設楽統のこの映画にしたら? Vol.41「海よりもまだ深く」
2016年11月29日

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良多の心情に重ねて、改めて考えた
「かつて自分がなりたかった大人になれている」のだろうか?

――今月選んでいただいたのは、久しぶりの日本映画ですね。

観る前は、タイトルから監督の前々作「そして父になる」のような、泣けて〝ほっこりする〟家族の話を想像していたんです。そしたら意外とシニカルでビックリしました。仕事や家庭がうまくいっていないということ。親が年をとるということ。未来は決して明るくはないけど、明日は否応なくやってくるから生きていかないといけない――そんなメッセージを感じました。

――主人公の良多と設楽さんは同世代ですね。

そうそう。阿部寛さん演じる良多に感情移入してしまって、観終わった後はズドーンときましたよ。別れた息子に会いたくてもなかなか会えないのが切なくてね……。「海よりもまだ深く」というタイトルは、もがいても沈んでいく良多の人生を表しているのかと思ってしまったぐらい。そして、阿部さんの背の高さが感じられないほど、良多の器の小ささがのりうつっていました。実家で母親のへそくりを捜すシーンや、息子に野球のスパイクシューズを買ってあげようとしたけどお金がなくてわざと汚して値切るシーンなんか、もうどうしようもなくダメで。でも、良多はダメ男だけど、愛すべきダメ男なんです!

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――設楽さんと良多は、仕事も境遇も違いますが、感情移入できたのはなぜだと思いますか?

もちろん同世代ってこともあると思いますが、些細な日常の描写にリアリティがあるからでしょうね。まず、台風が直撃するクライマックスに至るまでの何気ないシーンに「台風が接近している」という振りがちゃんときいているんですよ。そうして台風がきて、日常が一気に非日常になる。すごく丁寧に作られていて、静かな中にも淡々としたロジックが組み込まれているんです。

台風がきてソワソワする感じとかカルピスを凍らせてアイスにするとか線香立てに燃えカスが溜まって線香が刺さらない描写とか、どこか懐かしくて。自分の人生を投影しながら良多の暮らしを観ていました。物語には一見関係ないように思えることでも、そうした些細なリアリティが隠し味となって、全体にコクが出ると思うんです。この作品も細かいこだわりの積み重ねで出来ている。これが是枝監督の作風なんだと改めて思いました。

――線香が刺さらず、良多が線香立てを掃除するのは、監督自身が実際に経験したことなんだそうです。設楽さんも、自分たちの日々の暮らしをコントに反映してみることはありますか?

そうですね。昔、おぎやはぎとバナナマンで「epoch TV square」(BS日テレ)というコント番組をやっていて。お客さんの前で、マンションの一室を舞台にしたワンシチュエーション・コメディをやるんですが、あるコントで「いつもいっしょにいる仲間が集まる部屋でおならをしても誰も突っ込まない」というくだりを入れたんです。でもその後、何の説明もなくコントが続くから、お客さんは「ヘンな音がした?」「したよね?」とざわつき、“仲間たちの日常”という意図が伝わらなかったことがあって。そのとき“リアル”と“リアリティ”は違うんだなと気づきました。

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――リアリティといえば、登場人物たちの日常会話も面白いですよね。

僕が特に印象に残ったのは、良多の「カレーにはグリンピースを入れろ。色が“あれ”するだろ」というセリフです。劇中、良多や母親、良多のお姉さんが頻繁に言う「あれ」という口癖。こんな曖昧なことばでも意味が伝わってしまうのが“家族”というものなのかもしれません。そしてそんな家族の何気ない口癖が、良多の元妻にもうつっているのがおもしろいし、まだ完全に良多やその家族と縁が切れていない関係性をみごとに表していると思いました。

――本作のテーマは「なりたかった大人になれているのか?」ですが、設楽さんはどう受け取りましたか?

僕は恵まれていると思うけれど、果たして今立っている場所が目的地だったかハッキリとした正解はわからなくて。現状に満足していたとしても、ふとした瞬間「違うことをやっていたらどんな人生だったかな?」と思うこともある。本当の「なりたかった自分」とは? 正解を探す旅は、まだまだ続きそうです。

■今月の一本

「海よりもまだ深く」
15年前に新人賞を一度受賞したきり鳴かず飛ばずの作家、良多は、別れた妻と息子に未練たっぷり。生活費を稼ぐため探偵事務所に勤めるが、周囲には「小説の取材のため」と言い訳し、隙を見てはギャンブル三昧。作家の夢を捨て切れず、思い通りにいかない人生に葛藤する良多は、偶然実家に集まった母、元妻、息子と台風の一夜を過ごす。

監督・脚本・原案・編集/是枝裕和
音楽・主題歌/ハナレグミ
出演/阿部寛 真木よう子 小林聡美 リリー・フランキー 池松壮亮 吉沢太陽 橋爪功 樹木希林

■プロフィール
1973年、埼玉県生まれ。’93年に日村勇紀とバナナマン結成。「ノンストップ!」(フジテレビ系)で司会を務めるほか、「バナナマンのせっかくグルメ!」(TBS系)、「バナナ♪ゼロミュージック」(NHK総合)、「沸騰ワード10」(日本テレビ系)などレギュラー多数。

■バナナマンinformation
「ペット」のBD&DVDが12月21日リリース。本誌1月号で設楽さんのコメント交えてご紹介します。また夏に開催されて大盛況だった「bananaman live『腹黒の生意気』」のDVDも2017年2月2日リリースが決定。こちらの詳報は本誌2月号(1月20日発売)に掲載!

(c)2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ
撮影/杉 映貴子