マシュー・エバーハード監督 来日スペシャル・インタビュー

故ウォルト・ディズニーは名作アニメを世に送り出す一方で、'48年から'60年にかけて中・長編合わせて13作もの"自然と冒険記録映画"を製作した。そのディズニーが立ち上げた自然ドキュメンタリーの新レーベル"ディズニーネイチャー"の第1弾「ディズニーネイチャー フラミンゴに隠された地球の秘密」が、8月28日より公開される。大半の人には動物園といった場所でしかなじみのないフラミンゴ。その知られざるフラミンゴの驚異の生態をカメラでとらえた、マシュー・エバーハード監督がPRのため、初来日。そもそもは舞台である、アフリカ、タンザニアのナトロン湖に関する映画を撮ろうと考えていたというエバーハード。やがてフラミンゴを主役にしたこの企画にディズニーネイチャーの記念すべき第1弾として白羽の矢が立ったのだ。過酷だったであろう撮影現場の話を聞きたい!とインタビューに臨んだが、環境保護活動家でもある監督が、作品を通して訴えたかったのは、フラミンゴの生態そのもの以上に、人間と自然の関わりの大切さだった! それにしても、「皇帝ペンギン」のリュック・ジャケ監督もそうだったが、自然ドキュメンタリーの監督は皆、体が大きくたくましい。そして優しい。体力勝負の現場で、動物の真の姿を捉えることのできる監督の条件なのだろうか。

フラミンゴのダンスシーンは絶対にカメラに収めたかった

ー撮影はいつ始めて何年くらいかかったのですか

「2006年末から2008年の頭くらいですね。撮影自体には13カ月ほどかけました。十分な期間だったと思う」

ーその間、ずっとあのナトロン湖にいたのですか

「タンザニアに宣教師が活動拠点として使っていた居住地があって、そこにキャンプを張って生活していました。フィールドとしては過酷だったが、日常は食事の面でもアフリカのいろんな料理も食べられたし、そんなに不自由はなかったよ」

ー物語をつくるに当たって、最もこだわった点というのは何でしょうか

「まず、フラミンゴのダンスのシーンは必ずカメラに収めなければならないというのがありました。次にサンショクウミワシがフラミンゴを狩るというシーンも撮りたかったのですが、それは残念ながら目の前で起こらなかった。代わりにハイエナが襲うシーンは撮ることができました。野生映画をつくるときには、そのとき与えられている状況下で、目的を達成するには何をどう撮り、何を代用できるかといったことの見極めが重要です。その逆で、全く予期せぬ出来事が起こる場合もあります。この作品においては、火山の噴火がそれです。撮影中に起こったので、映画の中に織り込むことにしました。現場では、型どおりではなく、柔軟性をもつことが大切なのです」

とにかくカメラを動かすことが重要。怠慢だとできない撮影です(笑)

ーフラミンゴをあの近距離で撮っていること自体が驚きなのですが、撮影のための苦労や工夫を聞かせてください。

「それはもういっぱいあります(笑)。フラミンゴをカメラに収めるために塩類平原に建てた狭い隠れ小屋の中にこもって撮影したり、ホバークラフトで空を飛んだりね。カメラをいろんな位置に動かし、とにかく足を使って、近くの丘の上から撮影したり、機材を抱えて、火山に登ってそこから撮影することもありました。野生動物を追う撮影に関しては、とにかくカメラをよく動かすこと。これが重要なんです。怠慢だとできませんね(笑)。そういう努力をしなければおもしろい画は撮れない。大変な仕事ですが、僕はそれを楽しみました」

ー雛が卵から孵るシーンがありますが、これは大変な撮影だったのでしょうか

「とにかく細心の注意を払った。彼らのことを尊重しなければならないし、危険にさらしてはならない。私はまず鳥類学者であり、環境保護活動家であり、そしてそんな私がたまたま映画のつくり手となった。というのが自分の位置づけなんです。常にそのスタンスで撮影に臨みました」

ー奥様のメラニー・フィンが脚本を書かれていて、リアンダー・ワードとの共同監督となっていますが、どんな役割分担だったのでしょうか

「基本的には3人の共同作業によって生み出されたものです。ドキュメンタリーと言えども物語の筋書きは必要で、ストーリー上大切なものはメラニーが見極め、リアンダーは音楽も担当した。メラニーは妻でもあるのですが、彼女が『これが重要だ』と言ったら逆らえないということを学んだ(笑)。僕は夫婦間における自分の立場をよく理解しているつもりだからね」

私たちが自然を意識し、理解することが、環境にとっても有益なんです

ーやはり小さなころから動物が好きだったのですか

「そうですね。幼い頃から外へ出て探検するのが好きでした。今の子供たちはあまり外へ出ないと思うけれど、外へ出ていろんな体験をし、周りを観察することによって、いろんなことに気づかずにはいられないし、いろんなことに目が留まる。必然的にね。自分の目を使い、耳を使って観察して知っていく。そうすることによって世界には何があるのかを認識できるんです」

ーそれが本作に込めたメッセージにつながるのですね

「この作品は自然の真実を描いていますが、映画を通して感じていただきたいのは、自然というものは、私たちの身の周りのどこにでもあるものだということを理解してもらいたいということなんです。自分の身近なところで、雲がたれる光景や、花や鳥を目にすることができる。自然を"意識し、理解する"こと。それこそが環境にとっても有益なことだと思います。また、この映画で伝えたいことのひとつは、自然の再生力です。再生できるということは希望でもある。私たちが住む世界、生命というものはとても豊かなものなのです」

ー初来日ですが、仕事柄、異国の地でもまず人間よりも風景や自然に目がいくのでは

「もちろんです。さっきもインタビューを受けながら、窓の外の初めて見る種類のカラスが気になってね。日本のカラスだろうね。すぐに調べなくてはと思いました(笑)」

ー最後にこのプロジェクトの創始者ウォルト・ディズニーへの思いを聞かせてください

「彼のヴィジョンからいろんな恩恵を受けていると言えるでしょう。だからディズニーとして仕事ができたことをうれしく思っています。かつてのディズニーのドキュメンタリーを幼い頃に見た記憶があるけれど、自然の中の奇跡のドラマであるという点では、今もその本質は変わらないと思っています。」

●写真/栗栖誠紀

プロフィール

マシュー・エバーハード

1966年、ロンドン生まれ。10代の頃からアマチュア動物研究家として活動。著名な動物研究家で映画製作者でもあるヒューゴ・ファン・ラヴィックとともにアフリカ、タンザニアのセレンゲティ国立公園を題材にした作品「The Reopard Son(原題)」('96)などにカメラマンとして参加。ほかにナショナル・ジオグラフィック作品等を手掛ける。鳥類学者でもあり、環境保護活動家でもある。初監督映画となる本作では製作、撮影監督を兼任。

ディズニーネイチャー フラミンゴに隠された地球の秘密

8月28日公開  ウォルト・ディズニー・スタジオ配給

アフリカ、タンザニア北部にあるタイロン湖。水の毒性が強く、ほとんどの生物が生きられないため、?死の湖?とも呼ばれるこの湖に、雨期になると100万羽ものフラミンゴが飛来する。彼らは何のためにここにやって来るのか。そして、何が行なわれているのか。奇跡の命のドラマと、そのミステリーに迫る自然ドキュメンタリー。日本語のナレーションを宮?あおいが担当した

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