
35歳のニートな息子を心配した母が送り込んだ最終兵器は、生後2カ月のコロッコロのマメシバだった! という、ほのぼの系シリアスな中年成長ドラマ「幼獣マメシバ」の、映画版とドラマ版のDVDが同時リリースになる。そしてこの2作の主役を張ったのが、ものすごくたくさんの映画と舞台とドラマに、"記憶に残るキャラ"として出演している個性派、佐藤二朗だ。彼にとって初の主役作品。その気負いを聞いてみたのだが...?

―初主演という作品でしたが、DVDリリースの今、どういう感慨がありますか?
佐藤二朗(以下佐藤)「まあ、う〜〜〜ん、僕はいつも脇役でやっていて。正直ね、お芝居的にはまったく気負いなくいつもと同じようにやったんですけど、でもちょっと気が小さいのでちょっと気負ったところもあったかもしれないですけど。うーん、まあいい悪いは別にして、ちょっとこう主役の人は、俳優として表現する欲みたいなものを抑えて主役を張るというのが多いような気がするんですよね。小芝居しないというか、表現するにしても抑えた表現をするというか。そういうの実は僕大好きなんですけど、せっかく僕がやるんで、しかも役がね、中年ニートなんで、まあ、正直言うとちょっとこう作りたくなる役なんですよね。なのでまあ、あんまり主役は作らないほうがいいかなっていう迷いもあったんだけど、しかも非常にせりふが面白いし、何もしないで普通にボソボソそのまませりふを言ったとしても全然面白くなるなと思ったんだけど、(結局)クセとかつけてやってみてみんなの反応を見て。まあ、うーん、こんなこと言っちゃ怒られちゃうかもしれないけど、僕は役作りに関しては、10のうち6くらいが何これっていうことになっても、その代わり10のうち3とか4がすっごくいいよって言ってもらえればいいかなっていう。そしたら思ったよりわかってくれたので、ちょっとわかりすぎじゃないっていうくらいわかってくれたので。もっと批判的な意見があってもよかったって思うくらい意外と受け入れてくれて、よかったかなって」
―わかってくれたというのはスタッフがですか、見た人が?
佐藤「見た人がってことですね。現場はね、あんまり何も言わないですね。監督さんがちょっとやり過ぎたときには止めてくれたりするし。現場のウケにはあんまり左右されないほうがいいっていうか、現場でみんながワーッと喜んでるっていうのは大事なんだけれども、小芝居に関してはね、みんながウケてるってことはあんまり考えないほうがいいっていうのはよく言われることなんですけど。(監督の)亀井さんも、(芝居が)ちょっと大きかったときは今のちょっと大きかったからもう1回やりましょうって言うんで。だからさっきのは一般の観客の話。でもどうなんだろうなあ。(役作りとしてのキャラクターのクセが)わからない人絶対にいるはずなんですよ、僕の耳に入ってないだけで。最終的には、わかるわかるこんな人いる、って思ってほしいんだけど、これはなんかわかんねえやって言う人もね、いるんじゃないかと」
―まあいるかもしれないですが、違和感はなかったですよ。あの二郎みたいな、ディスコミュニケーションっぽいのに理屈っぽい人いるいる、って思いました。あのちょっとヘンなキャラっていうのは佐藤さんがお考えになったんですか?
佐藤「台本にあったんですよ。せりふは99%脚本どおりです。ただまあ『ン、ン』っていう癖とか、ちょっと体を斜めにしてあんまり人の目を見ないとか、そういうのは台本にはないので自分でやりましたけど。(脚本の)永森さんと亀井さんと飲んだときに、せりふは面白いし下手に何かやって失敗するとアレなんで、何もやりませんよって話したんですけど、その後せりふを覚えるうちにやっぱり(クセを作ることに)。役者ってせりふを覚えるときに、自分のプランとか感情がどんどん出てくる場合があって。ああ、これで何もやらないんじゃもったいないなと思わせるせりふだったんで。あれなら何もやらなくても十分面白いんですけどね」
―あのキャラのクセは、佐藤さんの引き出しの中にあったんでしょうか? どこから出てきたものなんでしょう?

佐藤「うーん、わからないですね。まあでも僕の中にもあっただろうし、そういう人を見たことがあるのか、あったんだろうな。だって、こんな人いないよってことになっちゃうと、見てる人はその瞬間に引いちゃう。大事なのは"いるかも"とか"見たことあるかも"っていうことで、その"かも"がこういう場合はすべてといってもいいくらい。非常にオーソドックスなことやられても面白くないですよね。なので、そこのさじ加減を狙わなきゃいけないし、また狙いたくなる役なんでしょうね。それで僕は、ああいうクセをつけるっていうのに2晩くらい悩んだんですけど。連ドラとかやってると、第3話くらいを撮ってるときに第1話がオンエアになるから、その評判を見て、ちょっと失敗したからちょっとこれ修正しようとかができるんだけど、これはドラマ版と映画版を一気に撮ってたんで、失敗したらね、ドラマ11話も映画もすべて失敗になっちゃうんで。だから2晩悩んで。う〜ん、だから要するに、最終的に、こういう人いないだろっていうことにはならんだろっていう判断に達して、いるかもっていうくらいに注意してやろうって決意したんですけど」
―脚本の永森さんが、二郎役は佐藤さんにあて書きしたと言っていました。こういう二郎みたいな部分が佐藤さんにあるのかなと。
佐藤「...あるかもしれないですねぇ。前に舞台の役であて書きしてもらったときがあって、あとにも先にも(それだけだった)。僕のあて書きって自分で言うのもなんですけど難しいと思うんですよ。でもあて書きしたくなる俳優だと思うんですよ。ちょっと自慢は入ってますけど。ま、自慢ですこれ、自慢です」
―(爆笑)
佐藤「あて書きされやすい俳優というのはすごいうれしい。でね、その(あて書きされた)10年くらい前の舞台の役ですけど、ものすごくフォークソングが好きでそれを若い女の子に語るってシーンがあって、それがすばらしいあて書きだったんですよ。それを思い出して。理屈っぽいじゃないですか。ということは僕にもそういう部分があるのかなと。ただ僕は引きこもりじゃないですよ」
―飲んだりするとものすごく語りに入っちゃうみたいな(笑)
佐藤「アラ!...多少は」
―何を語るんですか?
佐藤「芝居のことを語っちゃう。でもね、たぶん永森さんにもそういう部分があるから書けたんだと思いますよ。テレビ版に『時に』っていうせりふがあって、僕それがすごい好きで。『ところで』って意味なんだけど、『時に』なんて言わないじゃん普通。でも二郎は言いそうじゃん? 『マジマジ、ジーマー』っていうのも映画版にはなかったんだけど、僕が足したのかな。そういう面白いのが永森さんのせりふにはたくさんあって。『ジーマー』なんてねえ、スバラシイせりふだったですよ。そういう言葉遊びを誰かに言うんじゃなくて自分に言って自分で笑っちゃうみたいなところがあるじゃないですか、オタクみたいな人には。そのねぇ、馬鹿馬鹿しさ、ちょうどいい頃合い。『マジ、ジーマー』...ひっくり返しただけじゃん。でもこれはスバラシイ」
―佐藤さんが楽しんで言ってらっしゃるなっていうのがすごくわかりました。
佐藤「「いやいやながら言ってる感じじゃないですよね。うまい棒も台本にあったんですけど、なんでうまい棒じゃなきゃいけないのかわかんない。60本くらい食いましたよ。でもまあ、何でもそうなんだけど、何でそうなんだっていうのがわからないほうが面白さがあるんじゃないかと。理由がわかりすぎちゃうとつまんないし、なんとなくわかるっていうくらいのほうがなんとなく濃いじゃないですか。ね?」

―子犬と心が通じた気がしたっておっしゃってたことがありましたが、どのへんで通じ合ったと?
佐藤「う〜ん......実はない。通じ合ってない。通じた気がしたこともないなあ。ちょっとまずいなあ、あったかなあ...心通じた...かなあ」
―(爆笑)
佐藤「ほんとにないなあ。コヤツ(子犬の一郎)は何も考えてないんで、うらやましいです」
―ロケで、ハードだったことってありましたか?
佐藤「今思うとすごい楽しかったですね、全部。ハードだったのは湖での撮影かなあ。映画版の台本は最初違ったんですよ、樹海で別れた一郎と湖で出会って歌を歌うっていうあのシーンは最初なかった。一郎がポチャンって湖に落ちて死んだと思う部分はあったんですが、泳げなくて死んじゃったと思った一郎が泳いできて、それで一郎もひとつの壁を越えたってことにグッと来て、っていうようなシーンだったんですよ。ところが11月に河口湖行ったら冷たいと。その上イヌなら全部が泳げると思ってたんだけど、生まれたばかりの子犬は泳げないらしいんですよ。下手すれば心臓まひとか起こしちゃうかもしれない、どうしようってことになって書き換えた。永森さんも怪我の功名だったって言うけど、僕が歌うとか、苦しみたくないから一郎のことを忘れようとしていた二郎が逆に一郎から忘れられたかもって思うとか、いろんなことが隠し味になって逆によくなった。イヌが泳げなくて、水温が冷たくてよかった」
―でも逆に佐藤さんが湖に入らなきゃいけなくなった。
佐藤「ええ、ええ。実際に僕は泳げないんですよ。ウエットスーツ着てもやっぱり冷たいですよ。湖には入りましたよ、おぼれているシーンで。足はつくんですけど水は冷たいし絶対1テイクで行きますからって亀井監督が言ってくれて。だいじょぶですよ何回やってもって心にもないこと言って。で、実際におぼれるシーンを撮ったら、すいませんもう1回って。おぼれてるように見えなかった、足がついてるのがばれちゃってるって。あの時は亀井さん譲らなかったですね」
プロデューサー「特典のメイキングにその撮影風景が入ってるんですけど、ほんっとに寒そうだった」
佐藤「(共演の渡辺)哲さんがガハガハ笑ってたからね。あのオヤジ(笑)」
―中年ニートって重いテーマですよね。
佐藤「ホントに二郎みたいな人がいたら、働けよと。甘えるなと言いたい。だけど、この映画の中にもあるんですけど結構深刻な外に出られない事情もあって。もしかして他の人からすると何でもないことかもしれないけど、本人にとってはそれはもう深刻で。この(二郎の)場合、声が聞こえるっていう統合失調症ですよね。人それぞれ理由は違うでしょけど、一番外へ出たいと思ってるのは本人だと思うんですよね。本作には『外に出て自立しよう』なんていうメッセージはあんまりないですけど、でも見た人がもしそうなってくれたらうれしいですよね」
―(二郎は)最後は地球の裏側にまで行ってますからね。
佐藤「いつ外国語覚えたんだよっていうナゾはありますけどね(笑)」
―(爆笑)二郎のお母さんもいつから看護師なんだよっていう、細かいナゾはありますけどね。
佐藤「亀井さんと僕と永森さんが共通認識としてもっていたのは、主人公が映画のアタマとケツで劇的に変わるっていう話はちょっと信用できない。5ミリだけ、ちょっとだけ成長したっていう。5ミリだけ変わったっていうことに心を打つっていうことがあったんで。引きこもりの人に言いたいことってそれかなあ。ちょっとでいいっていう」
1969年愛知県生まれ。'96年、劇団ちからわざを旗揚げし以来すべての公演で作・出演。「電車男」('05)「ごくせん」('08)「33分探偵」('08)など多数のドラマ、「模倣犯」('02)「ピンポン」('02)「ぐるりのこと。」('08)「20世紀少年〜第2章 最後の希望」('09)など多数の映画に出演。最近作は「ちゃんと伝える」('09)「大洗にも星はふるなり」(11月7日公開予定)。またドラマ「ケータイ刑事銭形シリーズ」('02〜)「佐藤四姉妹」('05)「恋する日曜日」('03〜)では脚本も執筆。映画「memo」('08)の初監督&脚本もつとめる
DVD発売・レンタル中 発売/「幼獣マメシバ」製作委員会
セル販売/竹書房 レンタル販売/AMGエンタテインメント
芝二郎35歳、長男、無職。実家の3km圏内から一歩も出ずに引きこもり状態で暮らしてきたが、父が突然他界し、母も家出。親戚一同が気をもむ中、二郎の前にひょっこりマメシバの子犬、一郎が現れた。「イヌなんて100パー無理!」という彼だが、一郎の首輪には母からのメモが。二郎は一郎を連れてメモを追い、母探しの旅に出ることに。