4人のクリエイターが片桐はいりを"料理"した「片桐はいり4倍速」
片桐はいりスペシャル・インタビュー

一度目にしたら忘れない独特の存在感で、文字通りの"個性派女優"として活躍を続けてきた片桐はいり。そんな彼女の名前をタイトルにした新作DVD『片桐はいり4倍速』が7月17日にリリースされる。松尾スズキ、板尾創路、CMプランナーの赤松隆一郎、辛酸なめ子という4人のクリエイターが、自由な発想で「片桐はいり」を料理したこのオムニバス・ショート・ムービーDVDについて、主演女優である片桐はいりに聞いた。

「私には初対面の人がいないんです(笑)」

ー今回の企画を聞いた時、片桐さんは最初どう思いましたか?

片桐はいり(以下片桐)「もともと私は、表立って出ていくタイプじゃないので、この話を聞いた時はとてもビックリしました。どうしても主役を張りたい、と思ってやってきたわけではないですし、今でもそう思ってるんですけど。でも、クリエイターの皆さんがほんとにやってくださるっていうので。それに背中を押して頂いた感じです。」

ー決して最初は前のめりではなかったと。

片桐「のめれなかったですねぇ(笑)」

ー「主役でなくていい」というスタンスは、もうデビュー当時からずっと変わらずですか?

片桐「そうですね。自分にはそれがいちばん向いてるのかなと思ってますし。それに、ちょこちょこと出たり入ったりする脇役のほうが、自分で考えてやらなきゃいけないことが多くて、意外と大変なことが多いんですよ。私も舞台とかでは主役的なものを振られることもあるんですけど、ある意味では、主役のほうがラクチンな部分もあるんですね。もちろん、主役だから大変は大変なんですけど、脚本は主役を軸に書かれていることが多いから、流れに乗ってやっていけばいい部分も多いんですよ」

ーその意味では、今回の作品は、まさに片桐さんのためだけに作られた作品ですよね。

片桐「そうなんですよ。しかも、相手役の人とガッツリ絡むような場面も少なかったので、もう、それぞれのクリエイターの方たちにおまかせして、それに従っていけばいいだろう、みたいな気分でやってしまいましたけど......って、そんなラクした話をしてもしょうがないですけどね」

ーじゃあ、「主演だ!」って意気込んでやる感じではなかった?

片桐「たとえばこれが舞台だったら、主役なのに『主役じゃございません』って顔をしてたら成立しないですけど、こういう映像作品の場合は、撮られ方によって変わってきますから。いつもの私のような感じでやっていても、ちゃんと主役のように撮っていただけるので。それはそれでおもしろいなぁと思いましたね」

ーそれでも、タイトルに『片桐はいり』というのが入っている以上、これは間違いなく片桐さんの作品なわけで。

片桐「大変ですよね、ホント。ただ今回は、私の作品というより、私という素材をそれぞれの方にお料理していただいたという感じです。あまり自分では意見をもち込まずに、『なんでも言うことを聞きますので、どうぞご自由にお使いください』っていうスタンスでやっていましたね。現場でも、スタッフのひとりひとりに、『もう、ホントにご苦労様でございます。申し訳ございません』って感じで(笑)」

ー4人のクリエイターの方たちは、これまでお仕事でかかわってこられた方ばかりですか?

片桐「まず、松尾さんと板尾さんはお友達です。松尾さんの作品にはこれまで何度も出させていただいてますし、板尾さんとは一度、舞台で夫婦役をやって以来、なぜか夫婦役をやる機会が多くて。勝手にコンビ扱いで(笑)。ただ、お友達とはいっても、普段からお互いのことをしゃべり合ったりしてるわけじゃないんですよ。それなのに、お2人の作品を見ると、『なんで私がこういう人間だってよくわかってるんだろう?』という感じでしたね」

ー赤松さんとはCMで?

片桐「そうですね。何度か使っていただいていて。辛酸さんだけは初めてお会いしました」

ーそれぞれの作品についての印象を聞かせてもらえますか? まずは松尾スズキさん監督・脚本の『部長』。

片桐「やっぱり、4人の中では、これまで演出を受けてる回数が多いだけあって、松尾さんのときは気持ちが楽でしたね。ただ、『部長』は、なぜかアクション・シーンばっかりで。でも、生身の自分ではできないアクションができるように見えたりする、松尾さんのマジックがあったりして。それがおもしろかったですね」

ー次に『受験生』は板尾創路さんの原案によるものですが。

片桐「この作品は、演じたというより、普通に生活している私をそのまま撮られたような内容になってまして。そういう意味では、やってて楽しかったです。無駄口を叩きながら町を歩いてたら勝手に撮られてた、みたいな感じだったので。」

ーちなみにこれは、なぜか街中で何度も片桐はいりを目撃する少年の物語なんですが、実は、僕自身も実際に片桐さんを街でお見かけしてるし、他にも何度か目撃情報を聞いたことがあるんですよ。

片桐「あ、やっぱり。ホント、よく言われるんですよ。そういう意味で、私には初対面の人がいないんです(笑)」

ーみんな、どこかしらで片桐さんに会ってると。

片桐「そう。この前なんか、『ニューヨークで見た』って言われて」

ーそんなところまで(笑)。

片桐「『パリで見た』とも言われたけど、私はパリに行ったことないんですよ」

ーなかには勘違いも多いわけですね。似てる人も、みんな片桐さんだと思われてしまうという。

片桐「たぶん、ほかの方たちだってよく出歩いてるはずなんですけど、私の場合、私だと認識される率が高いみたいです」

ーそして、赤松隆一郎さんが企画、脚本の『ピーコちゃん』。

片桐「この作品は、実は何種類かの結末を撮ったので、私自身も何がねらいなのか、オチがどうなるのか、まったくわからないまま演じてた感じでした。その点では、見ている人といっしょの感覚でおもしろかったです。ただ、寝てるだけのシーンが長かったので、身体的にはハードでしたが(笑)。あと、途中でファッション撮影のようなすごいクレーンカメラとかも出てきたり、いろんな意味で驚きましたね」

ーそして、女性らしい視点で描かれた辛酸なめ子さん監督、脚本の『スピリチュアル マイ ライフ』。

片桐「これはタイトルの通りスピリチュアルなものがテーマになってるんですけど、私は偶然、そういう人に出会う機会が多いんですよ。だから、スピリチュアルな仕事をしている人のイメージがつくりやすくて。その中で、辛酸さんの入り込み方と突き放し方みたいなものが、すごく面白かったですね」

「どんな変な役でもできるほうが、演じる幅が広がって"お得だなぁ"と思うようになりました」

ーDVDのテーマは、各クリエイターが「片桐はいりをどう料理するのか?」ということでしたが、結果的にはどの作品でも、期待を裏切らない一風変わったキャラクターを演じることになりましたね?

片桐「そうなんですよねぇ。特典映像で収録する作品の脚本を一般の方から公募したんですけど、応募があったのが、殺人鬼だったり、正義の味方だったり、変な役が多くて。俳優さんの中には、たまに怪物の役を演じたりする人はいますけど、私の場合、ほぼそれ専門ですからね(笑)。まあ、昔だったら、『私は化け物じゃないんだよ!』って言ってしまうところなんですけど、最近は『そういう役割も、いいかもなぁ』って思い始めてきてます」

ー最近そう思い始めたんですか?

片桐「そう。もう、つい最近ですね。来月にインタビューしていただいたら、違うことを言うかもしれないですけど」

ーでも、SFの登場人物のような役ではなく、日常の中にある異質なものを演じてるところが、なんとも片桐さんっぽいというか。

片桐「あっ、そうですね。言われて気づきましたけど。たしかに、特に扮装してるわけじゃないですしね」

ーたぶん、それがまさに、みんなが感じている"片桐はいりという女優"のイメージなんじゃないでしょうか?

片桐「そうなんでしょうね。私は46歳になったんですけど、30代から40代の女優って役の幅がすごく狭いんですよ。主役はどんどん若い子になっていって、その主役のお友達役にもなれない、かといって、お母さん役にはまだ早い。で、ほかの女優さんはみんなその間に子供を産んで、お母さん役ができる頃になって復帰するでしょ。『ズルしやがって〜』って(笑)。私はその間、『なんでもない普通の役が演じられてこそ上質の俳優だ』みたいなことを思って努力していた気もするんですけど、ここに至って、こういうことになってくると、『もう、いいか』って感じで。そんなに納まらなくてもいいのかなと思って。むしろ、どんな変な役でもできるって考えてたほうが、演じる幅が広がって、すごいお得だなぁと思うようになりました」

ーそういう意味で今回の作品は、25年以上にわたって女優として活躍してこられた片桐さんの、現時点での"集大成"のようなお気持ちはないですか?

片桐「ハハハハハ! いやいや、集大成っていうよりは、逆に、ここからの始まりな感じがしますね。こういうジャンルもアリなのでは?っていう。まあ、そう言えるようになるためには、このDVDが売れてもらわないと困るんですけどね(笑)」

●取材・文/八木賢太郎 ●撮影/栗栖誠紀

プロフィール

片桐はいり

1963年、東京都生まれ。舞台、映画、TVドラマ、エッセイ執筆など幅広く活躍。近年の出演作は映画「相棒シリーズ鑑識・米沢守の事件簿」('09)、「非女子図鑑」('09)、TV「時々迷々」('09)など

片桐はいり4倍速

7月17日発売  (SDP、6090円)

松尾スズキ、板尾創路、CMプランナーの赤松隆一郎、辛酸なめ子の4人が、それぞれ「片桐はいり」をテーマにつくり出したバラエティに富んだ4作品のオムニバス。セルDVD特典として、一般公募で選ばれた脚本による「C型はいりの謎カルテ」や、片桐が松尾、板尾両者とそれぞれ対談した映像なども収録される。

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