
映画における効果音。その存在がいかに重要かを気づかせてくれたサウンド・デザイナーはやはりベン・バートだろう。「スター・ウォーズ エピソードIV 新たなる希望」でそのキャリアをスタートさせ、ダース・ベイダーの声、ライトセーバーの音、R2-D2の声を生み出した"音の天才"だ。そんな彼にとって初のアニメーションとなったのが「ウォーリー」。監督アンドリュー・スタントンのたっての希望でロボット映画を手掛けることになったバートが初来日! 本誌掲載のインタビューに加え、彼の、おたくも真っ青の音への執着をリポートします!

ー「ウォーリー」にはたくさんのロボットが登場します。それぞれの個性をつくるのはやはり大変なのですか。
バート・バート(以下バート) 「僕たちの仕事で最も難しいのは、新たな声をつくることだ。人間は生まれた瞬間からずっと声を分析しつづけている。日常生活というのはつまるところ、耳から入ってくる音声情報を分析することでもあるんだ。だから、音をつくるほうからすればガンファイトや爆発のほうが簡単。観客も寛容になるが、声になるととたんに厳密に変わる。いつも耳にしている音ほど厳しく判断するんだよ。で、ロボットの声をつくるときは人間の声を必ず使うが、それを気づかせないようにしなきゃいけない。さらに、今そのロボットが何を考えているのか感情も表現する。「ウォーリー」にはそんなロボットがたくさん登場する! サウンド・デザイナーとしてはチャレンジングな仕事だった」
ーR2-D2よりも大変でしたか?
バート 「そうだと思うよ。ほら、R2-D2の場合は、常に隣にはC-3POがいて「今、R2-D2が恋に落ちたと言っています」なんて翻訳してくれていた。ところが今回のロボットたちにはそんな通訳はいないんだ。ということは、ウォーリーがイヴに恋した瞬間を声で伝えなきゃいけない。もっと深い感情表現が求められることになるんだよ。ただし、R2-D2よりよかったのは、ウォーリーは演技ができた。ボディランゲージという手がある。その点はだいぶ助かったけどね」
ーあなたは、自作に必ず「ロビンフッドの冒険」('38)の弓矢の飛ぶ音を入れると聞いています。それは本当ですか
バート 「"必ず"じゃないけど、入れているねえ(笑)。もちろん時と場合を考えていて「ウォーリー」でも使っている。ウォーリーが自分の自慢のガラクタをイヴに見せるシーンで電気泡立て器を回すんだが、その音のなかに入っているよ」
ーその弓矢の音が好き、なんですよね。ほかの弓矢じゃダメなんですよね?
バート 「(笑)そうだよ、「ロビンフッド〜」の弓矢が大好きなんだ」
ーそういう音へのこだわりはやはり、子供のころから強かったのですか
バート 「そうだね。幼いころから音が好きだったよ。ビデオのない時代にはTVやラジオの番組を録音してはヘッドホンで何度も何度も繰り返し聞いていた。そうやって気づいたのが、音によっていかに映画や番組が変わるかだったんだ。で、最初は監督を目指してUSC(南カリフォルニア大学)に行ったんだが、僕の音マニアぶりが知られるようになり、あっちこっちから手伝ってくれといわれるようになった。そういう学生はほかにいなかったからねえ(笑)。「スター・ウォーズ」に参加できたのは大学が推薦してくれたからなんだ」

ージョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグとの仕事はどんな感じでやるんですか? 今回のアンドリュー・スタントンとは違ってましたか?
バート 「ジョージとスティーブンはある程度任せてくれるよね。もちろん最初の「スター・ウォーズ」のときは細部にわたって話し合ったけど、それが成功してからはできあがった音を聞かせるだけ。スティーブンの最新作の「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」の場合を例にとると、音と映像が合わさったものを彼に見せ、その後調整するという感じだった。アンドリューの場合は全く違っていて、非常に多くの注文があったよ(笑)。ワンフレームごと、それも細部にわたって確認する仕事をやったね。アニメの場合はワンフレームへのこだわりが実写とは違うからだと思うよ」
ーなるほど、さすがスタントンですね。では、話を戻してもっとあなたのことを教えてください。あなたが最も記憶に残っている映画の音と日常の音は?
バート 「映画はやはり『ロビンフッドの冒険』だろうな。音だけじゃなく映画自体も好きで、母にロビンフッドの衣装をつくってもらい、それを着て飛び回っていたくらいだから(笑)。日常の音は、祖父の使っていた短波ラジオだね。いつも屋根裏部屋で聴いていて、とりわけ局から局へとチャンネルを変えるときに出るチューニングの音が大好きだった。僕にとっては宇宙からの雑音のようだったんだ。「ウォーリー」でも似たような音を使っているよ」
ー「ロビンフッド〜」の弓矢音はオリジナルの映画から録った音なんですか?
バート 「いや、自分でつくったものだ。いろいろ研究し、改心の作になったんだ。とても太い弓矢を25本つくって飛ばしてみたり、試行錯誤のうえ生まれた音でね。実はそれだけに20年もかけたので、自分自身でドキュメンタリー映画をつくったくらいだよ(笑)」
ーそれはスゴイです! ぜひ見たい!
バート 「今度、機会があったらね(笑)」

ーそれでは、音の天才と呼ばれるあなたがつくった数々の音のなかで、最も産みの苦しみを味わったのは?
バート 「うーん...R2-D2かな。前例のない音、それまでのロボットはことばをしゃべっていたから、そういう意味で試行錯誤の連続だった。たぶん1年はかかったと思うよ」
ーじゃあ好きな音は?
バート 「スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐」にチラリとだけ登場しているエイリアン、ポグル(・ザ・レッサー)だね。映画全体で4つくらいしかセリフはないんだけど、とても好きなんだ。彼は昆虫っぽい容姿なので、僕としては話をする昆虫の声をつくったわけさ。そういうのをずっとやってみたかったので思い入れも強いね。ぜひとも今度、聞いてみてよ。とても変わった音だから」
ーはい、聞いてみます! では、最後に改心のサウンドを教えてください!
バート 「そうだな...やっぱりライトセーバーかな。別に産みの苦しみを味わった音ではなく、確か数日でできたんだ。にもかかわらず大きな反響だったし、いまだにみんなの記憶に残っている。そういう意味ではその存在は大きいよね」
1948年、米NY州生まれ。「スター・ウォーズ エピソードIV 新たなる希望」('77)でR2-D2の声やライトセーバーの音をつくりだし、アカデミー賞特別業績賞を受賞。「レイダース 失われたアーク<聖櫃>」('81)では、アカデミー賞音響賞、「E.T.」('82)と「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」('89)でアカデミー賞音響効果編集賞と4つのオスカーに輝く。さらには「スター・ウォーズ エピソードVI ジェダイの帰還」('83)で、アカデミー賞音響賞と音響効果編集賞、「〜エピソード1 ファントム・メナス」('99)で同賞音響効果編集賞にノミネートされるなど、音響の達人。
12月5日(金)公開 ウォルト・ディズニー・スタジオ配給
ピクサーの最新作は、「ファインディング・ニモ」のアンドリュー・スタントン監督によるSFファンタジー。29世紀、人類が捨てたゴミだらけの地球に、ただひとり残されたゴミ処理ロボット、ウォーリー。700年もの孤独の中で、いつの日か、誰かと出会えることを信じて、ゴミを片付けつづけていた。そんなひとりぼっちのウォーリーの前に現われた、ピカピカのロボット"イヴ"。天使のように美しいイヴに恋をしたウォーリーは、彼女の気をひくために必死にアピールする。しかし、ウォーリーが見せた"あるもの"を目にした瞬間、イヴは突然動かなくなってしまう。彼女には、地球の運命を左右する重大な秘密が、隠されていたのだ。宇宙船にさらわれたイヴを救うために、ウォーリーは未知なる宇宙へと旅立つ。それは、想像を超えた壮大な冒険の始まりだった。