香港ノワール×フランスノワールが融合した、新たな地平へ
ジョニー・トー、新作「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」を語る

かっこいい香港ノワールを撮る監督といえばジョニー・トー。その彼が、なんとフランス映画界とがっぷり四つに組んで、新作をつくり上げた。ジョニー・トーのテーマであるやくざな男たちの友情、そして彼独特の間と画面の構図。それがフランスのヌーボー・ノワールと組むとどうなるのか。監督本人が語った。

さまざまなコラボレーションで勉強したい

―「エレクション」('05)のPRで監督が前回来日されたときに、フランスと組む話はもう聞こえてきていたのですが、その時点では、監督は「まだまだ香港でやることがあるから当分海外には出ないよ」とおっしゃっていました。今回フランス映画界と組んだ最大の理由は何だったんですか?

ジョニー・トー(以下ジョニー)「『エレクション』で来日した当時に、もちろんもうこの話は進行していたし、一方で香港でやりたいことがあるから当分香港にいるという気持ちも変わっていません。今回フランスと組んだといってもフランスで撮ったわけではなく、資本と役者に来てもらって香港で撮るというものだったんですよ。私は昔から、フランスだけでなく中国本土の映画人とも、香港に来てもらう機会があるならいろんなコラボレーションの中で勉強したいと思っているんです。でも必ずしも毎回そういう話がうまくいくとは限らない。まず、お互い映画人であれば何よりこだわるのはすばらしい脚本があるかどうか、あとはお互いの発想がかみ合うかどうかが大きなポイントになると思います。今回はそれは非常に見事で、脚本にしてもプロデューサーとの話にしても、非常にうまくまとまったんです。 それから、私が香港に残ってやりたいと思う非常に大きな理由。ご承知の通り最近中国本土の映画の活力が非常についてきて、本土に行けば稼げるようになっているんです。だから、私の世代はまだいいんですが、私より若い世代の"香港の"映画人や映画産業が萎縮してしまっているんですね。香港で仕事をするのがなかなか難しくなってきていると思います。私たちが香港の映画産業を大きくしていかないと、若い世代はやりづらくなると思うんです。でも本土とのコラボレーションがうまくいけば、香港の映画産業にも非常にいい影響があります。そのためにもわれわれの世代がもっと頑張らないといけない」



―頼もしいですね。ところで主演のジョニー・アリディといえば、若い頃から日本でも歌手として知られていますが、最初に会った印象はどんなものでしたか?

ジョニー「オファーしていたアラン・ドロンとの話がだめになって、昨年2月くらいに、フランスのプロダクションからいい人がいるから会ってみるかという連絡がありました。で、パリに飛んでいきました。シャンゼリゼ通りの近くのあるレストランに案内されたんですけど、なぜかそのレストランにはお客さんが誰もいなくて、カウンターの前に座っている彼の姿だけがあったんです。後姿がまず目に入ったんですが、それはこの映画に登場する姿と全く同じでした、黒いスーツとネクタイで。で、ぱっと見た感じでは、奥が深い、後姿の奥が深いなと。実際に対面しても、私がずっと捜し求めた殺し屋そのものだと思えました。というのは、彼の目が非常に特徴的で、怖いというか何を考えているのかわからないというか、いくら観察しても読みきれない部分があったんです。いろんな過去をもっているという印象。それはまさしく今回の映画の中の殺し屋で、よくない経歴をもっているという人にぴったりだなという印象でした。その上話をしてみたら非常に意気投合しました。私は当時彼がスーパースターであることを全然知らなかったんです。フランスでは彼は人間国宝みたいな存在だというのはあとから知らされたんですが、知らないまま話を始めたもんですから、私もリラックスして気軽に質問したりしました。 彼が香港に来たのは実際今回が初めてでした。映画の中の人物と同じように、初めて異国の地に足を踏み入れるということになったのです。しかし、彼は周りの役者とすぐ溶け込めた、われわれのクルーにも。というのは、もし彼がヨーロッパやフランスで撮っていたら、周りにいっぱい付き人とかスタイリストとか彼を持ち上げる人がくっついてくるんだけど、香港では全くそういう人はいなかったからです。香港では彼が屋台へ行っても誰にも気づかれない、そういう気軽さがあったんですね。一方では、彼は演技の面ではプロなので、私がどうこう言うことはなかったですが、でも彼は非常に監督である私の意向を尊重してくれたんです。それぞれのカットを撮り終わったら近づいてきて、今のどうですかと必ず聞いてくる。そこでもうちょっと、とか言うと必ず撮り直しましょうと。監督が納得いくまで何度でも撮り直しましょうという姿勢をいつも示してくれていました。彼にはせりふが少ないんですが、それは彼が香港に来て本当に右も左もわからないところから自分の仕事を展開していくという設定と一致していたのです。結果から見ると彼の演技には非常に落ち着きを感じました。落ち着きのある演技をまさに私は映像に求めていたので、非常によかったです」

アラン・ドロンとの仕事はまだ諦めてはいない

―アラン・ドロンとの提携がうまく行かなかったのですが、再チャレンジする気がありますか? そして彼に惹かれたのはなぜでしょうか。

ジョニー「私は10代のときにアラン・ドロンさんの作品を見て育ったものですから、心の中のアイドルなんです。どこに惹かれるかというと、彼のクールな感じ、それからまがまがしさというか、それが当時青春期の私にとっては一番魅力だったんですね。ファッションで言えば、いつもコートを着ていて非常にカッコイイなと思っていました。今回は残念でしたが、もちろんこれからも是非ご一緒したいと思っています。ただ70歳を超えている方なので、どこまで撮影に耐えられるのかというのを考えないといけないけど」

―いつも香港では思いつきの演出、即興の演出で作っていましたが、今回はわりとかっちりしたプランがあったようです。難しさはありましたか?

ジョニー「私にとっては、脚本を先に書かなければいけないということにはメリットとデメリットがありました。まずメリットは、スタッフが楽になること。準備段階で方向性が見えていてスタッフのほうもそれに向かって走っていくのは、非常に効率的な撮影が出来ますからね。そしてデメリットは、私自身がフレッシュな感じがしなくなることです。脚本に縛られてしまうということ。私にとっては、現場に入って脚本段階で思い描いていたことを撮ってみると、古くてどうしようもないアイデアだと感じたり、エキサイティングな新作感がなくなってしまうというのはありますね。そういう意味でも、これからも外国と仕事するならちゃんと脚本を用意しないとできなくなってくるでしょうから、いい経験になりました」

―個人的な印象なんですが、3人組が銃撃戦をするとき、ゴミの草原でゴミで出来たキューブを押していくというシーンがとっても不思議な印象でした。なぜただの銃撃戦でなくああいうシーンだったのですか。

ジョニー「あれは自分で考えたアイデア。どこで銃撃戦をしたいかと思ったとき、廃墟がいいと考えました。ゴミ収集場がいいかなと。ただ普通のゴミ収集場だと汚いしあんまり映像的にもかっこよくないので、リサイクル用のああいう紙のかたまりというのをロケ地に運んで撮影したんです」

―銃撃戦を面白く見せるためのアイデアだったんですか?

ジョニー「リズム感ですね。銃撃戦のリズム感を出すには何か転がしていくというのが非常に効果的だと。ただ大変だったのは重さなんですね。軽すぎてもだめだし重すぎても役者が大変だし、リハというか下準備だけでも10日間くらいかかってしまいました。あんまり下準備は好きじゃないんですがね」

撮影/阿部岳人

プロフィール

ジョニー・トー

1955年香港生まれ。監督デビューは'80年の「碧水寒山奪命金(原題)」。「チョウ・ユンファの俺たちは天使じゃない」('88)や「過ぎゆく時の中で」('89)などをヒットさせる。その後「ヒーロー・ネバー・ダイ」('98)「暗戦/デッドエンド」('99)など、スタイリッシュ・クライム・ムービーを発表するようになり、'99年に「ザ・ミッション/非情の掟」で香港金像奨監督賞を受賞した。他に「エレクション」('05)「エグザイル/絆」('06)など。公開待機作はハリウッドで撮った「The Red Circle(原題)」

「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」 

5月15日公開予定

マカオで暮らす裕福な一家が何者かに銃撃される。重体となった夫人の父親がフランスからやってくるが、異国の地で地元警察の捜査に頼ることは出来ない。犯人への復讐を誓った彼は、香港で偶然出会った3人の殺し屋と共に組織に立ち向かう。

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