初めてほんわか系ドラマを手掛けたSABU監督に直撃インタビュー!

クールで疾走感あふれる作風で知られるSABU監督が、子供と青年のほんわかした日常を描くコミック「うさぎドロップ」を映画化。これまでの作風にほのぼのテイストが加わったハートウォーミングなドラマに。いかなる心境の変化があったのか?

子供を撮るならちゃんと感動できるものを

―「うさぎドロップ」は、「フィール・ヤング」というレディース・コミックの連載マンガが原作ですが、そもそも監督はこのマンガをご存知だったわけでは・・・?

SABU監督(以下監督)「いえいえ違います。このマンガの映画版をしてみたいとプロデューサーから言われて。彼が直接マンガを送ってきたんです」

―マンガをですか、台本ではなくて?

監督「ハイ、マンガを。その時はまだマンガでもりんが大きくなっていなくて」

―まだりんちゃんが子供時代の頃ですね。

監督「ハイ、で読んでみて。最初はこれはどう面白くなるのかなっていう感じで(笑)。このあと(のストーリーが)映画っぽくなるのか?って思ってたけど、全然ならなくて(笑)。で最初焦って、どうエンターテインメントにするか難しいなと思ったんですけど。まだストーリーが決着してない時でしたからね。続いてましたしね、そこは考えながらつくっていけばいいかと思って。あと、子供ものを撮ってみたかったなと思って」

―伺いたいのはまさにそこなんですが、この作品はほんわかしたドラマですよね。今までのSABU監督の作風といえば、疾走感とかクールかつスタイリッシュかつコミカルみたいな(笑)、そう認識させていただいてたんですが。ほのぼの温かいのは、わりと新しい要素かなと感じたんです。この新しい要素はどういう心境の変化で?

監督「数ある中で特にこの原作を、と選んだわけではないんですけど(笑)。でも(自分は)、たとえば歌舞伎をやるならちゃんと伝統的な歌舞伎をやらないとダメなタイプで、それを今ふうにとかそういうタイプではないんです。子供を撮るときはちゃんと感動できるようなのにしようと。わりとマジメなんです(笑)」

―なんとなく存じてます(笑)。

監督「(普段)ふざけてるように振るまうのが大変なんですけどね、真面目ですから」

―ハハハハ。

監督「ええ、そうなんです。だから、子供ものを撮るなら真面目にきっちり頑張って撮ってみようとか、感動できるようなものにしたいっていうのはありました。オファーがあってからの話なんですけどね、最初から子供ものをやるならこうしたいって思ってたわけじゃないんですけど(笑)」

―プロデューサーはどうしてSABU監督に白羽の矢を?

監督「ねえ? たぶんね、(僕なら)このマンガをなんとか映画にできるんじゃないかと思ったんじゃないですかね。マンガはわりと淡々と描いてますよね、だからじゃないですか。でも、任せてくれたんがよかったというかね。(プロデューサーは)原作そのまんまじゃなくていいから、映画的な面白さを期待していますと」

―ほ〜う。この映画は原作ともテレビアニメともまったく違うもので。例えばコウキママがモデルさんだったり、(主人公の松山ケンイチとママ友達の香里奈が正装で踊る)すごくへんてこりんなダンス・シーンとかがあって(笑)、そういうのが挿入されたりするのはすごくSABU監督らしく、遊んでらっしゃるなと。特にあのダンス・シーン。あの意図っていうのはどこから・・・?

監督「なんか面白いシーンは絶対入れてくれって言われてたんで、それで考え付いたんですけど。もともとダンス・シーンって好きなんです。なんでか『弾丸ランナー』とかにも入れてるんですよ」

―そういえば「蟹工船」にもありましたよね、へんてこりんな・・・(笑)

監督「こりゃ面白いって言いながら松山さんが回ってくれたんですけど、(僕は)もともと好きなんです。だからダンスシーンを入れたいと。主人公のダイキチっていうのは独身男性で、自由に恋愛や仕事やってる人で、マンガには出てこないですけど、意外とプライベートではエッチな雑誌があったりとか、そういうことがありそうな」

―そうですよね。

監督「ファミリー映画でそういうのが出てくるのはまずいんで、考えて。主人公の趣味とかを考えていった中で、シンプルな部屋にしようと思って。シンプルでモノトーンというか、家具でもそういうのを選ぶじゃないですか、男って。シックな部屋がおしゃれっぽいというか、トレンディな感じが。で、そこにりんちゃんが来るといろんな色が着いていくっていうか、占領されていくような感じになる」

―ああ、なるほど。

監督「そういうほうがハッキリ(違いが)出るんで。その中で主人公が、マンガにも出てくるんですが、中国語だったり英語だったりをキチンと勉強してる、自分の時間で。海外旅行の雑誌があったり、北欧家具が好きだったりとかかなって考えてたんですけど。で雑誌とかにはきれいなモデルさんが出てるだろうと。それ見てなんか・・・なんていうんですかね(笑)。子供を育てなきゃいけないという状況になった時にまず考えるのは、自分に彼女ができたらどうしようとかですよね。その時の主人公と彼女の対話っていうのを想像したら楽しいかな、と」

―はい。

監督「だいたい、私とあの子のどっちがいいのとか言うんだなあ、オンナというのは(笑)。そういうのを(脚本に)書いていて。そういう中で、主人公が保育園で(香里奈演じる)彼女を見て光が差したときに、プラスっぽい想像がわいたときの展開を考えたら、ダンスをすることになったんですけど(笑)」

―男の人の考える回路として、そういうふうに行きそうだなと。やっぱり男の人はそういうことを考えるんですかね(笑)

監督「そうそう、考えるんですよ(笑)」

―SABU監督ご自身も育児中であるということもあって。やっぱりお父さんとして育児に関わることで自分の中に何か変化が現れるのかな、それを身をもって知ったので作品に現れたのかな、と。

監督「そうですね、(子供ができてから)ホント臆病になったというか。それはホントに。今までね、それこそどこでケンカしようが関係なかったですけど、子供がいるとなると、やられたらヤバイなとかいろんなこと考えたりしますし。どんどんイケイケだったのが臆病になりますからね。走るのも・・・それこそ竹下通りで」

―竹下通り?!

監督「子供のサッカーシューズ買いに行ったんです。そしたら子供がおしっこしたいって言い出して。ガーッと走って」

―ハハハハハ。

監督「で、コンビニがあったんでトイレ貸してくださいって言ったら、貸さないって。ウチは貸してないんですって。『ナニこの野郎、子供がいるんだぞ』とか思いながら隣の喫茶店に行ったらダメって言われて」

―えー?

監督「ほんで結局駅に行ったら、駅員さんが『上です!』って言うんで上の改札へガーッと」

―「もれる〜」みたいな(爆笑)

監督「そうです」

―この作品でも、主人公は朝子供を抱えて走るわ、迷子になっちゃって心配するわで、きっと経験者でないとわからない心境なんだろうなと。

監督「ああ、そうですね。松山君にも言ったんですけど、子供が(迷子になって)いなくなった時は焦りましたね〜。泣けてくるんですよ、不思議と」

―心配のあまり?

監督「そうですね、それを説明しましたけど」

芦田愛菜ちゃんは完璧なプロ

―キャストの話ですが、今は何はともあれ、りん役のこの彼女(芦田愛菜)じゃないですか、世の中的には。でも本作を撮られたときは「マルモのおきて」より前だったので、(彼女は)今ほどブレイクしてなくて、そういう意味では一足早く見初められたというか。監督は女優を見る目があったということなんでしょうか?

監督「いいですね、かっこいいですね、それ(笑)」

―実際に愛菜ちゃんを演出されてみてどうでしたか? やっぱりちょっと違うな、とかあったんでしょうか?

監督「いやあ、彼女は完璧ですよ」


―カンペキ!?

監督「ハイ。すごかったですよ。愛菜ちゃんは本当に(映画と)理解してるんで、もう完璧でしたね。保育園の中のシーンで子供たちがわーっといっぱいいる時に、子供ってカメラとか持っていくと何々?って来ますよね」

―うんうん。

監督「でも愛菜ちゃんだけは撮影ってちゃんと理解してるんです。こっそり盗み撮りみたいに撮ったんですが、愛菜ちゃんが何か描いてると子供が勝手に愛菜ちゃんとこ行って、何描いてるの〜とか言うんですけど、愛菜ちゃん完全に無視しますからね」

―へえ〜〜。

監督「男前っていうか。すごいなーって思って。セリフがあるシーンであればちゃんとしゃべらなきゃいけないとか、今は違うとかわかってるんです。しゃべらない時に話しかけられても無視できるっていうのは、シーン自体をちゃんとわかってる、理解してるってこと。でも途中の休憩時間なんかはすごい弾けようで、他の子たちと。だからプロ!っていうかね」

―愛菜ちゃんは本作にはオーディションで選ばれたんですよね。どうでしたか、オーディションの時。

監督「圧倒的でした。その時は連ドラやってたんですよね」

―(ドラマの)「Mother」でプチブレイクしたんですよね。

監督「それも見たんですけど、(そこではマンガの)りんちゃんのイメージとはだいぶ違ってて、あまり期待してなかった。オーディションの日も彼女は仕事があって遅れてきたんです。それまでに何人か見てて愛菜ちゃん待ちだった。ちょっと雰囲気が(りんちゃんに)似てる子が残ってたんで、この子かなと思ってたんですよ。そしたら愛菜ちゃんが『遅れてすいません!』とか言いながら入ってきて」

―本人がですか、お母さんじゃなくて? いやあプロだな。

監督「スゲーなとか思って。でお芝居をやってくれって頼んだんですね、こんな感じでって。そしたら愛菜ちゃん圧倒的にうまかった。アドリブも続くんで、それが終わった時こりゃスゴイなーと」

―賢い子なんですね〜。

監督「ええ、それまではこっちのこの子のほうがカワイイかなとも思ってたんですが、モニターを通して見たら、愛菜ちゃんがきっちり芝居をした時のかわいさにビックリしたんです。あれ、こんなに可愛かったっけ?と」

―モニターを通すイコール映画になった時のことを考えて。

監督「演技をきっちりしてる時の顔であったり、待ってる時の顔であったりがスゴイかわいさですもんね」

―今は国民的子役になって、このご時勢、彼女で業界すべてが回ってるみたいになっちゃってるんで、伺いたかったんです。やっぱりそうだったんですね〜。

監督「ええ」

―(主人公ダイキチ役の)マツケンさんも最近本当にパパになられたじゃないですか。でも彼も本作で一足早く予行演習をしていて。これもまたある意味、監督に見る目があったのかなと。なぜ彼を起用したんですか?

監督「僕は彼が好きだったし、一緒にやってみたかった。彼のこういう役、スーツ姿も見たことがなかったんで、面白いかなと思って。実際最初に会ったときはもうこういう感じで現れたんですけどね、短い髪で。なんだこりゃ今までと全然違うぞと思って」

―そうですよね、これまでの松山さんと全然違いますもんね。

監督「他の撮影で坊主に近い頭にしなきゃいけなかったみたいで、そんなキャラやった?みたいな(笑)」

―より会社員化したっていうか。

監督「デキるサラリーマンに見えるっていうか、ビジュアルをあんまり気にしないって意味で。それでダイキチは彼でよかったなと思いました」

―松山さんは子役と絡むのも初めてだったんじゃないかと思いますけど、愛菜ちゃんとのやりとりはどうでしたか?

監督「役者さんって結構アピールするでしょ、自分子供好きですみたいなことを。でも彼は本気なんです。本気で遊んでる。しかも撮影中ハンパじゃなく暑くて大変で、クーラーもないし締め切ってますしね。普通クルマに戻ったり体力もたないくらいの中で、子供に高い高いとか(笑)延々やってるんです。それもポーズじゃなく誰のためでもなくやってるんで、ホントに。松山君は役の延長でやってたんかもしれないですけど、ずっとやり続けるから」

―子供をかまうのが本当に嫌いじゃない人でよかった。

監督「愛菜ちゃんカワイイですしね」

―ハハハハ。

監督「子供ってしつこかったりするじゃないですか。でも彼女はそうじゃないんで、ホントに楽しかったんだと思います」

―それなら、こうしろああしろと監督が手を入れなくてもすんだ?

監督「ホントに。子役が全然違ってたらまた違ってた。撮影はけっこう臨機応変にやってたから、より松山君の地に近い感じが出てリアルになったんじゃないかと思ったですね」

―昔、松山さんが今よりもうちょっとスタイリッシュな頃に取材させていただいたことがあるんです。実は中身はこういう人なんですね。Lをやろうとも加藤をやろうとも、しゃべると青森弁みたいな(笑)、そういうところが子供に伝わってたんでしょうね。でもこのまま大きくなってほしいですよね、ヘンに"女の子"になってしまわずに。ところで、この作品のテーマは、自分の子じゃない子供を引き取って育てることで本人も周りも成長していくということだと思うんですが、監督も子育てをすることで、何を受け入れ、何を諦めなきゃいけなかったのか。何をやるって決意していかなきゃいけないと思われましたか? 男が父になるとき、何をもって父になるんでしょうか?

監督「どうなんでしょうかね。あまり考えて頑張りすぎても大変なところがあるっていうか。昔はお父さんってもっといい加減だったですよね、その分なんか輝いてた。今はいいお父さんが多い、子供のために何かやってあげたり。でもそれをやりすぎたら深みにはまっていくんじゃないかっていう」

―竹下通りに靴買いに(笑)

監督「行っちゃいますからね、(子供が)サッカーやりたいって言うたらね。でもそういうときに、自分はそんなことなかったなあ、自分で切り開けボケっていう(笑)」

―ある時はそう思ってみたり。

監督「そうそう。でも結局はお金ですね。お金がしっかりあれば何かやりたい時に、例えば海外に行きたいっていう時に行かしてやれるっていうふうにはなりたいと思います」

―父親として、本人がやりたいことをできるための下準備だけはしてあげる。

監督「うん」

―やっぱりそれはお金なんでしょうか?

監督「まあねえ(笑)。いつ死ぬかわからんとかいう話になると、しっかり残しとかなあかんって」

―次回作は決まっていますか?

監督「監督の話はいくつか来てはいますけど、決まってはいないです。これからは小説を書いて映画化するというスタイルにしていきたいと」

―そうなんですか?

監督「ハイ、できるだけ。大変ですけど。できるだけやったことないもの、今までにないものを。『うさぎドロップ』で丸くなったって言われるんで、まだ削れてないぞと」

―もうひとつお願いなんですけど、俳優さん業もまたひとつ・・・。

監督「それ、あちこちで言うといてください、なかなか声がかからないんで。なんかね、つくってる人が(同業者に)見られたくないんですよ、やっぱり。三池さんくらいですよ、呼んでくれるの。もっとジジイになったらもっと出ようかな。ジジイがいるだけでいいっていう設定があるじゃないですか(笑)」

プロフィール

「うさぎドロップ」

2月2日DVD&ブルーレイリリース
販売元 ハピネット
税込価格)BD/¥5,040 DVD/¥4,095


彼女ナシ27歳、フツーのサラリーマンのダイキチが、祖父の葬式で出会ったのは6歳になる女の子、りん。なんと祖父の隠し子だという。親戚一同はその事実にドン引き。ダイキチは男気を見せ、彼女を引き取ることに。突然慣れない子育てが始まったダイキチの生活は大混乱に陥る。

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