設楽統のこの映画にしたら? Vol.38「リリーのすべて」
2016年8月29日

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「男とは」「女とは」を考えさせられ、主人公の葛藤を生々しく感じた

――前号の「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」から一転、今月はしっとりとした夫婦の物語を選んでいただきました。

僕はこの連載を始めるまで、1本の映画についてそこまで深く考えることがなかったんですよ。でも今回の作品はだいぶ考えさせられました! まず主人公アイナーが女性性に目覚めていく過程が生々しかった。最初は“男が女装してます!”みたいな感じだったのに、細かい所作や伏せ目がちな表情とか、アイナーがだんだんと身も心も女性になっていくんです。そしてリリーになった自分に喜びを隠せない姿が、本当にピュアで純粋。

――リリーを演じるのは「博士と彼女のセオリー」(’14)でオスカーを受賞したエディ・レッドメイン。

男性が女性を演じる映画は他にもたくさんあるけど、彼(エディ・レッドメイン)はちょっとレベルが違う。もちろん所作が美しいのは当たり前で、気持ちが女性にのりうつっている感じ。役づくりのスゴさに見入っちゃいましたし、演技派俳優としてノリにノッていますよね。

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――心と体が一致しないアイナー。私たちの想像以上につらかったんでしょうね。

劇中で、アイナーがつぶやく「毎朝“今日こそ1日でアイナーでいよう”と誓う」というひと言も切なくて……。破滅に向かうのは分かっていても、リリーとして生きたいと願う彼の衝動を感じる場面でした。

――一方、妻のゲルダについてはどう感じましたか?

奥さんは……まぁ複雑ですよね。だって、夫婦として一番ラブラブの時に旦那が旦那でなくなっていくわけで。他の女性と浮気された!みたいな話とはワケが違いますから。それでも献身的に寄り添うのがスゴいなと。

――妻としてはつらいですが、リリーを描くことで画家としては成功するのがとても皮肉ですよね。

観終わった後に、彼女が実際に描いた絵画を調べたら、劇中の作品以上にポップだったんですよ。この時代は、今みたいに理解のある人たちばかりじゃなかった。アイナーを病院に連れて行ったら、精神病を疑われるぐらいだし。でもゲルダは妻であると同時に、画家として時代の先駆者であろうとしたからこそ、美しいものへの探究心に突き動かされ、夫のことを理解できたのかもしれないですね。

――映像的に注目したポイントはどこでしょうか。

画家夫婦の物語にふさわしく、窓から差し込む光や風に揺れるカーテンとか、まるで一枚の絵を見ているような映画だなと。監督は「英国王のスピーチ」(’10)の監督さん。空間づくりはうまいし、なんというか“静かな青”を感じました。

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――設楽さんはアイナーのように「新しい自分に目覚めた!」という経験はありますか?

アイナーの“自分を解き放つ”快感はなんとなく分かるんです。というのも、僕はもともと人前でわーっと話すということが得意ではなくて。でもこの仕事を始めてから、自分を解放することでお客さんに笑ってもらった時の気持ちよさを知ることができたんですよね。毎年単独ライブを準備している最中は“生みの苦しみ”を感じていますが、生まれた時の快感は何ものにも代えがたい。

――ありのままの自分を追い求めたリリーが迎える結末が切ないです。

誰もが感じたことがあると思うんです、本当の自分はどこにあるんだろう?って。でもそれを見つけるのってなかなか難しい。でもアイナーはみずから選んで決めたうえで“本当の自分”に到達できた。悲しい結末だったけど、その瞬間に見せた笑顔は、ホントに美しかったですね。

――印象に残ったセリフを教えてください。

アイナーの言う「自分が何者か知らずに生きられない」ですね。自分が何者かを説明できる人なんていないし、答えのない“禅問答”みたいなものだと思います。考えてみると、小さい頃は「将来はこんな大人になるんだ!」って漠然と想像していたけれど、大人になると現実はうまいこといかなくて、あきらめの気持ちも出てきてしまう。それでも“何者かでありたい”という願望はみんな秘めているはず。本当の自分探しをあきらめきれない複雑な大人心を刺激する深いひと言だと思います。

■今月の一本

「リリーのすべて」
世界初の性別適合手術で女性になった画家と妻の姿を綴った伝記ドラマ。舞台は1926年のデンマーク。画家の妻ゲルダに頼まれ女性モデルの代役を務めたことを引き金に、自身の女性性に目覚めたアイナー。彼は“リリー”として過ごす時間が多くなっていく。ゲルダはそんな夫の変化に戸惑いつつも、一番の理解者としてリリーを支えつづける。

監督・製作/トム・フーパー
原作/デヴィッド・エバーショフ
出演/エディ・レッドメイン アリシア・ヴィキャンデル ベン・ウィショー アンバー・ハード マティアス・スーナールツ

■プロフィール
1973年、埼玉県生まれ。’93年に日村勇紀とバナナマン結成。「ノンストップ!」で司会を務めるほか、「そんなバカなマン」「モシモノふたり~タレントが“おためし同居生活”してみました~」(共にフジテレビ系)、「沸騰ワード10」(日本テレビ系)、「クレイジージャーニー」(TBS系)に出演。

■バナナマンinformation
「ミニオンズ」(’15)のユニバーサル・スタジオとイルミネーション・エンターテインメントの最新作「ペット」が大ヒット公開中。設楽と日村が、それぞれ外見もそっくりな主役犬マックス&デュークの声を担当している。短編「ミニオン:アルバイト大作戦」同時上映。

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撮影/杉 映貴子