンを起用してコメディ演技をさせていますが、彼を選んだ理由を教えてください。
ジン「私としては、彼がこの役を受けてくれさえすればよかったんです。まず彼は若くカリスマ性もあり、大統領という職業にもっともふさわしい。彼のもつ一般的なイメージもそういうものなので、キャスティングしたんです」
―大統領役という理由で選んだのであって、コメディをやらせたかったわけではないんですね。
ジン「そうですね。コメディというのはその状況がおかしいのであって、コメディ用の演技をしているわけではありません。それに、いかにもコメディな演技をしてもらうくらいなら、チャン・ドンゴンさんでなくても誰でも出来ると思います」
―監督の作品は本当にユーモラスなシークエンスが多くありますが、こういったコミカルな描写、絶妙な間とかキャラクターの空回り、外されるようなオフビートな感覚は、監督の独特な感覚だと思います。どこで養われたんでしょうか。
ジン「養うということばは少し違うかな。そういったセンスは訓練したりできないですよね。ホントに瞬間的な感覚だと思います。私がその場を楽しむことで自然に養われて来たものであって。そのユーモア・センスはどこから来たのかとよく聞かれるんですけど、わからない。コメディ自体昔からずっと好きでしたし、コメディに愛情をもっていましたから、それで自然に生まれてくるんだと思います」

―監督の作品のキャラクターは、単なる正義漢のようなハリウッド的なキャラ付けじゃなく、一人ひとりがいろいろな面をもつ本当に人間的なキャラですが、そういった性格付けは脚本段階でされるのですか、演出段階でされるのですか。
ジン「脚本段階でします」
―何から生まれてくるのでしょうか。書きながら思いつくのですか。
ジン「たとえば本作の、宝くじに当たったのにお金を取りに行けなくて困る、というキャラは昔から構想の中にあったもので、そこに大統領っていうキャラ付けが入ってきたって感じなんですね。いずれにしても、すべてのキャラクターが脚本の段階で90%完成しています。あと残り10%だけ、どの俳優が演じるかによって変わってくるかもれませんが」
―これから撮りたい、温めているアイデアやテーマがあったら教えてください。
ジン「来月から撮影に入る作品も、メロドラマですがコメディの要素も多分に含んでいます。私はコメディ要素は捨てられないと思いますね。今度も私のコメディタッチというか色が出ていると思います。説明すると長くなっちゃうのでこのへんでやめておきますが(笑)」
1971年ソウル出身。大学の演劇科卒業後演出家、脚本家として活動開始。監督デビューは'98年「あきれた男たち」。'99年より製作集団SUDAを率いる。代表作は「SPYリー・チョルジン 北朝鮮から来た男」('99)「極端な一日」('00)「ガン&トークス」('01)「小さな恋のステップ」('04)など。「リメンバー・ミー」('00)や「トンマッコルへようこそ」('05)の脚本も担当
7月24日公開予定
日々重要な国家の決断に頭を悩ます大統領も人の子、悩みは庶民と同じ。高額な宝くじに当たってしまったら当選金は寄付すべきか? 臓器提供を求められたら応じるべきか? ダンナが汚職の疑惑をかけられたら離婚すべきか? 日常を懸命に生きる大統領たちの姿を暖かい視線でつづったヒューマン・ドラマ。